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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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19/50

恐怖の勅命

「……いよいよ、この時が来たわね」


ガタゴトと揺れる豪華な馬車の窓から、私は遠ざかる公爵邸を眺めていた。

王宮からの「召喚状」。それは、国王フェリクス自らが「ステラ・キャットを連れて参れ」と下した、拒否権のない勅命だった。


(終わった。完全に詰んだわ……)


私の脳内では、前世の社畜時代に鍛え上げられた「最悪のシミュレーション」が高速回転していた。

聖獣という肩書きを盾にした内乱の首謀者として疑われている? あるいは、その希少な魔力を戦争の兵器として利用される? もしかして、レオヴィルの規律を乱した元凶として、見せしめに処刑……!?


「大丈夫だよ、ステラ。私がついている。何があっても君を守り抜くさ」


レオヴィルがいつになく真剣な表情で私を抱き寄せた。その瞳に宿る覚悟が、逆に私の恐怖を煽る。


(レオヴィル……あんたがそんな顔するってことは、やっぱり命懸けの場所なのね! さようなら、カトリーナ、リネット、セドリック、食いしん坊のモグ、クーデレのギル、ファンのララ……私の体と心を支えてくれた大勢の使用人達と猫たち、そしてルンバス2号。みんな、強く、強く生きてね……!)


馬車が王城に到着すると、視界に飛び込んできたのは圧倒的な「富」の奔流だった。

白亜の壁には金細工の紋章が踊り、整列した近衛兵たちの鎧は陽光を反射して眩い。公爵邸も十分リッチだったが、ここは桁が違った。


宝石を散りばめたような至高の庭園……。

まず目に飛び込んできたのは、視界の端まで続く「虹色の庭園」だった。

ただの花々でない。花弁の一枚一枚が絹のような光沢を放ち、風に揺れるたびに、まるで誰かが真珠を転がしたような微かな音を奏でている。

庭園の中央を流れる水路は、底に敷き詰められた白金プラチナのせいで、水そのものが発光しているように見えた。

等間隔に並ぶ並木道には、熟した赤色の果実が実り、その甘い香りが空気を琥珀色に染め上げ、足元を飾るのは、磨き抜かれた純白の大理石。あまりの美しさに、泥のついた靴で歩くと酷そうと余計な事を考えていた。


(わぁ、凄い。まるで歴史映画のセットみたい……)

驚きしか出なかった。


そして、その庭園の先に鎮座するのは、王が住まう「白亜の巨塔」。


見上げすぎて首が痛くなるほどの高さ。外壁はただの石造りではなく、細かな魔力の結晶がこれでもかと練り込まれている。宝石達が太陽の光を反射して七色に輝やいていた。


(これは建物というより、地上に降りたった巨大な宝石だわ……)


そうこうして、王城の内装にも見惚れていた私だったが、重厚な扉が開かれた瞬間、再び現実に引き戻された。

そこは、天井まで届くステンドグラスから光が降り注ぐ「謁見の間」。

突き当たりの玉座には、威厳に満ちた初老の男――国王フェリクスが鎮座していた。


(ひっ……。緊張で肉球に汗をかくなんて、初めてだわ……)


私は恐怖のあまり、意識が半分飛びかけていた。口の端からは魂のようなものが漏れ出し、目は半白目状態。未来の絶望的なイメトレで脳が融解しそうだった。


「よく来た、レオヴィル。それが例の聖獣、ステラだな」


王の声が、広く冷たい広間に低く響き渡る。


「ええ、陛下。如何にも。我が魂の片割れ、ステラにございます」


レオヴィルの声もまた、これまでに聞いたことがないほど硬く、シリアスだった。

王がゆっくりと玉座を立ち、こちらへ歩み寄ってくる。一歩、また一歩。

兵士たちが槍を握り直し、空気が張り詰める。


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。

私の心臓は張り裂けそうなほどの鼓動を激しく刻んでいた。


(来る……! 処刑宣告か、それとも禁忌の呪いか……! 来るわよ、私の最期が!!)


ゴクリと息を呑み、王をじっと半白目で見据える。


王が私の鼻先に手を伸ばした。私は思わずギュッと目を閉じる。

しかし。


「おぉ〜……! なんという素晴らしい毛並み! そして、見てくれこの愛おしい肉球♪ 桃色を超えた、これはまさに『曙光のピンク』ではないか! さすが聖獣!」


「…………えっ?」


ブラックホールのような混沌に、私の感情が吸い込まれていった。

目を開けると、そこには威厳など、なぐり捨て、這いつくばるような姿勢で私の肉球を愛でる国王の姿があった。


「フェリクス王。……『見るだけ』との約束ですぞ。あまり触れられては、ステラが怯えてしまいます」


レオヴィルがサッと私を抱き上げた。


「よいでないか、レオヴィル! 予との仲ではないか! 聖獣の肉球を味わう権利くらいあるはずだ! 頼む、あと一揉みだけさせてくれ!!」


なんと、この国の最高権力者・フェリクス王は、レオヴィルを凌駕するレベルの「超・猫好き」かつ「重度の肉球マニア」だった。


でも冷静になった今ならはっきりと分かった。王からは様々な猫のにおいがしていた。ついさっきまで、数匹の猫が王にスリスリしていたのが手に取るように分かったからだ。


「陛下といえど、この子を奪おうとするなら、私はこの場で反逆も辞しませんぞ」


「物騒なことを言うな! 予も一国の主として、略奪などという無粋な真似はせん。ただ……少し、レンタルしてはくれぬか? 代わりに騎士団に望みの予算を与えよう」


「断ります!!」


(……ちょっと。一国の王が、猫をレンタルって……)


目の前で繰り広げられる、世界で一番偏差値の低いトップ会談。

私は確信した。

私が今まで、レオヴィルが私に現を抜かしてクビになるんじゃないかと心配していたのは、完全なる時間の無駄だったのだ。

なぜなら、上司である王様が「これ」なのだから。


(……ああ。もう、終わりだね。この国)


王が「ふにふに、にゃんにゃん」と幼児退行したような声で私の前足を揉んでくる。

レオヴィルは「陛下、肉球への接触は控えてください!」とガードに必死だ。


私は、遠い目をして豪華な天井を見上げた。

さようなら、私の緊張。さようなら、私の常識。

私は恒例の白目をむきながら、欲望と毛並みに支配されたこの国の行く末を案じ、静かに魂を口から吐き出すのだった。

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