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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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騎士の浮気と言語問題

「……うっ。何、この新鮮な嗅いだことのない匂いは」


任務から帰宅したレオヴィルが、執務服も着替えずに私を抱き上げようとした瞬間、私の鼻腔を未知の刺激が襲った。

それは、ツンとする硝煙の匂いと、どこか湿った土、そして見たこともない野生の魔獣の脂が混ざり合った、強烈な「外の世界」の異臭だった。


私は思わず顔を背け、口を半開きにして虚空を見つめた。猫特有の生理現象――新しい匂いを確認するための「フレーメン反応」だ。自分では必死に分析しているつもりなのだが、客観的に見れば、マぬけ面で固まっているだけである。


「……っ! ステラ、今のは……!?」


レオヴィルが衝撃を受けたように目を見開いた。


「今、君は他の匂いをつけて帰った私を拒絶したのかい? ……そうか、嫉妬だね! 君は私が外で別の魔獣と戯れてきたのではないかと、そう疑って、深く傷ついているんだね!?」


(違うわよ。単に獣の臭いがついているだけよ! お風呂入ってきなさいな!)


「すまない、ステラ! 私の天使、私の唯一の光! 浮気など、誓ってしていない! あの魔獣はただ追い払っただけだ。私の心には、いつだって君という名の白い星が輝いているんだ。許してくれ、跪くから!」


レオヴィルは豪華な絨毯に膝をつき、私の前足をとってドラマチックな愛の告白を始めた。騎士団長が猫に対して全霊の謝罪を捧げるという、国家的な損失レベルの無駄な時間。


そこへ、冷ややかな声が降ってきた。


「兄様、それは単なる『フレーメン反応』ですわ。新しい匂いを取り込もうとして、鼻の粘膜を広げているだけ。……嫉妬などという高度な感情、ステラが兄様なんかに抱くはずありませんわ。自意識過剰も甚だしいですわね」


通りかかったカトリーナが、扇子で口元を隠しながら無表情で言い放つ。


(……カトリーナ! あんた、たまに本当にまともなこと言うわね! 助かるわ!)


レオヴィルは「……カトリーナ、お前にはロマンがない。これは魂の共鳴なのだ!」と反論しているが、カトリーナは「はいはい」と聞き流して去っていった。

この屋敷で唯一、生物学的な正論をレオヴィルに堂々と吐けるカトリーナの存在に、私は心底救われる思いだった。


昼下がり。

私はルンバス2号(安全性特化型)の上に、リネットに頼んで用意してもらった「特製・鴨肉のテリーヌ(猫用)」を山ほど乗せて、裏庭の集会所へと向かった。


「わあぁ! ステラ様、今日もご馳走だね!」

「最高だよぉ、ステラちゃん! 僕、この脂身なら一生食べていられるよぉ」


モグが夢中でテリーヌに顔を突っ込み、食レポばりの唸り声を上げている。他の猫達も同様だ。

ララも「さすが聖獣様、差し入れのセンスも世界規模ですわ!」と目を輝かせている。

そんな和気あいあいとした空気の中、一匹だけ食事に手を付けず、私をじっと観察している奴がいた。ギルだ。


「……おい、ステラ。前から思ってたんだが、お前の喋り方、なんか変だぞ」


(……え? 変?)


「なんて言うか……。イントネーションが独特なんだよな。猫語の基本である『にゃ』の跳ね上げ方とかが、妙に理性的というか、どこかの領地の訛りみたいだ」


(……ギル、鋭いわね。元人間だってバレるほどじゃないでしょうけど)


私が「にゃ、にゃーん(別に、普通でしょ? 気のせいよ)」と返すと、ギルはさらに眉をひそめた。


「ほら、今のだ。普通はもっと、こう……本能に任せて鼻を鳴らすもんだろ。お前のは、まるで言葉の意味を一度脳内で咀嚼してから出力してるみたいな……学者の喋り方なんだよ。猫っぽくねえ」


「……っ、それは……聖獣様だからに決まってますわ!」

横からララが加勢してくれた。

「聖獣様は、この世界のすべての言語を超越していらっしゃるのよ! だからこそ、私たち凡俗な猫には『高尚な訛り』に聞こえるんですわ。これこそが『聖なるアクセント』なのよ!」


(ララ……。あんたの盲目的なファン魂、時々怖いわよ)


「ふぅん……。まあ、聖獣様ならそうなのかもな。……お前の訛り、どっかの酔っ払った王宮魔導師に似てて笑えるけどよ」


ギルはそう言って、ようやくテリーヌを一口齧った。


(王宮魔導師……。まあ、元人間だし、知的な雰囲気が出ちゃうのは仕方ないわよね)


猫社会での「異質感」を、聖獣という肩書きでなんとか誤魔化しつつ。

私は、相変わらず「これ、肉の繊維が銀河のハーモニーを奏でてるよぉ」と、謎のレビューを続けるモグの横で、のどかな午後のひと時を過ごすのだった。

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