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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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令嬢の秘密と騎士の執念

「お座り……あら! お手……あらら!! 優雅な歩き……なんと!? では……左へ三歩、そこで気高く顎を上げ、視線は遠くの領土を見据えるように……。ああ、完璧です! 完璧です!! ステラ様! これぞ真の王者の風格! カトリーナ様、これほど素晴らしい猫様はお会いした事が御座いません!」


公爵邸の広間では、王都一の厳格さで知られるらしい、マナー講師の女性の叫び声が響いていた。

カトリーナが「社交界デビューの準備」として呼びつけたのだが、当の私は、ただ彼女の指示が止むのを待って、虚空を眺めていただけである。


(……いや、ただ単に『あー、今日も疲れるわねぇ』って、社畜時代に上司の長話を聞き流してた時の『死んだ目』をしてるだけなんだけど)


しかし、マナー講師は私の絶望的な虚無感を「すべてを悟り、下界を慈しむ聖獣の眼差し」とポジティブに超解釈。隣で一緒に「優雅な歩き方」の特訓を受けているカトリーナも、誇らしげに胸を張っている。


「さすが私の選んだ愛猫、ステラですわ! 兄様には見せられないほど、凛々しい立ち振る舞いですわね」


カトリーナはそのまま、私と一緒にステップを踏む練習を始めた。

かつて、前世の私が職場で誰かと笑い合う余裕なんてなかった頃を思い出し、私は少しだけ可笑しくなった。

最初はバカバカしいと思っていたけれど、この高飛車な令嬢、カトリーナと一緒に「猫マナー」に励む時間は、案外悪くないと思った。

「では、次は……」

でもやっぱりお昼寝したい……。



その夜。

レオヴィルは公務で不在。屋敷は静まり返り、私は「今夜こそ最高の睡眠を」と、主のいないレオヴィルの寝室へ忍び込んだ。

ここのベッドはお気に入りの一つ。この屋敷で一番広くて柔らかい。おまけに天窓が付いており、横たわったまま星空を独り占めできるという、前世の私なら年収分を注ぎ込んでも手が届かないようなロケーションだ。レオヴィルがいないと、この星空をゆっくりと楽しみながら眠りにつくことができる。少し寂しい気もするけど、やっぱり今が最高ね。


(ふふん。主のいない間に、この最高級の寝床を骨の髄まで堪能してやるわ……)


私が月光を浴びながらうとうとして始めると、扉が微かな音を立てて開いた。

入ってきたのは、豪華なネグリジェを纏ったカトリーナだった。


「……ステラ。寝ているのかしら」


(カトリーナ……。今夜はレオヴィルの私への『独占禁止法』が発動してるからって、まさか……)


私はカトリーナの相手をすると長くなりそうだと判断し、反射的に「タヌキ寝入り」を決め込んだ。

カトリーナは足音を忍ばせてベッドの傍らに腰を下ろすと、眠っている(ふりをしている)私の背中を、おそるおそる、けれど愛おしそうに撫で始めた。


「……本当はね、ずっとこうしてお友達と『お泊り会』のようなことをしてみたかったのよ」


カトリーナの独り言が、静かな部屋に溶け出す。


「公爵令嬢として、隙を見せてはいけない。常に完璧で、誰よりも高慢でいなければ、舐められてしまう……。動物もアレルギーのせいで、近付けなかった……。私はずっと……孤独だったわ……。でも、ステラ。あなたといる時だけは、私はただのカトリーナでいられる気がするの。……本当にありがとう、ステラ」


彼女はそう言うと、私の肉球をそっと自分の手に包み込み、「ぷにぷに……」と幸せそうに揉み始めた。


(……カトリーナ。あなたも、令嬢っていう肩書きを背負って戦ってる社畜みたいなものなのね)


元社会人として、その孤独とプレッシャーには、スケールは違えど、共感せざるを得ない部分もあった。

私は「気づいていないふり」を続けながら、彼女が満足するまで肉球を差し出してやることにした。

カトリーナの温かさが伝わってきて、私もいつの間にか、本物の眠りに落ちていった。

カトリーナも一緒に眠ってしまったみたい……。



「……カトリーナ、そこに直れ」


翌日の昼。予定より数時間早く帰還したレオヴィルが、帰宅早々に軍事裁判っぽいものを開始した。

場所はレオヴィルの寝室。食後のリラックスタイムを楽しもうとしていた私は、廊下から聞こえる重苦しい声に耳をそばだてた。


「兄様、何のことですの? 私はただ、お掃除が徹底されているか確認に……」


「言い逃れは無用だ! 見ろ、私のベッドの枕元に落ちていた、このステラの白い毛の山を! ここまではいい。ステラが私の不在を寂しがって、ここで寝ていたという証拠だからな」


(……いや、単に寝心地が良かっただけなんだけど。それに雲一つない夜空だったし)


「だが!!」

レオヴィルの声が、雷鳴のように響く。

「この毛の中に、お前のものと思われる『少し金色掛かった色の長い髪の毛』が、一本だけ、確実に混じって落ちているのはどういうことだ!? お前、昨夜、私のステラと一緒にここで寝たな!?」


「し、知らないわ! 私のドレスの繊維か何かが風に舞ったのよ! 無理すぎる言いがかりはやめてくださる!?」


「嘘をつけ! 指紋ならぬ『髪紋』の鑑定でも何でもしてやる! 兄に無断でステラとの密会を楽しむとは、万死に値するぞ!」


(……一本の髪の毛でそこまで辿り着くなんて、あんたはどこの名探偵よ)


壁越しに聞こえてくる、世界で一番どうでもいい兄妹喧嘩。

私は大きなあくびを一つ。


(……まあ、いいわ。今日も屋敷は平和(?)ね)


私はレオヴィルに見つかる前に、再び昼寝の続きを決め込むべく、カトリーナが隠しておいてくれた秘密の「高級おやつ」の場所へと足を向けるのだった。

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