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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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猫達の願いと演説

「……これ、人間だったら依存症で訴えられるレベルね」


公爵邸の広間に鎮座するのは、レオヴィルが「自身の不在時も、その毛並みを完璧に維持せねばならぬ」という謎の使命感で発注した最新魔道具、『全自動・魔力循環ブラッシング・ポッド』。カトリーナは当初猛反対だったが、四六時中ブラッシングはできない。また私が気持ちよさそうにしているのを見て、諦めた様子。少し残念がってたけど。

卵型の装置の中に足を踏み入れれば、数千本の極細魔法糸が、私の魔力の波長に合わせて、痒いところに手が届く絶妙なタッチで全身を梳き上げてくれる。


(……くっ、悔しいけど最高。前世の安っぽいマッサージ機とは比べ物にならないわ……)


私がポッドの中で「ふにゃああ……」と何もかも溶けかけていた時。

窓の隙間から、銀色の影がスルスルと忍び込んできたのが見えた。ギルだ。

ギルは珍しく、バツが悪そうに視線を逸らしながら、小声で切り出してきた。


「……おい、ステラ。その……変な光る箱?……。それをモグが、どうしても一度使ってみたいって、うるさくてな。……一回だけでいいから、貸してくれないか」


(……あら。ギル、あんた、仲間のために頭を下げに来たの?)


いつも尖っているギルが、仲間の欲求のために「宿敵(自称)」の私に頼み込む姿は、意外と……というか、かなり可愛い。


「いいわよ。別に減るもんじゃないし。持って行きなさいな。」


「……っ、案外物分かりがいいんだな。助かるよ」


私は、かつて私を壁に激突させた「ルンバス2号(安全性向上のための低速モード搭載)」の上に、このブラッシング・ポッドを器用に乗せてやった。私は二度と乗る気はないが、台車代わりにはちょうどいい。


ギルは私と一緒に、音を立てないようにルンバスを操作し(猫の肉球は意外と器用なのだ)、夜の裏庭、いつもの茂みの裏へと運び込んだ。


そこには、期待に目を輝かせたモグやララ、そして集会の面々が息を潜めて待っていた。

「わあぁ! ギル、本当に持ってきてくれたんだね!」

「ステラ様! ありがとうございます!」


次々にポッドに入り、魔力の糸に解かされて「にゃふぅ……」と昇天していく猫たち。

それを見ているだけで、私の心にも、前世では味わえなかった「平穏な達成感」が満ちていく。


「おい、ステラ。お前もモグに呼ばれてるぞ。……俺も、少しだけなら……試してやってもいい」


ギルが照れ隠しに尻尾を振りながら誘ってくる。

私たちは月明かりの下、猫たちと交互に自動ブラッシングを楽しみ、茂みの裏で「ゴロゴロ」という重低音の合唱を響かせた。


だが、この「秘密の夜会」は、猫らしからぬ単なる娯楽では終わらなかった。

ギルが急に、真面目な顔で切り出したのだ。


「……ステラ。お前、せっかくだから皆に何か言ってやってくれ。お前は『聖獣』なんだろ? 難しい言葉の一つでも、こいつらに聞かせてやってくれよ」


(……演説!? 私に何を言わせたいのよ)


しかし、ララや他の猫たちの「聖獣様のお言葉……!」という期待に満ちたキラキラした視線に、私は逃げ場を失った。なぜか少し、猫相手に緊張する私がいた。


私は仕方なく、切り株の上に立ち、喉を整えた。

……何を言えばいい? 聖獣らしい言葉?

いや、私が彼らに伝えられるのは、前世の地獄のような経験から得た、唯一の真理だけだ。


「……えー、皆さん。今日はお集まりいただき、ありがとうございます」


ララが嬉しそうにパチパチと送ってくる。

しかし、猫たちは一斉に静まり返り、いつもは動かしまくっている耳をこちらへ傾けている。


「……皆さんに守ってほしいのは、ただ一つ。『安全第一』です。美味しいご飯を食べるのも、暖かい日向で寝るのも、すべては命あってのこと。特に、あの巨大な鉄の塊(馬車)には絶対に近づかないこと。角を曲がる時は一時停止。体調が悪い時は無理をせず、リネットたちの前で盛大にアピールして休むこと……。健康こそが、最大のスローライフの資本です」


私は、元社畜としての切実な教訓を、誠心誠意、語った。


猫たちは、内容の半分も理解していないはずだ。

だが、ララは「……なんて難しい、けれど深みのあるお言葉……! さすが聖獣様、私たちの生存戦略を世界規模で語っていらっしゃるわ!」と、両手を合わせて見惚れている。

ギルでさえも、「……馬車の回避は重要だな。さすがはステラだ」と、神妙な顔で頷いている。


(……ただの交通安全の標語なんだけど……ていうか、なんでわたし、猫に真面目に演説なんてしてるのかしら……)


私が演説を終えようとしたその時、茂みの影から小さな悲鳴が聞こえた。

振り返ると、そこには夜食の残りを片付けに来たリネットが、トレーを落としそうになりながら立ち尽くしていた。


彼女の目には、月光を背負って高らかに演説する聖獣と、それを敬虔な信者のように拝聴する猫たちの姿が映っていた。


「……ステラ様が、迷える猫たちを、聖なる教えで導いておられる……! まるで神話のワンシーンだわ……」


リネットの頬には、感動の涙が伝っている。


(……あ、またやった。リネット、それ、ただの『交通安全と健康管理』の注意喚起なのよ……)


私はリネットと目が合い、彼女の「全幅の信頼」に満ちた視線を受け止めながら、静かに悟った。

この屋敷で、私の「普通」が「普通」として受け入れられる日は、永遠に来ないのだということを。


「にゃーん(……まあ、いいわ。寝ましょうか)」


私は演説を切り上げ、勘違いで胸をいっぱいにしたリネットと、ブラッシングで毛並みを整えた猫たちに見送られながら、夜の静寂へと戻っていった。

明日、レオヴィルがリネットから「ステラ様の聖なる説法」の話を聞いて、屋敷に「猫用横断歩道」を作りかねないという懸念を、心に秘めながら。

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