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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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聖獣拝観と深夜の救済

「……ちょっと、これ何の行列?」


翌朝、私がいつものように日課のお散歩(屋敷内パトロール)に出かけようと玄関ホールへ向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。

普段は厳格な静寂に包まれている公爵邸の正門から、玄関の馬車寄せにかけて。そこには、どこの国の王族が乗り付けたのかと思うような、金糸の刺繍や魔結晶で彩られた豪華絢爛な馬車が、さながら宝石箱をひっくり返したような長蛇の列を作っていたのだ。


「……あ、ステラ様。おはようございます」


リネット達使用人が、山積みになった「高級贈答品」の整理に追われながら死んだような目で挨拶をしてきた。正確には、リネット以外は、私に怖いぐらいの視線を送ってくる。

側近のセドリックも、山のような『拝観希望者リスト?』と書かれた書類を抱え、指を疲労特有の、プルプルと震わせていた。


「これは、一体全体どういう状況なのよ!?(にゃーん!?)」

「……ああ、ステラ様。聞いてください。どこから噂が漏れたのか、『公爵邸の白い猫の聖獣に触れると難病が完治する』『魔力が底なしに回復する』というデマが、国の貴族たちの間で独り歩きしてしまいまして……」


(デマじゃない部分もあるのが厄介よね……空気清浄機機能とか、魔力安定効果とか)


ホールの扉が開かれると、そこには着飾ったブルジョワたちが「聖なる猫様を一目だけでも!」と、血走った目で押し寄せていた。彼らは私を見るなり、そして、私の姿を捉えるなり、まるで訓練された騎士団のように一斉にその場に跪いた。


「おお……なんと神々しい。その白雪のような毛並み、吸い込まれそうな神秘の瞳……。どうか、その聖なる肉球で私の迷える魂を導いてください!」


「こちら、東方の秘境でしか採取できない『幻惑の月見草』から抽出した、我が家に伝わる最高級のマタタビ香油でございます! ひと嗅ぎすれば、聖獣の魔力の巡りが龍の如く駆け巡ると言われる逸品。どうか、どうか私の魔力疲労を浄化していただきたい!」


(重い……。贈り物の匂いも、みんなの期待も、何もかもが重いわ!)


レオヴィルとカトリーナが「当然の反応だ」と言わんばかりに自慢げにふんぞり返る中、私とセドリック、リネットだけが、この狂乱の「猫拝観イベント」に絶望的な疲労を感じていたのだった。


世にも恐ろしい狂乱の「拝観日」が終わり、屋敷がようやく静まり返った深夜。

私は一人、寝室のバルコニーで月光浴を楽しんでいた。あっ、今夜の猫ヒゲの調子は最高。

ステラ・キャットの体は、月の光を浴びると魔力が効率よく循環する……らしい。

静寂、清涼な空気。これぞ、私が求めていた真のスローライフ……。


「……ステラ……ステラ……どこだい……」


(……オ、オバケ? いえ、ゴーストね……あら? ゲッ。出たわね)


背後の暗闇から、ズルリ、ズルリと足を引きずるような音が聞こえてきた。

振り返ると、そこにはシルクのパジャマをだらしなく着崩し、髪を振り乱したレオヴィルが立っていた。

その目は虚ろで、目の下には消えそうにない色濃いクマが刻まれている。


「君を……君を吸わないと、明日までもたない……。禁断症状で、脳が溶けそうなんだ……」


(ゾ、ゾンビ!? 騎士団長が夜中にパジャマ姿で猫を探して徘徊するなんて、前世のホラー映画より怖いわよ! 丁度、昨日はカトリーナと一緒に、エルム村の悪霊を読んだばかりだった)


逃げようとした私だが、レオヴィルは驚くべき瞬速術で私を捕まえ、ソファに倒れ込んだ。流石、騎士団長の名は伊達じゃないわね。

彼は私の柔らかなお腹に顔を埋めるわけでもなく、ただ、私の右前足をそっと掴むと、その肉球を自分の頬に押し当てた。


「ああ……これだ……。この弾力、この温度……これが、救済……」


そのまま、彼はスースーと規則正しい寝息を立て始めた。

私の肉球を握りしめたまま、完全に寝落ちしたらしい。


(ちょっと、重いし暑苦しいんだけど! 離しなさいよ!)


振り払おうとして、私はふと、月光に照らされた彼の顔を間近で見た。

昼間はあんなに横暴で、傲慢で、猫バカな男だけど、眠っている姿はひどく疲弊しているように見えた。


(……そういえば、さっきセドリックが言ってたわね。『閣下は今日、拝観者の対応の合間に、国境付近の魔獣騒動の書類をすべて片付けた』って)


目の下のクマ。

それは、前世の私が鏡の中で毎日見ていた「戦う社畜」の証だった。

レオヴィルも、この国を守るために、きっと限界まで神経をすり減らしているのだ。


(……はぁ。仕方ないわね。一晩だけよ)


私は逃げるのを諦め、レオヴィルの頬に添えた肉球に、ほんの少しだけ「癒やしの魔力」を込めてやった。

「私で癒やされるのなら、いくらでも貸してあげるわよ。……社畜先輩としてね」


私はレオヴィルの乱れた前髪を、空いた左足でそっと整えてやる。

冷たい月光の下、傲慢な公爵と伝説の聖獣は、一時の穏やかな「救済」の中に溶けていった。


翌朝、レオヴィルが「朝起きたら、ステラの肉球が私の頬に! これこそ真の愛の誓いだ!」と、昨日以上のハイテンションで屋敷中を爆走することになるのだが、それはまだ、数時間後の悲劇である。

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