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モフモフ猫魔獣に転生した私は、イケメン公爵にモフモフ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。【連載継続】  作者: 逆立ちハムスター


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翻訳機と解釈者達

「……ねえ、それ、本気で言ってる?」


事の始まりは、カトリーナが意気揚々と持ってきた、奇妙な形の首輪型魔導具だった。

「見てください、ステラ。王宮魔導師に特注した『聖獣語翻訳機・試作一号』ですわ。これであなたの高潔な魂の声を、私たちが直接受け取れるようになりますの!」


(嫌な予感しかしないんだけど。私の心の声、結構な割合で『眠い』か『お腹空いた』か『レオヴィルうざい』よ?)


カトリーナが私の首に機械を装着し、スイッチを入れる。

ちょうどその時、私の背中を昨日の金粉の残りがチクチクと刺激した。


「(あー、背中かゆい……リネット、あとでブラッシングしてくれないかな)」


私が小さく「にゃうん」と鳴くと、機械から響いてきたのは、地響きのような重低音のバリトンボイスだった。


『――下等なる人間どもよ。我が背に刻まれし星の宿命を敬い、今すぐ跪くがよい。世界は我が足元に跪伏きふくせん』


「…………は?」


部屋が一瞬で静まり返った。

カトリーナは震える手で口元を覆い、レオヴィルは「……なんてことだ。ステラはやはり、この世界を統べる王としての自覚をお持ちだったのか!」と感激のあまり鼻をすする。


(違う! かゆいだけ! あと声変わりが激しすぎるでしょ!)


「ステラ、今のは何かの間違いよね? 私のことが一番大好き、って言ってみて?」

カトリーナが期待に満ちた目で私を見る。私は仕方なく、サービスで「にゃーん(はいはい、大好きよ)」と鳴いた。


『――女よ。お前の献身は認めよう。だが勘違いするな、我に愛を囁く資格があるのは、銀河の果ての星霊のみ。お前はただ、我の影を追い続けるがいい』


「……なんて愛らしく、気高いの……! さすが私のステラ! 私のことなんて『影を追うだけでいい』なんて、究極のツンデレですわ!!」


(……ツンデレの定義、辞書で調べてきなさいよ!)


結局、その機械は「(お腹すいた)」を「(供物を捧げよ、さもなくば天の裁きが下るであろう)」と訳すなど、野心溢れる誤変換を連発。

カトリーナの脳内では【ステラ > カトリーナ >> 越えられない壁 >> レオヴィル】という絶対的な階級社会が完成してしまったのだった。


だが、レオヴィルは完全には認めなかった。

「結局、機械なんてダメだ、人間だ! ルンバスの二の舞になってしまう。我が至宝の言葉を100%理解できない自分に腹が立つ。国中の精鋭を集めよう!」


(ルンバスは半分、あなたのせいだけど)


翌日、公爵邸のホールには、およそ「猫一匹の通訳」には不釣り合いな国家レベルの専門家たちが集結していた。


「私が筆頭猛獣使いのザルツだ。魔獣の喉の振動から、太古の契約を読み取ってみせよう」

「ふん、一級調教士の私にかかれば、猫の尻尾の角度一つで明日の天候さえ予報できる」


他にも、下級精霊を従える練達精霊使いや、魔物の価値を鑑定する熟練鑑定士など、無駄に豪華な面々が並ぶ。

私は彼らの前で、いい加減にしてほしいという思いを込めて「にゃ(お腹減った。早く終わらせて)」と短く鳴いた。


「おおっ! 今のは……!」

筆頭猛獣使いが身を乗り出す。

「今の短い一音……。これは『この世界に恒久的な平和を。我はその調停者とならん』という、崇高なる平和宣言ですぞ!!」


「何を言う! 尻尾の先が三ミリ左に揺れた!」

一級調教士が叫ぶ。

「これは『東方の国境付近に蠢く闇を浄化せねばならぬ。騎士団を動かせ』という、軍事的進言だ!!」


精霊使いは「精霊たちが『彼女の足跡は銀河の地図である』と囁いている!」とトランス状態で踊り出し、鑑定士は「この鳴き声の周波数、純金一トン分の価値がある……!」と計算尺を弾き始める。


(……地獄。ここ、地獄だわ。まともな人間が一人もいない!)


収拾がつかなくなったフロアに、私の怒りが頂点に達した。

私はソファの上に立ち上がり、これ以上ないほど大きな声で一喝した。


「にゃああああああああーーーっ!!(うるさーーーい!! 全員黙って帰れ!!)」


…………静まり返るホール。

専門家たちは顔を見合わせ、やがて一斉に、雷鳴のような歓喜の声を上げた。


「……素晴らしい! 今のは……訳してはならぬという、聖なる沈黙への命令か!」

「左様! 聖獣様の言葉を安易に人間の言語に置き換えるなど、我々の傲慢であった! 聖なる言葉は、ただ心で感じるべきなのだ!!」


(……はぁ? 結局そうなるの?)


レオヴィルとカトリーナも、深く納得した様子で頷き合っている。

「……そうだな。理解しようとすること自体が、ステラに対する不敬だったのかもしれない。私たちは、ただ彼女がそこにいてくれる幸せを、ゆっくりと噛み締めていくべきだったんだ」

「ええ、お兄様。言葉なんて、もういりませんわ。ステラの眼差し一つあれば、それで十分ですわね」


感動的な空気で幕を閉じた「通訳オーディション」。

専門家たちは「良い勉強をさせていただいた」と満足げに去っていき、兄妹は私の足を交互に撫でながら「言葉のいらない愛」を誓い合っている。


(……勝手に盛り上がって、勝手に納得しないでよ。結局、夕飯の催促すら伝わってないじゃない)


私は呆れて、もはや定番となった白目をむきながら、空腹に耐えて昼寝の準備に入るのだった。

「わたし」の意志が伝わる日は、まだまだ先になりそうである。

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