とびっきりの願い編
優也くんが衝撃の902票を取って文化委員長になってから、更に一年が経過して私とフミちゃんは中学二年生になった。
次の生徒会選挙の文化委員長に、大親友のフミちゃんが立候補する。その応援演説をする優也くんと元生徒会副会長の五十嵐君が対決することが決まった。
普通に考えれば、生徒会の実績のある五十嵐君の圧勝の筈だが、優也くんがフミちゃんの応援演説をすることになり、この文化委員長はにわかに接戦の予想を呈してきたのだ。
とはいっても、学校では優也くんがフミちゃんの応援演説をするとは校内では公表しておらず、この内容を知っている人はほとんどいない。接戦と予想しているのは小松家の二人だけだった。
いつものように、リビングでテレビをつけながら、今度は直樹が挑発する。
「お前、まさか応援演説の優也が勝つと思っているんじゃないだろうな」
「勝つに決まってるじゃん」
「コレだよ、お前はバカか。相手は五十嵐たぞ。それにもう五十嵐が文化委員長になることは決まっているんだ」
「何訳のわからないこと言ってんの」
「だから事前に誰が、どの役をやるかは決まってるんだって」
「そんなの、知らないから。絶対勝つから。一票十円で賭けても良いよ」
「後悔するぞ」
「クレープは二人分だよ」
「お前と一緒に外でなんか食えるかよ」
「は、なに言ってんの。キッモ。優也くんの分だよ。デートの斡旋も頼んだからね」
途端にお兄ちゃんの顔色から余裕がなくなった。
「後悔しても知らないからな」
「強がっても無駄だから。勝つのは優也くんだから。私たちのクレープ代ご馳走様です」
有希の勢いは止まらなかったが、このあと、お兄ちゃんが変なことを口にしていたことが気になった。
「五十嵐君が文化委員長になることが決まっている?」
有希はその時、兄のそのコメントの意味が全く分からなかった。
選挙当日
優也くんの素晴らしい応援演説が炸裂した。
優也くんは、原稿を読むような感じは一切なく、全校生徒に語りかけるようにスピーチをする。初めに自虐ネタで生徒達の関心をとり、最後には何回も熱く熱くフミちゃんを推薦するその姿に、会場にいる全員が「文化委員長は綾小路文香で決まり」みたいな雰囲気を醸し出していた。この異常な雰囲気はもう完全に五十嵐君を凌駕してしまっている。
やっぱり優也くんはとんでもない人だった。
その雰囲気に私はフミちゃんの当選を確信するのだった。
しかし、教室に戻った後の投票直前に私は信じられない光景を目の当たりにしてしまった。なんと、担任の先生が、五十嵐君を薦めてきたのだ。
「文化委員長の演説合戦は見応えがあったけど、実際に文化委員長になるのは菊池君じゃないからね。そこのところ冷静に判断するように」
「・・・」
私は絶句してしまった。
担任の先生のその信じられない言葉を聞いて、お兄ちゃんの言っていたことを完全に理解したのだった。事前に五十嵐君に割り当てていた文化委員長の座が危うくなると見るや否や、教員の先生たちがこぞって五十嵐君を擁護し始めたという訳だった。
先生は、自分たちの思惑が有利になるように投票直前の生徒の投票に口をはさんできているのだ。
投票直前のこの担任の先生の発言は選挙の得票に特に有効に感じられる。まさに誘導ともいえる行為だ。そしてこの行為は、他のクラスにも同じことが起こっているだろうと予測できた。もし一クラスに十人の生徒がこの先生の発言に耳を傾けたとすると約270/920票が五十嵐君の元々の票に追加されることになり五十嵐君はあとたった190票取れば過半数に達してしまう。圧倒的に不利だ。
さすがに優也くんやフミちゃんのクラスの担任は味方になってくれていると思うが、それでもたったの二クラスだった。その他の二十五クラス分の教員の先生は全員敵だった。みんなで寄ってたかって優也くんとフミちゃんの当選を妨害している。しかし、この危機を優也くんとフミちゃんは知る由もない。
昨年のフミちゃんのように圧倒的不利な生徒への応援コメントなら許せるが、今回だけは許せない。
「こんなことってあっても良いの?」
「こんなの、許されるの?」
「優也くん・・・」
つい先ほどまでは、優也くんの勝利を信じて疑っていなかったが、有希の全身に憤りと不安がどうしようもなく襲ってきた。
とても顔を上げていられなかった。
目に涙が溜まっては机にポタポタと落ちてきた。でも、何の影響力もないちっぽけな私では今のこの状況を変えることは出来なかった。私はただ結果を待つ事しか出来なかった。
選挙の結果が出るまでは不安で仕方なかったが、そんな私の心配は杞憂に終わった。
投票結果が校内放送で読み上げられる。
「次に文化委員長の投票結果です。綾小路さん505票、五十嵐君415票。よって文化委員長は綾小路さんが当選しました」
やった。やったのだ。優也くんはものの見事に先生達の妨害の壁をぶち破ってくれたのだった。校内放送はこの偉業に気付かないかのように平穏に繰り返されている。
こんなに心地良い響きはなかった。私はこの放送をこの耳に刻みつけるのだった。
こんなに凄い人はいなかった。いや、この人こそが優也くんなのだった。私はずっと前から知っていたはずだった。優也くんの本当の凄さをただ信じれば良かっただけだったのだ。
昨年の902票も本当にとんでもない記録だったけれど、今年のそれは更にその上を行っている。
生徒会長にすらなれる五十嵐君とそれを味方する先生達全員を敵に回したにも関わらず、それでもなお見事に勝利してくれたのだった。これは運が味方をしたとかそういうレベルでは絶対にない。完全完璧に優也くんの実力がもたらした結果だった。まさに神業としか思えない。
優也くんは、本当に私の願いを全て叶えてくれる。
どうしようもなく涙が溢れてきた。
涙は、頬全面を濡らしてしまっていたが、それでも涙が止まることはなかった。
顔を上げずにはいられなかった。
でも、こんなに嬉しい涙なら一生泣いていていたいと願ってしまう。
そんな私のとびっきりの願いを叶えられるのは、やっぱり優也くんしかいないと確信していた。
このイラストは、職員室組の妨害にも関わらず勝利した時の有希です。




