勇者二人とエンゲージ2
「レオン様これなどいかがですか」
「私が食べさせてあげる。はい、あーん」
「もう、緊張しちゃってかわいい」
「こんなにいい体をしてるのに初心なのね~」
「あーん、私もあーんしたい」
結局ラドの質問の答えが出ないまま神殿に帰ってきたら目の前に広がってたのはカオスだった。
こう、キッラキラでふわっふわなハートマークが飛び交っているピンク空間の真ん中にがっちがちに固まった漢が一人。
まあ、レオンなんだけど。
いつも言いたいことを言ったり、やりたいことをやったりするレオンの困った顔を見られたのは収穫だけど世の男の夢を実現するレベルのセッティングをしなければならないのはどういうことだろう。
それにしても実際にこれをやろうとしたらいくらぐらいかかるんだろ。
あの人たちの中に店のトップとかごろごろ混ざってるよね。
「あ、ミーアちゃんだ久しぶり~」
ぼんやりと桃色空間を眺めてたらレオンを囲んでいた中でもとりわけてすごいキラキラでふわふわな女の子が一人僕に気が付いたようで、こちらに向かって走ってきた。
まあ、シーアのことなんだけど。
そして、走ってきた勢いのまま飛びつかれた。
「わっぷ、シーア久しぶり。元気してた?」
「ミーアちゃんがいなくて寂しかったよ~。こんなに凛々しくなっちゃって」
「僕もだよ」
こんなに色気が出ちゃってとは返さない。
記憶が戻ってきたころからだんだん色っぽくなっていったシーアだけど久しぶりに会った威力はやっぱり大きい。
それに筋力が上がったせいかより感じる女の子特有の柔らかい体に思わず少し緊張する。
少し緊張したのがばれたのかくすっと小さな笑い声が耳元で聞こえた。
「ねえ、約束覚えてる?」
「約束?そんなのしたっけ?」
まったく、記憶にない。
何か買ってほしいとかだっけ?
「私を買ってよ、ミーアちゃんになら安くしておくよ?」
半分正解なのに何も当ててない気がするのはなんでだろう。
というか絶対にそんな約束してない。
でも、今回の目的にも合致することだし乗っておくか。
「うん、まあ今回は正直3か月分ぐらい買ってもいいんだけど」
「本当に買ってくれるの?そんなに長く?」
ずいっと顔を顔に近づけられたせいで思わず少しのけぞる。
なんだろう、気持ちキラキラ度が上がった気がする。
「いや、うん、実は闘技大会に出ることになったんだけどラドが先に仕事が入っちゃって。それで代わりにシーアはどうかと勧められてね」
ふう、とがっくりと肩を落とされる。
「なんだー。ついにミーアちゃんが心変わりしたのかと思ったのに。というより、ラドさんも私をミーアちゃんに戦力として推薦するなんて何考えてるんだろう。推薦するなら本職として推薦してくれればいいのに」
「心変わりはないかなー」
ちなみに予定も今のところ入ってない。
「それでさ、闘技大会の件なんだけどやっぱりダメかな」
「ううん、ミーアちゃんの頼みだし受けるよ。それにラドさんが私を推薦した理由に関しては心当たりがあるから」
心当たり……か。
もしかしたらラドにはぐらかされた正解が聞けるかもしれない。
「心当たりって?」
なぜか僕のその言葉を聞いたシーアがしかめっ面をしだす。
「ミーアちゃんには言いたくないなあ。ミーアちゃんまだ気が付いてないみたいだし」
僕には言いたくない?僕が気が付いてない?何に?
腕を組んで首をかしげる。
シーアのことを全部知ってるとは言えないが旅に出る前は四六時中一緒にいたのだ、知らないことの方が少ない自負がある。
そんな僕が知らないことってなんだろう。
「うーん、本当に僕が気が付いてないこと?シーアはクラスの補助がない割には体術も魔術も筋がいいってことぐらいは知ってるよ?」
「なんかこのまま気が付かれないのも悔しくなってきちゃった。ネタばらしするからよく私を見ててね」
よく見てと言われた通りにシーアの顔を注視する。
水滴の滴るサクランボのような唇に、滑らかな大理石のような肌、僕とおそろいの黒い目には気を抜いたら引きずり込まれてしまうような危うさを感じる。
同性も異姓も引きつけるこの色気のせいでいつの頃からシーアのことを直視できないようになったんだろう。
思わず耐えられそうになくなったその時に、シーアはふっとした拍子に一線を超えそうな危うさがなくなって昔のような親しみやすいだけのかわいい少女になった。
「遊女の魅了スキル!!」
そうか魅了か。
たしかに、それなら魔物が一切出てこない闘技大会で最強のスキルかもしれない。
というか、大会中は魅了系のスキル対策しなければいけないのかも。
でも、事前に調べた限りではそんなことをやった前例はなかったから気にしなくてもいいのか……。
「もう、やっぱり、気が付いてなかった。これでも私は遊女の中でもすごい筋がいいって言われてる方なんだよ。そんな私がずっとそばで『チャーム』を掛け続けているのに効かないどころか気が付きもしないんだもん」
急に上がった新しい課題について考えていると文句と一緒にふくれっ面をされた。
計算されつくしているそのしぐさは純粋にかわいいと思うが、残念ながらそれでは聞き流せない言葉があった。
「ずっと?」
「うん、遊女になってからずっと。効果はでないのに、上がっていくのは熟練度ばかり。結局マスターしてもミーアちゃんには効かないんだもん」
「なんでそんなことを……」
思わず肩を落とす。
パッシブじゃないスキルを発動するのだって集中力を使うのだ。
訓練だとしても結構な苦行だったはずだ。
「既成事実作っておこうかと思って」
「どう頑張ってもできないよねそれ!?」
シーアの言葉を聞いて自分の運の良さに感謝を捧げる。
いや、これはこんな運のいいキャラを組んだ前世の自分に感謝すべきだろうか。
この世界に転生してから初めての状況に思わず何をしたらいいかわからなくなってしまった。
「もう、微妙に嬉しそうにしないでよ。悔しいなあ」
「ごめんごめん、何かで埋め合わせするから。じゃあ、闘技大会はよろしくね」
「その大会、終わったらデートだからね」
ぷいっと怒ったように横を向かれてしまったが、たぶんこれはシスター直伝『怒っているけど男に頼られて仕方なく頼みを聞いているのポーズをとってるけど本当は照れから素直になれないだけ』のポーズだから本心はそんなに怒ってないだろう。
とにもかくにも、これでどうにか目的達成したし、そろそろレオンを先輩がたから解放してあげるとしようかな。




