勇者二人とエンゲージ1
帰郷という言葉の響きには何か胸をうたれるものがある。
たとえ何か事情があっても、ついでに錦をかざれなくても。
街が見えた時にはつい涙ぐんでしまったよ。
恥ずかしい話だけどね。
でまあ、僕がやることをさっさと終わらせるタイプなのもあるけど一回神殿へ寄ってあいさつ。
たしか、この時点では神官長とかシスターには会えたけどまだシーアには会えなかったと思う。
後で戻ってくることにしてまじめな話に興味のないレオンを神殿の先輩方に任せて早速向かったのが斡旋所。
運よく会えたラドとの再会を喜んでからそのまま隣にある酒場へゴー。
この時まではさっさと決めて二日ぐらいゆっくりしようと皮算用してた。
うん、そうそう皮算用。
つまりはそういうことだよ。
「ああ、すまん。それは無理だ」
考えるそぶりもなくジョッキに入ったビールを片手に掲げたまま首だけを横に振ってくるラド。
それはほとんど成功するだろうと思っていた僕にとって思わず飲んでいた牛乳が気管に侵入しそうになるぐらいの衝撃だった。
「ぐふっ。ええ、なんでさ。大会だから期間も決まってるし怪我の心配とか命の危険とかほとんどないし。お金的な条件が足りなかった?それともお母さん?」
相場よりは高い料金は払ったし、さっきも母親の調子がいいって言ってた。
だからたぶんどちらでもない理由なのはわかる。
わかるんだけど、結構この提案が通る公算が大きいと思っていただけに言葉がつい食い気味になってしまった。
「どっちも違うな。この稼業まずは信用だってのはわかるよな」
うなずく。
まあそりゃあ神官長もその信用のおかげで説得できたわけだし。
僕が真っ先にラドを雇おうとしたのも信用だ。
「その信用の問題だ。魅力的な条件だけど冬の間の街の警備受けちまったんだよ。
「…一歩遅かったってこと?」
ああ、そうかその可能性があったか。
うん、こんなことも思いつかないとかちょっと頭が固くなってるかもしれない。
「ぶっちゃければそうなるな。でも、さっき言った条件なら受けてくれる人も多いんじゃないか?何なら腕がいいやつ何人か紹介するけどどうする?」
少しだけ顎に手を当ててテーブルの木目を眺めながら考える。
ラドの紹介ならある程度信用できる人たちだろうけど万が一が怖い。
5年間ラドに護衛を任せっきりにしていたせいであまりほかの護衛の仕事をしている人を知らないのが少しだけ痛いと感じる。
それに、この街でラド以上の戦闘力を持つ人はほとんどいなかったはずだ。
「うん、やめておくよ。その信用の問題ってやつだね。強さだけが必要なら向こうで探してるし」
「なら仕方ねえか」
ビールをぐびぐびっとのどを鳴らしながら飲むラドを眺めながら次善策を考える。
ぱっと思いつくのはスタブの街で探すことかいっそクルスが見つけて来る人を含めた4人で闘技大会へ出ることぐらいか。
どちらにも善し悪しがあってすぐには決めがたい。
ずっと僕の考え込んでいる様子をビールのジョッキを積み上げながら眺めていたラドが急に何かを思いついたかのように目を見開いたかと思うと口角を上げて笑いを浮かべる。
たぶん普通に笑ってるんだけど頬が微妙に緩んでいるせいでいやらしく見える。
「あー、一人だけ強さは保証できないけどお前にとって絶対に信用できるやつがいるけどどうする」
そんな強面の大男が嫌らしい笑みを浮かべながら少女を眺めるというひどい絵面の中はなった言葉は十分少女こと僕の思考を止める威力があった。
僕にとって絶対に信用できるとな。
ここで雇う予定が全くなかったけどそこまで言い切れるというなら聞いてやろうじゃないか。
「参考までに聞くけど誰?」
「シーアだ」
シーア……シーアね。
たしかに、シーアならずっと一緒にいたから絶対に信用できるし……って。
「えっちょ待って。シーア?シーアって僕の知ってるシーア?あのシーア?というか本当にシーアって言ったの?」
「おう、たぶんそのシーアだ」
同名の別人という線も消えたか。
でも、僕の記憶からすると……
「シーアって魔法とか一応使えるけど戦闘系のクラス取ってないよね。もう酔ったのラド」
「酔ってねえよったく」
なぜか続きを話さずにやれやれという言葉が全身から漂ってくるような肩をすくめるしぐさ。
イラッと来たのでそれに対抗するために少しだけ涙目上目使いとついでに猫耳を伏せて反撃する。
しばらく、硬直状態に陥ったが結局はラドが折れた。
ラド相手のこのたぐいの勝負の勝率は今のところ十割だ。
「シーアの身のこなし自体は結構筋がいい、それに魔法だってミーアの嬢ちゃんよりは使えるのはしってるだろ‽」
だが、問題はそこじゃない。
「だから今のレベルがいくつあるかは知らないけど問題はクラスだよ。メインクラスの芸人が強化するのは魅力だし遊女と賭け事師は言わずもがな。全部戦闘向きじゃない」
威厳や可愛さや運の良さでは勝負に勝てやしないのだ。
「それミーアの嬢ちゃんが言うと自分に戻ってくるぞ。それに賭け事師は戦闘することで考えてもそんなに悪いクラスじゃないぜ。俺が賭け事師をマスターまでした理由言ってなかったっけか」
「ギャンブルが好きなだけじゃないの」
「それがないとは言わねえけどな。ここだけの話賭け事師は状態異常にかかりにくいんだよ」
うん、それ知ってる。
この世界で状態異常にかかるかどうかは確率と耐性に依存している。
つまり、幸運上昇があるギャンブラーは耐性があるメインクラスの僧侶ほどではないけどサブクラスにしては結構優秀な状態異常対策となるのだ。
自分がとる予定のクラスぐらいはきっちり調べてる。
説明書は隅から隅まで読み込む方だ。
「それがどうかしたの?」
「まだわかんねえのか。聡明な嬢ちゃんらしくねえな。いや、変なところが抜けてる嬢ちゃんらしいっちゃらしいのか」
そうまで言われては引くに引けない。
うんうん唸りながらラドの意図を読もうと頭の中で思考を転がす。
だが、いくら転がしてもラドの言葉からは賭け事師のクラスが戦闘でも使い道がないわけではないということ以外の意図が言葉から読めない。
「もう一つヒントだ。実はな俺が一番敵に回したくないのは遠距離から範囲一帯を魔法一発で焼いてくる火術士でもなく、背後から一撃必殺の不意打ちを狙ってくる暗殺者でもない遊女なんだぜ」
はて、遊女にはどんなスキルがあっただろうか‽




