黒の勇者と白の勇者とちょっとした油断2
ミジカイノハキノセイデス
「ぶっ飛べ、53金貨!!」
魔石矢の着弾と同時に込められていた中級魔法の『ファイアー・ボール』の爆炎がまき散らされる。
すでにクルスが何回か切りつけたおかげかこれがとどめの一撃になったのだろう近寄るまでもなくパラライズプラントが燃え尽きる様子が見えた。
「意外と余裕だね」
くるっと弓を回しながら背中にしまってぐっと背伸びを一つしてクリスタルを開放しに行く。
うへえ、やっぱり麻痺薬か。一番のあたりではあるんだけどあまり使い道のないアイテムだ。
「余裕ではありますが投げ捨てている金貨の量は数えたくありません。あと、いちいち金貨金貨言うのやめてくれませんか?」
後ろからクルスが文句を言う声が聞こえる。
投げ捨てるというよりは射って捨てるが正しいのだが意味としては同じだ。
「リソースの把握にも役に立つし、何よりこの数え方はもう癖だからしかたないね。あと使った金貨の量聞きたい‽」
今日何度目かのクルスの愚痴に今日初めての質問を加えて今日何度目かの返しをする。
「いえ聞きたくありません。ぜひ忘れさせてください」
「ええそんなあ」
と出発前の予想とは違ってこれぐらいの道中はこんなじゃれあいをするぐらい余裕があった。
確かに敵が増えているが別にきついほど強くなってないおかげだ。
油断をせずに、そして財布の中身を気にせずに持てる最大火力を叩き込んでいるおかげか。
「またリンクしましたよ。さすがに数が多いですね」
クルスの見る方向を見ると大きな岩が列をなしてやってくるのが見える。
「あれは余裕だよ。ちゃっちゃとやっちゃいましょうか。『ブレイク』っと開幕42金貨!!」
「だからそれはやめませんかと」
クルスの愚痴を聞き流しながら今度の魔石矢のいく末を見る。
狙い通り先頭を走る岩に当たって割れた鏃に込められた魔法は今度は『チェイン・スパーク』だ。
そして、魔法の一撃によって先頭の爆発に続いて後続もまとめて爆発する様子は壮観だった。
「衝撃を与えただけで爆発するボムロックはやっぱり連鎖系が効くねえ」
こんなボムロックだが狩る人は少ない。
理由は即座に爆発するような危険なアイテムもドロップするため旨みがないからと言われているがそんなのは僕には関係がない。
実は下調べのころから労力の割にはいい魔物だと思っていたのだ。
地面にまばらに落ちるクリスタルの量を見て少しだけよだれが出る。
レアドロップの宝石かもしくはこの量だしよりいいアイテムが手に入るかもしれない。
期待を胸に僕はスキルを発動させた。
「17、25、34で合計76!!」
無理な体勢で放たれた矢に付く魔石が割れることで発現した三発の魔法は三色の光を放ちながら魔物の群れを飲み込む。
衝撃にひるんだところをすかさずクルスが切り込みとどめを刺していく。
何かがおかしいと思ったのは三層の行態も半分以上が過ぎた頃だった。
まだまだ余裕があるとはいえクルスが支えきれない敵が増えている。
単体では大丈夫だ。だが、複数体の処理に手間取ると次から次へと新しい魔物が襲ってくる。
今回も単一の一波ではなくて四回連続で新しい魔物に襲われ続けた結果だ。
一時的に僕が襲われてしまったせいもあったがそれも数が多くなければクルスの所にせき止められていただろう。
クリスタルを開放しながら一息を着く。
そんな僕に対してクルスは口を開いた。
「さすがに多くありませんか?」
どうしますかという顔でこちらを見るクルスを見ておもむろにカバンの中身を確認する。
矢羽についているマークをざっと眺めて簡単な計算をして結論を出す。
「残り3分の2ってところかな」
うんと一つ大きなうなずきとともにクルスに告げる。
「金額的にですか?」
他にどんな基準があるのかと。
……ああ、本数があったか。
それでも答えは変わらないけどね。
「そうそうこの調子で魔石矢を撃ったらね。魔法薬についても余裕余裕ってところ」
ついでにカバンから取り出した精神力を回復させる魔法薬を投げてやる。
いつものように嫌な顔をしながらも飲み干すクルスに合掌。
一度だけ飲んだことがあるがあれはとてもまずいのだ。
確かな効果はあっても良薬口に苦しにもほどがあると思わせるような味だ。
「それに地図によるとここまで来たら下の街の方が近いよ」
それにここで引き返すのは少しもったいない。
「いつ魔王が来るかもわかりませんし、同じだけ稼ぐのはさすがに時間がかかりすぎますか」
言いたいことがわかったのだろう賛成の意を間接的に表明するクルスに向かって親指を立てる。
「下の方がレベル上げの効率もいいし、足踏みはしてられないからね」
「なら行きましょうか」
気のせいかクルスのその言葉を聞いた時に少しだけ背中の毛と耳が立つ感覚と嫌な予感をつばとともに飲み干して、ビンを投げ捨てて立ち上がるクルスに続いて立ち上がる。
目の前にはまた新しい魔物の群れが迫っていた。




