黒の勇者と白の勇者とちょっとした油断1
見直してプロットにあった伏線を入れ忘れたことに頭を抱える今日この頃。
使うの結構先だから入れる機会を改めて考えなければ。
戦力不足の根本的解決にはならなかったけどこれでお金の方はどうにかなったかな。
荒稼ぎはできなくなったせいで儲けは減ったけど代わりにお金稼ぎが安定するようにはなったんだ。
絶対に買い取ってくれる場所を見つけられたということだからね。
その副産物――というよりは普通に主目的かな――として安定して装備も更新できるようになった。
こっちも簡単な理由で、もともと売っているということは一番いい物を自分の装備にできるということだからね。
安心して鑑定できるようになったおかげでいい装備の見分けができるようになったのが大きい。
そして、市場で不足している商品を教えてもらって売り出したころにはさっきのおじさん――名前はバルドルさんと言うんだけど――とも紆余曲折の末仲良くなっていた。
この頃は相変わらず勇者や魔王に関することは進んでいないけどそこはどちらかというと天命を待つべき部分だから仕方ないとするとすべてにおいて順調だったころだ。
だからこそ気が緩んだ……ともいえるんだけどね。
「バルドルさん。軽装鎧売りに来たよ」
「またかミー助。売れれば一応儲けは出るんだけどよ」
売れればなと愚痴りながらも鑑定を始める。
知り合ってみればいつかの恐ろしい姿が嘘のような人だ。
メインクラスがずっと職人《》で大きなバリスタを2丁振り回して戦っていたこのバルドルさん元はそこそこ有名な冒険者だったという。
金もたまったし引退して店を開くかと市民権と一つの家を買って革職人を始めた
ところ、なまじ冒険者時代の名前が通っていたせいでこの街の顔役的なポジションに収まってしまったようだ。
ちなみにあのチンピラは弟子だという。
でも、あのチンピラたち相当手馴れていたんだけどな。
「今日はクル助も一緒か」
「そのクル助はやめてください」
真剣な顔で返すクルス。
いやでも口元がひくついていることを見るとどちらかというと無理に真剣な顔を作って……だな。
「いいじゃねえか。今日は何の用だ。売りに来ただけじゃねえだろう‽」
ぎょろりという音がふさわしいようなしぐさでねめつけられる。
隠す気もなかったけどクルスを連れてきたのは紹介の一回だけだから何かあると分かりやすかったかもしれない。
「4層で気を付けるべきことを聞きに来たのです」
そうのたまうクルス相手にバルドルさんが腕を組んで頭をひねりながら答える。
「そんなのギルドで調べるかほかの冒険者に聞け」
まあその通りだ。
引退した冒険者についでに聞きに来る話題としては間違ってはいないがあえて聞きに来る話題ではない。
でもわざわざそれも嘘がほぼ確実にわかるような人に生の声を聴きに来たのは理由がある。
ある意味では一番信用できる人だからだ。
「そっちはそっちで調べる。聞きたいのはそうじゃないよ」
戦闘関係はクルスに財布関係は僕と最近できた役割分担に従って顎をしゃくってクルスに先を言うことを任せる。
「噂ではほかと比べて4層は死亡率が高いと聞きます。ですが、資料を調べてもその理由がどう調べても出てこないのです。」
「それでも俺に聞く理由にゃならねえな」
「バルドルさんに被害が及ばなければそうしますよ」
「被害だあ‽」
クルスからのアイコンタクトを受ける。
バトンタッチだ。
「三層で『たまたま』『偶然』大量の武器、装備をドロップしたらまたそこら周りが値崩れしちゃうから、安全で危険の少ない実入りのいいルートを教えてほしいなあと」
年による僕の身長の伸びと種族によるドワーフの身長の低さが相まって必殺上目使いができないが、首の角度を調整して純真さを前に出すようににっこりと微笑みかける。
「さすがに言いがかりくせえなあ……まあ減るもんじゃねえしいいか」
ちらっとこちらを見てため息をついて頭を掻くバルドルさん。
今回は結果オーライだがこの人も大概『技術』が通じない人だ。
役に立つときは立つけど効かない人にはとことん効かないなこの『技術』。
「さすがにそんな都合のいいルートは知らねえが、基本的に一、二層と変わんねえよ。少し魔物の発生が増えてて、それぞれが少しだけ強くなってるだけだ。魔物にレベルがあるならレベルが上がってるってえのか?そんな感じだ」
とっくにわかっていることを繰り返すバルドルさん。
さすがにその程度では納得できるはずもなくクルスが続けて問う。
「噂程度ですが調べた結果ほかの層と比べて三層の突破は死亡率が高いと聞きます。何か特別な理由があるのではないのですか?」
ギルドでさえ知らないようなもしくはギルドがとるに足らないと思うようなとは暗黙のうちにつく言葉だ。
ギルドの資料に在ったら特別ではなく、あえてここで聞いてないということでもある。
「特にそんなことはなかったはずだがなあ。……しいて言えば慣れてきた奴らが油断するのが三層だからかもしれん」
自分で言って自分で納得したのかふんふんと頭の上下を繰り返すバルドルさん。
「外から来たやつらは一層二層をさっさと突破できる人も多いからなあ。そういうやつらが油断して三層で……ってことだろう」
思わずしかめた顔を見られたのか頭の上下する速度が少し上がる。
「ああ、ミー助たちも外からだったっけか。まあ装備を整えて気を引き締めれば問題はないはずだ。そんなわけで何か買ってかねえか?あんなに稼いだんだから金は持ってるだろう‽」
片手の親指と人差し指で円を作りながら問いかけるバルドルさん。
「残念だけどお金は二人とも全部魔法薬や魔石になった」
前世と変わらない金を示すジェスチャーに苦笑いを返しながら答える。
その消耗品を買うときには全部自腹で出そうとしたのだが、『これだけの金額をあなただけに払わせるのは胃が痛いので勘弁してください』とはその二つの店を出た時にクルスが言った言葉だ。
おかげで予定の倍の量を買い揃えることができたのでとても助かった。
「相変わらずリンダの所とマイクの所はぼろ儲けってか。もう少しこっちに金を流してくれたっていいじゃねえかよ」
リンダは魔法薬屋の麗しいおばあさん、マイクは魔石屋のインテリメガネだ。
「装備品とかは相当安く売ってるんだけど‽」
「それはそれだ。こっちもきっちり買ってやってるんだから、そっちも買ってくれりゃもっとこっちが儲かってがっぽりだがな」
「それこそ『それはそれ』だよ」
そんな風にじゃれあってると視界の片隅にクルスの呆れた顔が映った。
しかもこれは思わず素が出ているな、いい加減に切り上げるか。
「アドバイス通り油断せず行ってくるよ。次会う時はランク4だからね」
「まあ特別なことがなくても魔物も増えてるし強くなってるから気をつけな」
「ええ、大丈夫ですよ。それではバルドルさん今日はありがとうございました」
「今度は何か買っていけよ」
そんな風にバルドルさんの工房兼店から出る。
収穫はなかったが油断しなければ大丈夫という安心できる要素はあった。
だから結局この後のことについてバルドルさんに恨みを言うことはできないし、ギルドの情報不足に文句を言うこともできない。
油断していたのは確かだったのだから。




