黒の勇者と白の勇者と冒険者の敵1
情報を収集して、装備を整えて、準備ができてようやくダンジョンに突撃。
ダンジョンで一日魔物を狩って帰ってきたらドロップをさばいて、酒場で騒いで寝る。
これが、このスタブの街の冒険者の基本的な生活だね。
冒険者は大きく見れば世界の傷に対抗するためのヒーローかもしれないけど個々人で見たらやっぱりみんな単なる人間だということだ。
当然のことを言うなって‽
前振りだからね。
聞いてくれたっていいじゃないか。
さて、そんな表向きは魔物を狩る義勇兵みたいなスタブの冒険者にも裏の顔があるんだ。
それは街の経済を回す歯車。
街も冒険者抜きでは回らないし、冒険者も街のバックアップなしでは活動ができないわけだ。
相利共生、winwinとはいい言葉だよね。
でもそんな冒険者にも裏の敵はいる。
特殊な方法で回避してきた僕もついにそれに直面することになった。
「右一匹!抜かれました」
「このぐらいなら大丈夫。そっちの2匹を抑えてて!!」
こんなせっぱつまった時も丁寧語を崩さないクルスの声に返し、大きく迂回しながら襲ってくる犬型の魔物に両の手から弓を地面に落として腰に差した剣を握る。
この初心者にお勧めとされる魔物はイビルドッグと言われている種類だ。
注意点は同種の魔物との連携と意外な素早さ。
まさにそれを実感したのは剣を逆手から順手に持ち替える暇がないことに気が付いた時だ。
仕方がないのでとびかかってくるイビルドッグに抜剣の勢いをそのままに半身になって右手を伸ばし柄をイビルドッグの鼻頭にたたきつける。
もちろんその程度のダメージでは倒せないが攻撃の反動を利用して仕切りなおすこと、そして構えをとる暇ぐらいはできる。
あとはこの片手半剣をイビルドッグと僕自身の間に盾のように置くことで時間を稼ぐだけだ。
左右に身を振りながら襲ってくるイビルドッグ相手に決して弱点をさらさないように一定の距離を取りながら警戒する。
ちらっとクルスの方を見ると早くもイビルドッグの連携を崩して盾を使って一匹抑え込みながらもう一匹相手に剣を振っている。
一匹倒すのも時間の問題だろう。
今日は自分の身を護ってくださいとイケメン顔で言われたがこの調子だと本当に自分の身を護るだけで済みそうだ。
ちなみに二人っきりの時ぐらいいい加減にその丁寧語のイケメンを演じるのをやめてほしいと言っても聞き耳を持たれなかった。
無理やり演じるのは疲れるのは分からなくもないから強くは言えないけど。
そんなことを考えていてもラドから徹底的に叩き込まれた技は裏切らず、剣を片手で使って牽制したり、両手で使って飛びかかってくるイビルドッグを抑え込んだり、蹴りを放って距離をとったりと補正がかからないからこそ取れる様々な手段でイビルドッグに対峙する。
結局ポジティブに考えればすべてに適正がないのならそれはすなわちすべてに同じぐらい適性があるということだ。
武器を変えながら戦うのは意外に適している戦闘スタイルだろう。
……ネガティブには考えてはいけない。
さすがに致命的なダメージを与えることはできないが、少しずつダメージを与えながら身を守ることに問題はないということだろう。
「お待たせしました!!」
少しずつダメージを蓄積すれば一人でも倒せるかなと思い始めたころ唐突に表れたクリスにイビルドッグは串刺しにされクリスタルと化した。
「……ありがとう」
ダンジョンでの初撃破になるかもしれないという期待を返せというのもお門違いだが少しだけ残念に思う。
「ふう」
深呼吸を一つ入れて思考を変える。
僕本来のお仕事はここからだ。
「『導き給え』『見守り給え』『ハイリスクハイリターン』」
唱えなれたスキルを起動する。
ギルドの資料によるとこのイビルドッグの確認されている『ドロップは肉、牙、革の三種類、付与品などは確認できず』だ
そのうち革が最も高価なのだが、僕の場合もう一つ上のものを期待したい。
一つを手に握る……革。
二つ目……革。
ここに来るまでと同じようにギルドの資料と同じものが出る。
本命の一つだっただけに少し肩を落とす。
「今度こそはいいところ見せてくれるんですよね?」
「どうかな。さすがに可能性が0の所からは持ってこれないよ」
そう言いながら最後のクリスタルを握る。
「やっぱり革か」
「資料では革が一番ではなかったのですか?」
「この革って初心者冒険者御用達の革鎧の素材だからさ。付加付革鎧とか期待してたんだけど」
軽装鎧の割には軽く固く、材料を落とす魔物は比較的組みしやすい。
そとの街から来た人はとりあえず作ればいいと言われる軽装の革鎧だ。
つまり、この街の大半の冒険者がお世話になった鎧でこのイビルドッグの最も有力な就職先だ。
これがドロップしないのはおかしい。
確率的にはおかしいから何かからくりがあるとは思うけど出ないものは出ない。
「イビルドッグの革鎧、スチールゴーレムの剣、ポイズンウィードの杖。ここら辺は鉄板だと思ったんだけどね」
他の二つはまだ試していないが道すがらの戦果からすると期待はできないだろう。
「世の中そんなに甘くないということですよ」
まったくだ。
「結局は金貨12枚ってところかな」
「一日の稼ぎとしては十分ですね」
普通ならそうなんだろうけど、僕の全力だとそうではないのだ。
しかも、魔物、動物型34、植物型11、スライム型5のきっかり50匹の結果だと考えると頭すら抱えるレベルである。
「これじゃ故郷での僕の稼ぎの平均の半分にも満たないよ。魔物の量で考えたら百分の一以下。今日狩った魔物の量と質どっちも上なのに」
毎日こんな調子ではラドを雇い続けることすら危うかっただろう。
いや間違いなく無理だったに違いない。
「結局目的はランク2になることだったのですからいいではありませんか。レベルも2つ上がりましたし」
「いくら素材品でも高値が付きやすい鉱物型がなかったとはいえさすがさすがに効率が悪すぎてね」
一層を突破したついでに狩った量としては間違いなく上位ではあるのだが少し働きに見合っていない気がする。
ちなみに最初のダンジョンアタックでランク2を目指すのはギルドでも推奨されないと言われたが、よくあることでもあるそうだ。
外でもある程度レベルを上げた人たちにとってランク1である1層は物足りないのだろう。
実際レベルが20あれば準備を怠らなければソロでも突破できるらしい。
それも先人たちの地図や情報のおかげだ。
ギルドは営利的な組織と言うよりは傷をふさぐバックアップをこなす組織らしいからそういう情報は結構揃えていてありがたい。
「明日はもう1層降りてランク3を目指すかな」
「私の感覚ですがクルスは問題ないでしょう。ですがミーアの方は大丈夫ですか?」
「今日はまだ一度も切り札を切ってないから大丈夫じゃないかな」
ただこの調子だと切り札を切ったら肉体的以外にダメージを受けそうだけどね。
主に財布とか懐とか。




