黒の勇者と白の勇者と冒険者の敵2
「『ヒール』『キュア・ポイズン』」
5階ある第二層のその最後。そこで多数の黒い影が白い光に群がっていくのを見る。
寄っては鎧の隙間を縫って噛みつこうとする黒い影は蝙蝠型の魔物で白い光は『ライト』の魔法を白い鎧が反射しているクルスだ。
そんなクルスは片手の盾を投げ捨てて中級魔法の回復を織り交ぜながら懸命に蝙蝠を打ち払っているが多勢に無勢で少し押され気味だ。
二層の終盤に近づくにつれ、こんなに風にクルスが手こずる敵に出会う回数も増えてきた。
ポイズンバッドと呼ばれているこの魔物は名前の通り毒を含んでおり、クルスのクラスである僧侶に毒や麻痺に対する耐性がなければとっくに勝負ありだっただろう。
弓で援護しているが僕にとってもちょこまかして急所を狙いにくいため決め手に欠ける。
しかたなく今日何度目になるかわからない……わけはない記念すべき2桁の10本目となる特殊な矢を取り出す。
今回の一本は切り札の中でも比較的高価だが切り札は切り時に切らなければならないのだ。
いくら痛みを伴うとしても。
そう考えながら背中から羽にギザギザの円のマークの付いた透明な鏃の矢を取り出し番える。
『ブレイク』
確実を期すために魔法を唱えて少しだけ矢じりにひびを入れる。
「クルス、後ろに下がって耳をふさいで!!いっけー28金貨」
クルスが大きくバックステップした後、顔を盾に隠したことを確認して斜め上の天井に向かって射ると同時に両手を頭の上にあげ自分の耳を伏せる。
手では完全に抑えきれない音の衝撃とポイズンバッドの魔物の狂乱が『ソニック』の魔石がちゃんと砕けて音響矢の効果が発揮したことを教えてくれる。
耳をふさぐことに失敗して自爆しなければこの音響矢の効果は大きい。
特に耳が人よりいい魔物相手に至近距離でさく裂したときは絶大とさえ言える。
現にお互いろくに連携が取れなくなったポイズンバッドはクルスの敵ではなく、剣が一閃ひらめくごとにポイズンバッドが一匹地面に落ちている。
全部地面にたたき落した後にそれをクルスが一匹一匹丁寧にとどめを刺しクリスタルに変えていった。
やっぱり魔石は便利なアイテムだ。
この一定の威力を持つ魔法を発動できるアイテムはたとえ子供でもある程度戦闘力を持てる様子が前世で言う銃と同じようなものなのかもしれない。
しかも、引き金を引けば弾の出る銃と同じように割れば発動できるから簡単でもある。
だがこの魔石には欠点が一つ。
高い。
ひたすらに高い。
ベースとなる素材ですら金貨10枚は下らないのに魔法を封じ込める作業は完全に職人技。
これが高くならないわけはない。
そうこの切り札に限らず、僕の戦闘スタイルの難点はお金がかかること。
このクリスタルたちで損失の補てんができればいいのだけど。
頼むよ蝙蝠さんたち、一匹でいいからいい物を落としてくれ。
……どうせ無理だろうけど。
「『導き給え』『見守りたまえ』『ハイリスクハイリターン』」
いくら投げやりになっていてもまるで息を吸うようにスキルを起動できるのはこの一連の流れを何度も何度も繰り返してきたおかげだろう。
振り返って地面を見ると、ポイズンバッドのクリスタルが多すぎるせいかいまいちやる気が出ない。
片っ端から拾っては腕に抱えていく。
そして光とともに大量のクリスタルが消えて一つの輝く黒い服が腕の中に残された。
「本日は大赤字だねー」
スタブ第三拠点にあるギルド隣接の食堂で地上より割高な肉を使ったシチューを前に努めて平静に『ポーカーフェース』を発動して宣言する。
この料理の材料も地上から依頼を受けた冒険者によって下に運ばれるために割高になっていることを考えると人間というのは経済活動から逃げられないようにできているとしみじみ思う。
「それはそうでしょう。いくら稼いでも今日一日で200金貨以上使ってしまっては黒字になるはずがありません」
そう話しながらクルスが微妙に青い顔をしながら胃のあたりをさすっている。
今日つかった特殊な矢の合計金額を聞いてからずっとこの調子なのだ。
僕の貯蓄というか貯金から出ているんだから気にしなくてもいいのにと思う。
「正確には231金貨だけどね。でも、収穫もありまっす」
『ポーカーフェース』をやめてにやりと口角を上げる。
「最後のあれですか?」
心当たりがあったのだろう。クルスが問い返す。
「うん、最後のあれ」
それに一つ頷く。
「あれだけで本日の稼ぎの8割をたたき出しているからね。あの状況を再現できれば問題は解決だと思うよ」
「見当はついているのですか?」
そりゃついているさ。
じゃなきゃ話題には出さない。
「素材分のクリスタルが必要条件だったのか、相互干渉による最終的な確率の上昇が必要だったのかはわからないけどいくつかクリスタルを同時に開放すればいいと思うんだよね。つまりさ、魔物を集めて倒せばお金のことはどうにかできそうだということ」
最後のドロップがクリスタルの数じゃなくて一つしかなかったことから出た予想だ。
理由はともかくとして原因と結果は結構自信がある。
「自信ありげですね」
「それも根拠のない自信じゃないんだよね」
スプーンを使ってジャガイモを押しつぶしながら続ける。
「考えてみればほとんど魔物に合わない外と違ってこの街は魔物が多い。つまるところ何匹かの魔物からドロップする素材を合わせて何か作ってることも多い、だから一匹分だけの可能性じゃ足りない。だからこそこの方法には結構勝算があると思う」
スプーンを皿から取り出し左右に少し振る。
「それに、この調子だと3層を突破するのに湯水のように金を使うことになりそうだけど、さすがに今の手持ちに1000金貨もないから突破は無理だよ」
「それだけあったことのほうが驚きです」
そう言ってうなずいて肉を口に入れるクルスを見ながら提案する。
「レベルも上げなければいけないし数がいても比較的安全な魔物を探してリスクを抑えれば十分いけると思うけど……どうする‽」
「何種類かの魔物でしたらいくら来ても問題はないでしょう。前はクルスに任せてください」
うん、頼もしい言葉だ。
急いでシチューを胃袋の中に掻き込む。
「むぐ……じゃあ、今すぐ明日のために情報収集だ」
「では先に行ってください。食べ終わったら追いかけます」
……それは少し薄情じゃないかな。




