ジャッキーのジャンクヤード
ジャッキーのスクラップヤードは、文字通りジャッキーが運営するジャンク屋だ。ここでは何でも売れるし、ここにあるものなら何でも買える。弱小ランサーにとって、非常にありがたい店の一つだ。
レオとジミーは開けっ放しになっている扉を潜り、こじんまりとした小屋へと入る。見た目の印象通りの狭い室内に、店主であるジャッキーはいた。
浅黒い肌にぽっこりと出た腹、見ようによってはだらしのない体型だ。しかし、実際の所昼夜問わず動き回っているジャッキーは、筋肉を脂肪でコーティングしている。
こちらに気付くと、ジャッキーは感嘆の声を上げ破顔した。
「兎の旦那! 先月はどうもお世話になったもんで」
ジャッキーはそう言うと、へへへと申し訳なさそうに頭を掻く。
先月、ジャッキーからの依頼で仕事をしたのだ。彼は金払いも良く、約束を違えない。
レオは笑みを見せながら手を振る。
「どうってことないですよ。良いお客さんは死んでも離すなって教わってるので」
「違げえねえですな。ジミーの助言百選って訳だ」
ジャッキーはジミーを見てそんなことを言う。ジミーは短く笑い、ジャッキーの腹を小突く。
「俺は百個も喋っちゃいないさ。商売ならお前さんの方が、金言を沢山抱えてそうだ」
ジャッキーも笑い、ジミーの肩を叩く。
「ええ、ええ、そりゃあもう。本にしたら買って下さいよ」
「サイン入りでな」
ジャッキーとの縁も、ジミーからの繋がりだ。その人脈がどこまで繋がっているのか、レオ自身も把握していない。
「して、今日はどっちで?」
ジャッキーがレオを振り返り、そう問いかける。ジミーとは旧知の仲だが、ラビットメイル運送の代表者は自分だ。商売人であるジャッキーは、そういった振る舞いを忘れない。
「どっちもです。まずは《ゴブリン》とスコールを。これが庭師の見解です」
レオは外を指さし、携帯端末をジャッキーに手渡す。ジャッキーは会釈をしてから端末を受け取り、資料を確認しながら外へ出る。
レオとジミーも並んでついて行く。ジャッキーは体型とは裏腹に、ひょいとトラックの荷台に飛び乗り、端末と目の前の実物を検分していく。
「NGE-500《ゴブリン》、目立った損傷は操縦席への一太刀と右脚部に歪み。ジェネレーター等の内部部品は健在。座席とインターフェイスは欠損。良い斬り方ですなあ。旦那の太刀筋だ」
ジャッキーは切断面を手でなぞり、うんうんと頷いている。そして、側にあるコンテナを開けた。
「こっちはKV-27スコールが二丁とその弾薬ですな。目立った外傷もなし。このまま使えそうですが、まあ、旦那向けの銃じゃないですわな」
ジャッキーが検分を終え、荷台から飛び降りる。こちらへ駆け寄ると、端末を返した。
「そちらの庭師、リー君でしょう? 殆ど彼の見立て通りですな。本体評価額の90ccってのも、妥当も妥当。皆さん良い腕をしておられる」
ジャッキーの世辞に、レオは肩を竦めジミーは短く笑う。
「それで、そちらの捜し物はなんです?」
ジャッキーの問いに、レオは頷く。
「今見て貰った《ゴブリン》にない部分が、美品であれば交渉したい。ある場合、スコールと弾薬は購入代の足しにする」
ほうほう、とジャッキーは何度も頷く。
「操縦席一式、座席にインターフェイス、OSパネルやら。あるにはあるんですが、まあ、美品となるとどうにも」
ジャッキーはそう言って頭を掻く。それもそうだろう。ここに流れ着く品は、大抵が戦った後の物だ。血肉と死臭、汚物に塗れるのが普通だ。
「まあ、そうですよね。なければないで諦めも付きます。それじゃあ改めて一機と二丁で」
そうレオが纏めようとした瞬間、大型トラックの走行音が響く。音の方向を見ると、見知った車両が近付いていた。ジャッキーの所有する車両、つまり部下の凱旋だ。
大型トラックはジャッキーの姿を見つけたのか、近くに停車する。荷台には廃品回収用のコンテナがくっついており、中にはなみなみとジャンクが詰まっている。その内の一つは、丁寧にシートが掛けられていた。
「ボス! めっけもんですよお! 《ゴブリン》一機、手足はずたずたですが中は綺麗なもんで洗浄いらず! 悪くないでしょう!」
筋肉質な男が、運転席からそんなことを言っている。レオとジャッキーは顔を見合わせ、ジャッキーが手慣れた手付きでコンテナに登り、シートを剥がした。
そこには、先ほど言った通りの代物が転がっていた。ジャッキーは飛び降り、レオと向かい合う。
「……差額で幾らか貰ってもいいんですがね。旦那には世話になってる。これからも世話になりたいもんで」
「良店は大事にしたい。困ったことがあれば是非うちのラビットメイル運送に」
ジャッキーはにやと笑い、手を差し出す。レオも笑みを浮かべ、その手を握る。
「ではスコール二丁と弾薬を頂きますぜ。少し待っていて下せえな。必要な部品を見繕ってパッケージしましょう」
ジャッキーはそう言って、部下である男に指示を飛ばす。
「物々交換で済んだみたいだ」
レオはジミーにそう呟く。
「日々の賜物だな。ま、ジャッキーは無茶なことは言わん男だ。次の依頼でそれなりにサービスしてやれ」
ジミーの言葉に、レオは頷く。そもそも、ジャッキーからの依頼の大半は防衛か報復だ。どちらも大したことじゃない。
「良い報告が出来そうでよかった」
そうレオは呟く。リアは喜ぶだろう。
それを聞きながら、ジミーはやはり笑っていた。




