やるべきこと
《ゴブリン》とスコール二丁を積んだトラックが、街中を走っていく。
レオは運転しながら、横目で助手席に座るジミーを見る。ジミーは視線に気付くと、にやと笑って見せた。
「お前はちょーっと甘やかし過ぎだな。どんどん我が儘になっちまうぞ」
言葉とは裏腹に、ジミーは楽しそうだ。
レオは僅かに顔をしかめる。
「甘やかす? 暗い部屋に閉じこめて、同年代の奴と遊ぶことも出来ない。今叶うことぐらいは、叶えてやってもいいじゃないか」
足りないぐらいだと、レオは言外に伝える。
しかし、ジミーは短く笑う。
「そりゃあ高望みし過ぎたな。何しろ、遊んでる奴の方が少ない。教会通りはまだマシな方だから、そう思っちまうのも無理はないがな」
ジミーの言っていることも分かる。リアにしろ自分にしろ、同年代で気兼ねなく遊んでいるような人間は見たことがない。売れるものを売って、生きる糧を得る。それだけだ。
「……少なくとも、自由ではある」
「そうかもな。だが、自由そのものに大きな価値はないぞ。自由の横に、何がくっついてるかが重要なんだ」
ジミーはきっと、土台の話をしている。地雷原の上で自由にしても、不幸な未来しか見えない。
自由の横にくっつけるべき物を、自分もこの世界も持っていない。
運転しながら、レオは街並みを眺める。舗装路に家屋、露天商……そこに携わる人々は、それでもやはり自由に見えた。
当然、レオにも分かっている。ここセントラルシティ、通称教会通りは。人らしい営みが残っている数少ない場所だ。
かつては、この情景が普通だったらしいが。今は違う。セントラルシティを一歩出れば、そこには廃墟や残骸、色とりどりの罠にぎらついた目……それが普通だ。
少なくとも、自分の知っている普通はそれだった。
「それじゃあ、ずっとこのままなのか? ずっと閉じこめて」
レオの脳裏には、カプセルに封入され、真っ赤に染まっていたリアの姿が浮かぶ。
「それはそれで甘い考えだな。ずっとこのまま。本当にそれが出来るのか? 明日明後日に死ぬかも知れない俺達が、十年二十年生きてこのままを維持出来るのか?」
ジミーの言葉を受け、レオは溜息を吐く。
「……ジミーの言うことはいつも正しいな。それが正解だって分かるけど、いまいち納得が出来ない」
ジミーは短く笑う。
「なら簡潔に纏めるか。お前がしなきゃいけないのは、後にも先にも一つだけ」
「死なない程度に稼ぐ」
「そうだ。そして、お前自身が閉じこめる側で居続けろ。あいつを閉じこめたい奴は沢山いる。教会、ごろつき、商会だって黙ってないだろうな」
だからこそ、とジミーは続ける。
「お前が、責任を持って閉じこめるべきだろうよ」
支配されるな、支配しろ。自分が教わった、戦術理論の一つだ。戦闘だけではなく、ありとあらゆることに言える。
「それでも、本人の意見を聞くべきじゃないか?」
「教会とごろつきと商会と自分、どれを選ぶか聞くのか? お前殴られるぞ」
楽しげなジミーに、レオは怪訝そうな表情を浮かべる。
「何で殴られるんだ。それ、殴られるようなこと聞いてるのか?」
当たり前だろ、とジミーは呆れたように言う。
「あの我が儘屋さんなら殴るね。賭けてもいい」
「身内とやるギャンブルほど虚しいものはない。聞かないようにする」
「賢明だな」
トラックは進み続け、段々と舗装路がなくなっていく。明るかった街並みも、少しずつ陰っていく。セントラルシティの外苑に近付きつつあるのだ。中央から離れれば離れる程、この街は世界へと近付いていく。
「……そんなに甘いかな。自分だと分からない」
レオはジミーに問う。リアへの扱いについてだ。
「甘いな。あいつ、自分用の玩具に適当なidが欲しいだけだろ」
「……まあ、そうだろうけど。《ゴブリン》は売っても大した額にならないし」
一週間以上の食費が賄える程度のものだ。idの整備費用には全然足りない。
「でもな。大した額でなくても金は金。仮に一週間ちょいの食費が賄えるとしたら、それはそれででかいだろ」
レオ自身、ちょうど食費のことを考えていた。それ故に、ジミーの言うことがよく分かった。
「それプラス、インターフェイスだとか座席だとか。出費増えてないか?」
レオは言葉に詰まる。それはそう、としか思えないからだ。
「でもお前は条件付きでオーケーを出した。これを甘いと言わず何て言うんだ? 英断か?」
レオは息を深く吐く。
「……英断ではなさそう」
「そうだな」
しばらく無言で運転する。舗装路はすっかりなくなり、地面のがたつきも増えてきた。
「ジミーは反対なのか?」
レオは再度問う。ジミーは短く笑う。
「賛成か反対かで言えば反対だけどな。お前が決めたことなら、それでもいいと思ってるよ。だが、甘やかしてるなあって自覚は持った方がいい」
渋い顔をしながら、それでもレオは頷く。ジミーは間違ったことは滅多に言わない。
それに、とレオは口を開く。
「綺麗な操縦席、つまり美品だろ。そうそうあるもんじゃない。なければ諦めも付く」
そういう条件で承諾したのだ。しかし、ジミーは含みのある笑い声を返す。
「ジャッキーの所だけ見るって話だもんな。見えてきたぞ」
遠方にある残骸の山、そこが目的地だ。ここからはまだ見えないが、残骸の側にこじんまりとした小屋がある。ジャッキーのスクラップヤード、良店だ。
「ああ。今日やるべきことはこれだけじゃない。さっさと済ませて、仕事を見繕わないと」
そう言うと、レオはトラックの速度を上げる。相も変わらず、ジミーは短く笑い、そうだなと相槌を打った。




