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蒼失の空_EndOfFurthest  作者: 秋久 麻衣
第一章_焼け堕ちた未来
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無人の災厄


 《ゴブリン》は積載したまま武装は売り、操縦席用のパーツを新たに積んだ。

 とりあえずこれを拠点に降ろしてしまおうと、レオとジミーのトラックは帰路に付いていた。

 舗装路は見えてこない。つまり、まだ外苑に近い位置にいる。

「これを降ろしたら、次は教会に行こう。割の良い仕事に取り次いで貰えたら大きい」

 レオはそう言いながらも、その可能性は低いと考えていた。

「ま、商会の仕事は下の下だからな。支払いもあっちのメダルとくれば、なるだけ避けたいもんだ」

 ジミーの言う通りである。だが、結局そちらも覗くことになるだろう。教会の仕事は、そもそも数が少ない。加えて、教会自体が武力を保有している。わざわざ外の人間を使う必要など、本来ないのだ。

「無人機狩り(ヴァグハント)に関しては? どう思う?」

 レオの問いに、ジミーが珍しく顔をしかめる。

「あまり勧めたくはねえな。倫理的なことを考えなけりゃ、中身が入ってるidを撃つ方が楽だ」

 その通りだとレオは頷く。セントラルシティ外苑より更に遠方、砂漠市場をも越えた先にある場所に。大量の無人機が闊歩している。

 なぜやどうしては考えない。考える必要がない。肝要なのは、それが莫大な金になる、ということだ。

 無人機……通称ヴァグラントは、一定周期でその数を増やしている。少ない内は、自分達のテリトリーを守るだけだが。数が増えるにつれ、そのテリトリーもまた増大していく。

 故に、ヴァグラントは定期的に減らす必要があるのだ。その役割は教会が担っており、その補助としてランサーを雇うこともある。

 問題はただ一つ。ヴァグラントは、idとは比べ物にならない程に強力、という点だ。

 レオ自身、数回交戦したことがあるが。どれも辛勝といった印象だ。

「そうだよな。そろそろそういう時期だと思って」

「そういうのは教会と死にたがりに任せようぜ。俺達は俺達の稼ぎ方をする」

 レオは頷き、運転に集中する。その時だった。

 背後、恐らく遠方からだろう。爆発による音と振動が、トラックを軽く揺さぶる。

 こちらを狙った物ではないと、レオとジミーは経験から判断する。トラックの速度を落としながら、二人は音のした方向を見た。

 レオは目を細め、ジミーは顔をしかめる。セントラルシティ外苑、その外壁が黒煙を吐き出していた。レオはトラックを停車させ、運転席から身を乗り出すようにして振り返る。

「ただの馬鹿騒ぎか? それとも」

 レオはそう呟きながら周囲を窺い、ジミーはイヤホンを耳に入れ携帯端末を操作する。

 探りを入れて数秒、二人は同時に答えを得た。

 レオはその目で、ジミーはその耳で二機の機影を捉えたのだ。

 その機影は、小型の肉食恐竜を思わせる体躯をしている。小型といっても、その姿はidよりも一回り大きい。

「ヴァグラント、《リザードマン》だ」

 レオがその名を呟く。

 VR-02《リザードマン》……もっとも、今の姿はラプトルと呼称した方が正しいだろう。二本の脚で地上を蹴り、前傾姿勢となった姿勢の前面には武装を兼ねた腕がある。そのシルエットから小型の肉食恐竜、ヴェロキラプトルに例えられる。

 レオ自身は恐竜に詳しい訳ではないが、ヴァグラントの知識を得る上でイメージ図を見たことがあった。確かに、似ていると言えば似ている。

「それが二機。近くを根城にしてるランサー、ベッティのとこか? そこが迎撃に入った」

 ジミーの報告通り、遠方で跳ね回っている《リザードマン》へ、銃火が伸びていくのが見える。しかし、的中打は少ない。あの独特な前傾姿勢による疾走は、照準を付ける暇すら与えてくれない。

 レオは運転席に座り直し、ジミーに視線を向ける。

「三割か?」

「一割もない。《ゴブリン》が四機、スコールを賑やかしに撃ってる。効き目は見ての通りだ」

 勝てる確率をお互いに算出する。この場合、

ジミーの見立てが合っていそうだ。

「教会の連中は?」

「どうも動きが遅い。ここだけじゃないのかもな」

 そう言って、ジミーは自身の端末をつつく。この装備では、満足に音も聞けないのだろう。

 イヤホンに指をあてがい、ジミーが唸る。

「まずいな。威張り屋のベッティファミリーに火が付くのは構わないんだが。あいつら戦線を広げちまってる」

「つまり?」

「スラムとジャンクヤードに近付いてる。ジャッキーの縄張りだな」

 ジミーの答えを受け、レオは盛大に溜息を吐きながら運転席のシートに沈む。

「……ジャッキーから連絡は?」

「ないな。それどころじゃないんだろうさ」

 レオは唸り、数秒目を瞑る。

 見なかったことにして、撤退することも出来る。危険度が高い上に、見返りは少ない。契約書を交わす暇もない。

 だが、下世話な言い方をすればジャッキーは使える男だ。スラムにも知り合いがいる。

 レオは目を開き、ジミーを見る。ジミーはイヤホンに手を当て、じっと音を聞いている。損得勘定をする度に、レオはジミーのことを思い返す。ジミーはなぜ、何も出来ない自分を助けたのか。

 彼の損得勘定では、あの時に得を見出していたのだろうか。自分には分からない。

「……ジミー、ジャッキーと連絡をつけてくれ。全力で恩を売る。絶対にこの件に巻き込め。今日の回線は?」

「八十五番」

 レオは頷き、自身の携帯端末を取り出す。指定された回線を通し、長距離連絡を試みる。

 コールすること数秒、すぐに通信は繋がった。

『レオ? なんかあったの?』

 リアの声だ。緊張感も何もない。ということは、彼女のいる地区は何も起きていないのか。

「緊急だ。討伐装備で《ラビットリッパー》を持ってきてくれ」

 端末越しに、リアが素っ頓狂な声を上げる。

『討伐? 討伐って言った? ヴァグの?』

「ああそう言った。ヴァグラントの襲撃だ、戦力がいる」

『ああもう! 教会に任せればいいじゃん!』

 もっともなことを言う。しかし、リアは文句を言いながらもこなしてくれるだろう。

「このトラックを追跡してくれ。何分で来れる?」

『五分で行く!』

 そう返すと、リアは通信を切った。これでいい。あとは合流するだけだ。

 レオはトラックを発進させる。ヴァグラントのいる方向ではなく、自分達の拠点に向かって走行する。一刻も早くidを受け取る為だ。

「idが来たら俺は行く。二人はこいつで安全な場所まで下がってくれ。ジャッキーへの連絡は?」

「まだつかないな」

「引き続き頼む。追加で、ジャッキーに潰していいジャンクヤードを聞いておいてくれ。そこでカタを付ける」

 はいよ、と返事をしジミーは携帯端末を操作する。

「……騎士団の連中が仕事をしていれば、こんなこと」

 レオはそう毒吐く。教会の保有する戦力についてだ。彼らの用いるidは、ランサーの寄せ集めとは格が違う。

 そもそも、街中にヴァグラントの侵入を許している時点でおかしい。

「そうでなくても、この辺りは教会の威光とやらが薄いからな。それが良いってこともあれば、悪いこともある。今回は片側に寄っちまったが」

 ジミーの言葉に、レオは無言で頷く。ジャッキーがスラムとジャンクヤードを纏めることが出来るのは、ここが外苑だからだ。教会通り中央で、同じことは出来ない。

 トラックが走ること数分、見知った影が真横に着地した。レオはトラックを降り、飛来してきた相棒を見据える。

 id、《ラビットリッパー》の上方から、ガスマスクを付けたリアがひょこりと顔を出し、手慣れた様子でidから飛び降りた。

「ADRとフリパ、ブレード一式。フリパ、弾がないから二発だけね。燃料(レフ)はあるだけ入れた。この一戦だけならほぼフルスペックだよ」

 ガスマスク越しのくぐもった声で、リアは簡潔に説明してくれた。レオは頷き、《ラビットリッパー》の装甲に足をかける。

「レオ! その、えっと。ほんとに気を付けてよ。そこら辺の奴なら心配もしないけど、ヴァグラントは」

 ガスマスクのせいで表情は分からない。だが、レオはリアがどんな表情をしているのか分かった。

 レオはリアを見据え、口を開く。

「心配ならこの後に取っておいてくれ。死ぬほど赤字が出る」

 そう言ってレオは笑みを浮かべる。リアは無言のまま、小さく頷いた。

 装甲をよじ登るようにして、レオは《ラビットリッパー》の操縦席へと滑り込む。

 リアは、そこら辺の奴なら心配もしない、と言ったが。実際は、土壇場ですぐに心配をする癖がある。リアらしい仕草だ。

「さっさと済ませよう」

 あまり心労を掛けるのもよくない。レオは《ラビットリッパー》を名前通りに跳ねさせ、来た道を戻っていった。

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