帰路
追加の仕事、その後始末を終え、レオとリアはハーベルへ戻ってきた。
そこでサインと追加の報酬を貰い、さっさと二人は集落を後にする。
ハーベルの人々は喜んでいたものの、トラックに増えた《ゴブリン》の機影は見ないように努めていた。布で覆い、隠していたとはいえ。まともな人間なら、そこに人の死を感じ取るだろう。
そしてまともな人間ならば、それが何よりの証拠となることを知っている。脅威は取り除かれたという、何よりの証拠だ。
そんなハーベルを後にしたレオとリアは、トラックに揺られながら帰路に付く。
ヘッドセットの向こうでは、ジミーが今も音を聞き、警戒を続けているだろう。
「出来ればバージョン違いの《ゴブリン》が良かった。あれ、武装パーツはそこそこ売れるから」
話題はどうしても手に入れた戦利品の値踏みとなる。リアは端末をいじりながら、うーんと唸る。今はガスマスクを外しており、ころころ変わる表情が直接見えるようになっている。
「ダメだ。状態がいいだけの《ゴブリン》じゃ、どうやっても儲からない。赤字分の補填には利かないよ」
「やっぱり、そうか……」
まあ、分かっていたことではある。それでもやはり、がくりと来てしまう事実だ。
「教会に請求出来ないの?」
「あいつら出し渋るからな。選考待ちで有耶無耶にされる。それに、今回は輸送中の戦闘じゃない。契約外だ」
赤字の補填には、別途仕事を見繕うしかない。問題は、ちょうどいい仕事があるかどうかだ。うまく選ばないと、小競り合いの尖兵にさせられる。結果は先程見てきた通りだ。
「世知辛いねー」
リアの呟きに、ほんとになとレオは返す。
そこから先は、特にトラブルもなくトラックは走っていく。ハーベルから目的地まで、それなりの距離がある。途中でリアは欠伸をし、助手席で丸まって眠っていた。
黙々と運転を続ける内に、だんだんと道が拓けてきた。セントラルシティ、通称教会通りに近付きつつあるのだ。
「リア、そろそろ」
片手でぽんぽんと、丸まっているリアを叩く。何度かそれを繰り返すと、リアは唸り始めた。
「うー、もー。なに?」
「そろそろ教会通りに着く」
「……はーい」
リアはもぞもぞと動きながら、ガスマスクとフードを被る。ここから先、自分達の拠点へ辿り着くまで。リアはこの顔で過ごす。
荒れていた筈の道路が、少しずつ舗装路へと変わっていく。
「まず拠点に寄って、お前と《ゴブリン》を降ろす。ジミーと先に休んでくれ」
「……待ってるから早く帰ってきてよ」
ガスマスク越しでも分かる。目を細め、不満げな表情をしているのだろう。
「分かってる。こいつを納品して報酬を貰ったら、それで今日は仕舞いだ」
レオは苦笑しながら言う。リアはあの時より大きくなった。大きくなったとはいえ、こういう所は変わらない。
進行方向に、壁と検問所が見えてきた。セントラルシティ、通称教会通りの外苑入り口だ。
「少なくとも、今日ぐらいは腹一杯食おう。貧乏になるのは明日からでいい」
「それはそうだね。良いことを言う」
レオとリアはそんなことを言い合いながら、セントラルシティへと近付く。
都市国家や政治基盤なるものは、自分が生まれるずっと前に崩壊してしまったらしい。最終的に、人々の営みを守ることが出来たのは教会だった。その教会を中心に、セントラルシティは構成されている。
もっとも文明的な場所であり、もっとも教会と近い場所、それがセントラルシティだ。
教会に追われる身であるリアが、隠れ潜んでいる場所でもある。
二人を乗せたトラックは、特に苦労もなく検問を越え、街へと入る。
五年も経ったのだ。すっかりリアは、この街の住民となった。頻繁に外出することはないが、顔馴染みの知り合いや友人もいる。
だが、彼女の顔は常にガスマスクに覆われているのだ。その檻がなければ、自分はリアを守れない。
レオの望みは、未だ叶わないままだった。




