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蒼失の空_EndOfFurthest  作者: 秋久 麻衣
第一章_焼け堕ちた未来
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ありふれた光景


 片付いたことを伝え、リアに合流するよう指示する。レオはidから降りながら、まず愛機である《ラビットリッパー》を見る。

 被弾痕が幾つか。この装甲は使い回せる筈だ。つまりノーカウントである。間接等の当たってはいけない箇所は無事。最低限これならば上出来だろう。

 銃器は使っていない。つまりそれだけ弾代が浮いた。良いことだ。

 ブレードチャージャーとスマッシュブレードは使ったが、これは沢山使えるのが売りなので問題ない。燃料は……ちょっと良くないかも知れない。

 レオは頭を振って悲しい気持ちを追いやる。どう転んでも赤字だと、分かっていた筈だ。

 今度はこっちの番だと、倒れているゴブリンに近付く。操縦者は即死だ。巨大なブレードが擦過した影響で、身体が半分くらいのサイズになっている。幸いなのは、ブレードが熱を持っているお陰でステーキが出来上がり、出血が少ない点だ。

 レオは持ってきた黒い袋で遺体を覆うと、適当に固定する。そして、テールアンカーのワイヤーでゴブリンを巻き付けた。

「今から目標を連れて移動する。場所は……この近くだとちょうど捨て谷があったよな。あそこで落ち合おう。自動運転で来れる筈だ」

『今設定して、出発してる』

 リアの返事を受け、レオも自身のid、《ラビットリッパー》に乗り込む。

「ジミー、他にはもう来ないよな?」

『ああ。何も聞こえない』

 それならいいと、レオはidを発進させる。ワイヤーで絡めた《ゴブリン》が、ずるずると後ろを付いてきている。

 そのまま他愛のないことを話しながら、レオの《ラビットリッパー》は目的地である捨て谷へ到着した。

「一応、《ゴブリン》は取っておいた方がいいんだよな?」

『うん、ボクが見てみる。あと数分で着くよ』

 了解と返し、レオはidから降りる。引きずられた《ゴブリン》に近付くと、そこに固定してあった黒い袋を運ぶ。湿った感触に冷たい温度、すっかり馴染んだ臭いを感じながら、それを担いで歩く。

 そして、その袋を谷底へと投げ捨てた。しゃがみ込み、落ちていく袋を見守る。ありふれた末路だ。

 自分と男の違いは、そう大きくはない。自分はたまたまジミーに見出され、仕事を覚えることが出来た。

 そうでなければ、自分もこの男のように。金の為に戦場へ飛び込むランサーになっていただろう。或いは、そうなる前に。強者に全て奪われ、そこらに転がっていたかも知れない。

 黒い袋はもう見えない。この捨て谷が、いつからこうなっているのかは分からない。底の見えない裂け目は、大戦の影響か自然現象か。いずれにせよ深い谷は、何かを捨てるには打って付けだった。

 トラックの音を聞きつけ、レオは振り返る。リアの乗ったトラックが到着したのだ。彼女はトラックから飛び降りると、早速《ゴブリン》を検分し始めた。

「血塗れって感じじゃないね。この切断面、ブレチャ使ったんだ。あれもタダじゃないんだけど」

 横に並びながら、レオはリアの小言に肩を竦める。

「うーん。座席は汚れてるし、操縦関係は焼けてる。これ、ここの部分。丸ごと外せるから。それ捨てて、無事な部分は持って帰ろうか」

 はいよとレオは返し、リアの指示を受けながら操縦席の一角を取り外していく。

「結構綺麗に斬ったつもりだけど、売れそう?」

 レオの問いに、リアは両腕を組んで熟考する。

「……どう売っても安値にしかならないよ。元が安いし」

 でも、とリアは笑みを浮かべる。

「スコール二丁と弾薬。これは売り方次第かな。使わないでしょ、スコール」

「あんまり使わないな」

 取り外した部位を、黒い袋と同じように谷へ捨てる。レオは何往復かして全ての破棄部品を捨て、谷底を見遣る。

 リアもまた谷底を覗き込み、底の見えない暗闇を見据えていた。

「……明日は我が身だね」

 リアはそう呟く。リアもまた、捨てる側と捨てられる側の境界線を分かっている。その境はあまりにも薄く、覚束ないものだと知っているのだ。

「大丈夫だ。そうはさせない」

 強がり、気休め。そういった類の言葉を、レオはそれでもリアに伝える。そっかとリアは呟き、谷底から目を逸らす。

「さて。洗浄液あったよな? あれで軽く洗ってから、《ゴブリン》を積み込もう」

 レオはそう言ってトラックへ歩き出す。

 死体を包む袋も、死臭を誤魔化す洗浄液も、何もかも揃っている。

 ランサーとして生きていくとは、こういうことなのだ。

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