ありふれた光景
片付いたことを伝え、リアに合流するよう指示する。レオはidから降りながら、まず愛機である《ラビットリッパー》を見る。
被弾痕が幾つか。この装甲は使い回せる筈だ。つまりノーカウントである。間接等の当たってはいけない箇所は無事。最低限これならば上出来だろう。
銃器は使っていない。つまりそれだけ弾代が浮いた。良いことだ。
ブレードチャージャーとスマッシュブレードは使ったが、これは沢山使えるのが売りなので問題ない。燃料は……ちょっと良くないかも知れない。
レオは頭を振って悲しい気持ちを追いやる。どう転んでも赤字だと、分かっていた筈だ。
今度はこっちの番だと、倒れているゴブリンに近付く。操縦者は即死だ。巨大なブレードが擦過した影響で、身体が半分くらいのサイズになっている。幸いなのは、ブレードが熱を持っているお陰でステーキが出来上がり、出血が少ない点だ。
レオは持ってきた黒い袋で遺体を覆うと、適当に固定する。そして、テールアンカーのワイヤーでゴブリンを巻き付けた。
「今から目標を連れて移動する。場所は……この近くだとちょうど捨て谷があったよな。あそこで落ち合おう。自動運転で来れる筈だ」
『今設定して、出発してる』
リアの返事を受け、レオも自身のid、《ラビットリッパー》に乗り込む。
「ジミー、他にはもう来ないよな?」
『ああ。何も聞こえない』
それならいいと、レオはidを発進させる。ワイヤーで絡めた《ゴブリン》が、ずるずると後ろを付いてきている。
そのまま他愛のないことを話しながら、レオの《ラビットリッパー》は目的地である捨て谷へ到着した。
「一応、《ゴブリン》は取っておいた方がいいんだよな?」
『うん、ボクが見てみる。あと数分で着くよ』
了解と返し、レオはidから降りる。引きずられた《ゴブリン》に近付くと、そこに固定してあった黒い袋を運ぶ。湿った感触に冷たい温度、すっかり馴染んだ臭いを感じながら、それを担いで歩く。
そして、その袋を谷底へと投げ捨てた。しゃがみ込み、落ちていく袋を見守る。ありふれた末路だ。
自分と男の違いは、そう大きくはない。自分はたまたまジミーに見出され、仕事を覚えることが出来た。
そうでなければ、自分もこの男のように。金の為に戦場へ飛び込むランサーになっていただろう。或いは、そうなる前に。強者に全て奪われ、そこらに転がっていたかも知れない。
黒い袋はもう見えない。この捨て谷が、いつからこうなっているのかは分からない。底の見えない裂け目は、大戦の影響か自然現象か。いずれにせよ深い谷は、何かを捨てるには打って付けだった。
トラックの音を聞きつけ、レオは振り返る。リアの乗ったトラックが到着したのだ。彼女はトラックから飛び降りると、早速《ゴブリン》を検分し始めた。
「血塗れって感じじゃないね。この切断面、ブレチャ使ったんだ。あれもタダじゃないんだけど」
横に並びながら、レオはリアの小言に肩を竦める。
「うーん。座席は汚れてるし、操縦関係は焼けてる。これ、ここの部分。丸ごと外せるから。それ捨てて、無事な部分は持って帰ろうか」
はいよとレオは返し、リアの指示を受けながら操縦席の一角を取り外していく。
「結構綺麗に斬ったつもりだけど、売れそう?」
レオの問いに、リアは両腕を組んで熟考する。
「……どう売っても安値にしかならないよ。元が安いし」
でも、とリアは笑みを浮かべる。
「スコール二丁と弾薬。これは売り方次第かな。使わないでしょ、スコール」
「あんまり使わないな」
取り外した部位を、黒い袋と同じように谷へ捨てる。レオは何往復かして全ての破棄部品を捨て、谷底を見遣る。
リアもまた谷底を覗き込み、底の見えない暗闇を見据えていた。
「……明日は我が身だね」
リアはそう呟く。リアもまた、捨てる側と捨てられる側の境界線を分かっている。その境はあまりにも薄く、覚束ないものだと知っているのだ。
「大丈夫だ。そうはさせない」
強がり、気休め。そういった類の言葉を、レオはそれでもリアに伝える。そっかとリアは呟き、谷底から目を逸らす。
「さて。洗浄液あったよな? あれで軽く洗ってから、《ゴブリン》を積み込もう」
レオはそう言ってトラックへ歩き出す。
死体を包む袋も、死臭を誤魔化す洗浄液も、何もかも揃っている。
ランサーとして生きていくとは、こういうことなのだ。




