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蒼失の空_EndOfFurthest  作者: 秋久 麻衣
第一章_焼け堕ちた未来
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兎と子鬼


 レオの操縦するid、《ラビットリッパー》は木々の間をすり抜けていく。並の車両なら大きく蛇行して速度を落とす場面でも、idならば問題はない。

 半人型兵器、id(アイディ)……インナードールの優位性はこの機動力にある。瓦礫や残骸、障害物が幾らあろうとも、それらを踏み越え避け、時にはその上を滑る。

 idの脚部、その足裏にはブレードがある。グラインドスケートと呼称される装備であり、idの中で二番目に高額とされる代物だ。

 グラインドスケートは摩擦係数の少ない底面と、鋭利なブレードで構成されており、路面から瓦礫ひしめくジャンクヤードまで、自在に滑走することが出来る。

 グラインドスケートで地面や障害物を滑りながら、機体各所にあるスタビライズバーニアを噴かし慣性をコントロールする。idの戦闘機動は、言ってしまえばその繰り返しだ。

 全長三メートル以上の巨体が、馬鹿でかい銃やメイスを携えて滑走する。その上比較的安価とくれば、戦場の様相がどうなるかは想像に難しくない。

 操縦席が解放されている為、肌で風を感じながら、レオは極力バーニアを噴かさないように森を滑り抜けていく。バーニアを渋っている理由は他でもない。

『燃料(レフ)代だけで儲けが飛んでくね』

 ヘッドセット越しの声、リアが答えを言う。これでも加減をしている方なのだが。

『まあしょうがないさ。目標は近い、改めて分かってることを言うぞ』

 ジミーが咳払いをし、話を続ける。

『コンジェネの駆動音から、相手は《ゴブリン》、数は一機。手負いだな。脚部から異音、操縦者は興奮して怒鳴りっぱなし。武装は……一発も撃ってないから分からんな』

『音だけでよく分かるよね』

 ジミーの報告に、感心したようにリアがそう言う。ジミーが、というよりソナーマンという職種は。音だけで世界を探る。

 各地にあるソナーブイや、あらかじめ埋め込んでおいたソナーポイントを活用し、音を聞き危険を察する。この世界、この時代において、音こそがもっとも速い索敵方法なのだ。

『練習次第だよ。俺は逆に、ガーデナーの仕事の方が分からん』

 ガーデナー、庭師と呼称される職種は、整備や改造を担当している。ソナーマンにしろガーデナーにしろ、ランサーに必要な専門職だ。

『練習次第だね。オモチャを組み立ててるだけ』

 リアはそう返す。実際、リアにとって庭師の仕事は、玩具の組立て程度の難易度だろう。

「《ゴブリン》か。きつい相手ではないけど」

 レオはジミーの報告を思い返す。《ゴブリン》は、もっとも安価なidだ。中古品のジェネレーターで、有り合わせのパーツを動かしている。それでも一応の戦闘機動が取れることから、戦場ではそれなりに見かけることになる。

 性能面で見れば怖い相手ではない。しかし。

『儲けにもなりづらいね。《アミュレット》なら高く捌けたし、捌かなくてもパーツが使えた』

 リアの正論に、ジミーが笑う。

『こんな場末の戦場に、《アミュレット》なんていやしない』

 《アミュレット》もまた、安価なidではあるが。ゴブリンとは比較するのも失礼な程に性能が高く、値段も高い。

『ああ……ボクの《ラビットリッパー》につまらないものを斬らせるなんて。気が進まないね、レオ』

 あんまりなリアの言い分に、レオも短く笑う。

「なるべく傷は付けないようにするよ」

『いいよ。そんな所で怪我されてもやだし』

 リアなりに心配しているのだろう。土壇場で不安になるのは、リアらしい仕草だった。

「怪我するようなら、赤字どころじゃないな。目標が近い、安く済むように祈ってくれ」

 レオはそう返し、操縦に集中する。途中、腰背面にあるテールアンカーを起動、適当な大岩に打ち込んでから前進する。

 テールアンカーは名前の通り、腰背面にあるワイヤーアンカーだ。様々な使い方があるか、今回はもっとも標準的な使い方をする。

 そのままワイヤーを伸ばしながら前進し、森を突き抜けて開けた場所に出た。

 目当ての場所だ。数秒後、同じように反対側の森を突き抜け、一機のidが飛び出してきた。

 idは報告通り《ゴブリン》、操縦席から顔を出している若い男は、こちらを見ると目を大きく見開く。

「な、なんだよお前は!」

 《ゴブリン》の両腕が動き、そこに握られた二丁のid用突撃銃がこちらに向けられる。

 男がトリガーを引く前に、レオは立ち上がり両手を上げた。

「落ち着いて聞け。ここから先は俺が仕事で出入りしている場所がある。黙って引き返せば、それで話は終わりだ」

 レオは要点をまとめ、簡潔に要求を伝える。伝えながら、まあ聞く耳は持たないだろうなと身構える。

「……ふざけんなお前が!」

 怒声、数秒後に銃声……その数瞬前にレオは操縦席に座り込むと、真横に跳ねてから滑走を開始した。

 《ゴブリン》はその場からろくに動かずに……右脚部が損傷しているのだろう、あまりに動けずに、両腕の突撃銃を乱射する。

 レオの《ラビットリッパー》は相手の《ゴブリン》を中心に据え、弧を描くように滑走する。《ラビットリッパー》は手に何も持っていない。故に左腕を盾代わりに操縦席を守りながら、ひたすら回り込むように動いていく。

 銃弾の殆どは脇をすり抜けていくが、幾つかは外装、及び左腕に当たり火花を散らす。だが装甲が抜かれることはない。

 相手が使っている突撃銃はKV-27スコール、その弾丸は対人対車両を主軸に置いている。idの主装甲は抜けない。

 レオは反撃の為に出力を調整する。《ラビットリッパー》右肩にある装備が駆動し、高音を響かせた。その装備は、言ってしまえば鞘だ。

 鞘の名はブレードチャージャー、リア特製の扱いづらい武装だ。そこには一振りの長剣、スマッシュブレードが格納されている。

 右肩にあるブレードチャージャーが、一際大きく唸るのと、《ゴブリン》の乱射している突撃銃が弾切れになるのは、ほぼ同時だった。

 レオの《ラビットリッパー》は、回避機動を止め跳躍する。と同時に、今まで垂らし続けていたワイヤーを巻き取り始めた。

 レオにだけは見えている。アンカーを打ち込んだ大岩と、敵の《ゴブリン》、そして自分の《ラビットリッパー》が、一文字に結ばれている様が。

 巻き取ったワイヤーは、空中にいる《ラビットリッパー》をぐいと引き寄せた。

 《ゴブリン》は苦し紛れに突撃銃を投げ付けるも、《ラビットリッパー》は苦もなくそれを左腕で払いのける。

 そして《ゴブリン》の上方を通り過ぎる前に、《ラビットリッパー》の右腕が動く。右肩のスマッシュブレードを引き抜きながら体勢を変え、赤熱化した刃を下方に振り抜いたのだ。

「え……」

 男が最期に出来たのは、そう呟くことだけだ。

 ブレードチャージャーによって研磨、赤熱化したスマッシュブレードは、装甲を物ともせずに両断、操縦席を中身ごと撫で斬った。

 《ラビットリッパー》はバーニアを噴かし体勢を整え、着地と同時に剣を鞘に納める。

 主を失った《ゴブリン》は、膝から崩れるようにして倒れ込んだ。

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