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蒼失の空_EndOfFurthest  作者: 秋久 麻衣
第一章_焼け堕ちた未来
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もう一つの仕事


 作業は単純であり、つつがなく終わることが出来た。トラックから物資を降ろし、空いたスペースに食糧を積む。これを教会に納品すれば、仕事は終わりだ。

 荷物がきちんと固定されているかどうか、漏れがないかを、レオは自分の目で見て回る。これも、ジミーから教わったことだ。

「問題なし。挨拶して出るか」

 腰に手を当て、レオは満足げに頷く。あとは代表であるオウサムに、一声掛けてとんぼ帰りだ。

『レオ、今いいか?』

 ヘッドセットから声が響く。ジミーの声だ。このタイミングでの連絡は、まず間違いなく面倒ごとだろう。

「トラブル、だよな」

 肩を落としながらレオは問う。

『ああ。悪い予想が当たりそうだ。例のチンピラ、場末のランサー同士の小競り合いだな。これ自体は収束、どっちが勝ったかはまあ、どうでもいいんだが』

 確かにとレオは頷く。意地とプライドで殴り合ってるだけの連中だ。こちらの事情とは関係がない。

『問題は、負けた方の連中が散り散りになって逃げやがってな。運の悪い事に、一機そっちに向かっている』

 レオは少し考え、集落の方を見る。

「そっちって言うのはハーベルか? それとも輸送ルート?」

『ハーベルだ。地形、音の感じからして、ほぼ間違いなく集落に辿り着く』

 溜息を吐きながら、レオは再び考える。状況は単純、ここハーベルに敗残兵がやってくる。気が立ったチンピラが何をするかは、想像に難しくない。

 契約にはない状況だ。慈善事業をやっている訳ではない。ランサーとして正しい選択は、今すぐここを立ち去り、仕事を終わらせることだろう。

「……今回はケチが付いたな。代表に話を付けてくる。リー、ちょっといいか!」

 レオはトラックにいるだろうリアを呼ぶ。リアは窓から手を出し、ひらひら振っている。

「トラブルだ。《ラビットリッパー》の準備を頼む」

 リアの手はぴたと止まり、親指を立てると引っ込む。レオは頷き、再び集落へと歩き出す。

「ジミーは敵の状況を都度報告してくれ。先回りするようにしたい」

『はいよ。損して得を取る、商売の基本だ』

 心得ていると胸中で返し、レオはハーベルの代表であるオウサムの姿を探す。

 契約にないのならば、契約を作ればいい。

 オウサムは二つ返事で同意し、レオとリアは集落を後にした。







 森の奥深く、トラックが悪路を踏み越えていく。集落から離れるような位置取りをしながら、レオは運転を続ける。

「これが今回の契約書かあ。ま、分かってたけど少ないね」

 契約書を眺めながら、助手席にいるリアは率直な感想を言う。ガスマスクは外しており、赤い眼は文字を追いかけている。

「ハーベルはそこまで裕福な訳じゃないからな。その額だって、殆ど代表の懐から出てる」

 信頼と契約の押し売り……ジミーの教えの一つだ。もっとも、それが成り立つのはジミーの人脈あってのことだが。

 集落への危機が迫っているという話に対し、代表であるオウサムは迷った様子もなく新たな契約を受け入れた。何年も同じ仕事をしてきた信頼と、旧友であるジミーとの縁が、この結果をもたらした。

「まあ正直赤字だな。元々、この輸送任務は実入りが少ない。id一機動かしただけで、儲けが吹っ飛ぶ」

 でも、とレオは続ける。

「やれるだけはやった。そこにも書いてあるだろ。物品の譲渡」

「あるね。やっぱり食糧がメインか。まあ食べ物は嬉しいね、しばらく極貧生活だろうから。あとは……何か知らないのがある」

 ふふんとレオは得意げに鼻を鳴らす。

「そこら辺の奴が目玉。具合の良いスキンケア用品だ。しかも新品。お前がうまく使ってくれ」

 おお、とリアは感嘆する。しかし、すぐに怪訝そうな顔になる。

「ボクは男だって周りに言ってるのに、化粧品を貰ったの? 大丈夫なのそれ? まさか自分が使うとか言った?」

 リアの問いに、レオは短く笑う。

「違う違う。最近出来た彼女への貢ぎ物が欲しい、そう要求した。交渉ってのはこうやる」

「ふうん、なるほどね」

 リアがちらとレオを見る。

「で、彼女出来たの?」

「そんな訳ないだろ?」

 リアの軽口を、レオはそう言って笑い飛ばす。

「ま、次に聞かれたら派手に振られたって筋書きでいく。リアもそんな感じで合わせてくれ」

 嘘をつく際のコツは二つ。真実を混ぜることと、嘘を清算することだ。この場合、混ぜた真実は彼女ではなくリアに渡すということ。あとは派手に別れたことにして、嘘自体を消し去ってしまえばいい。

「分かった。まあその、ありがと。マスク蒸れるし肌も荒れるし。手入れしないと、それこそ人に見せられない顔になっちゃう」

 ぺちぺちと自分の頬に触りながら、リアはそう言う。

「もっと安定して入手出来ると良いんだけどな」

 性別を偽っている弊害の一つだ。嘘を混ぜないと、女性用の用品が買いづらい。

「大丈夫だよ。ボクは相手が叶えられる我が儘しか言わない」

 リアの軽口に、レオは僅かに目を細める。叶えられること、叶えられないこと。その隔たりを、自分はまだ取り払えていない。

『レオ、目標が十五キロ圏内に入った。ルートは変わらん。かち合うぞ』

 ジミーの報告を受け、レオは意識を切り替える。短く息を吐き、トラックを脇に停車させる。

「ここからはidで行く。リア、ここで留守番を頼む。常に回線は開いておいてくれ」

「うん、分かった」

 リアは返事をしながらヘッドセットを付ける。

「何かあったらすぐに言ってくれ」

「大丈夫だよ。ここでごろごろしてるだけ。ジミーが聞いてるんでしょ?」

 リアは苦笑しながらそう返す。

『ああ、周囲に音はない。我らが庭師が退屈しないよう、さっさと片付けちまおう』

 レオは頷き、トラックから降りる。リアに視線を向けると、何を考えているのか笑顔を浮かべピースをした。場違いなポーズにレオは苦笑し、荷台の方へ向かう。

 積み荷に占有されたスペースを闊歩し、目的の場所でレオは布を引き剥がす。

 そこには食糧の入ったコンテナではなく、一機のidがしゃがみ込んでいた。

 背中にあるハッチから入り込み、操縦席へ座る。準備はリアがやっておいてくれたのだろう。idのシステムは即座に立ち上がり、エンジンが唸り声を上げる。

 設定を切り替え、前面の装甲を展開する。これで有視界での操縦が可能になった。

「《ラビットリッパー》、いけるぞ」

『目標の動きは変わらずだ。さっき話したルートで移動しろ』

『覚えてる? 一発でも受けたらお金がバン! だからね』

 ジミーとリアの声をヘッドセット越しに聞きながら、レオは気合いを入れ直す。理由は、先程リアが言った通りだ。

「ああ。赤字を抑えつつ戦う。任せろ」

 そう返し、レオは操縦を開始する。《ラビットリッパー》は軽く跳躍しトラックの荷台から降りると、森の奥へと消えていった。

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