39話 傭兵ギルド
イリアース教とは女神イリアスを唯一神とする、世界最大の宗教団体である。
聖アシュタル皇国の教皇を頂点として、3人の枢機卿、5人の大司教がいる。
世界中のイリアース教の総本山。
しかし、全ての人間は平等であるという教義に異を唱える人達もいる。
改革派は人にも階級があり、寄進によって位が上がるという教義を加えた。
そして支配者階級の貴族が多い改革派は、豊富な資金力で原理主義派を潰していった。
ミルドレイク王国にも2ヶ所に大聖堂があり、原理主義派と改革派に別れている。
国の権力者達は自分達の都合の良いように、教義を改変し原理主義派の弾圧を始めた。
その為、原理主義派の大聖堂は壊され、今では王都に教会が残るのみとなっている。
しかし、勇者や聖女の神託は原理主義派の教会で行われ、『神託の教会』と呼ばれていた。
これを良く思わない権力者達は、『神託の教会』を壊して、新たに改革派の教会を建設しようと画策する。
これに怒った国王アレクシスが計画を中止させた。
だが3年前の神託により、聖女が原理主義のマリアになった事で、危機感を募らせた者達は秘密裏に計画を進めて行くのであった。
「おい盗賊!土地はまだ手に入らないか?」
「すみません。あのじじいが売っちまった様で、買った奴を探してます。」
「土地さえ押さえれば後はどうとでもなる。3ヶ月後、教皇様の来訪までには絶対手に入れろ!」
「分かりました。こちらでも手は考えておりますんで。」
教皇が皇国を出る事は殆ど無い。
今回、魔王討伐の功績により異例の来訪となった。
「誰なんだ、その土地を買った奴は!」
「ハルとか言う組合員ですよ。」
「!?ハルだと!そうか。奴か。」
「ご存知なんで?」
「昨日俺に無礼を働いた奴だ。」
少し考えてムジンは顔を上げた。
「でしたら理由がありますね。ギーダ伯爵に対する殺害未遂の。」
二人は顔を見合わせて笑った。
ある晩、ギーダ伯爵邸に賊が押し入り、伯爵本人が撃退したという事件があった。
これはギーダ伯爵を直接狙った犯行であり、ハルによる逆恨みが原因だと言う事が分かった。
手配書が王都中に撒かれ、組合も協力して捜査が行われている。
ハルがいないとも知らずに。
◇ ◇ ◇
ギーダ伯爵邸に賊が押し入っていた頃、クリス達は帝国との国境を越えていた。
前日に入場出来なかった人が、城壁の周りで天幕を張っている。
帝都へ入場するためには長い長い行列に並ばねばならない。
戦争も終わったと言うのに、敗戦したからなのか高額な入場料を支払わされた。
これが聖剣購入の為である事は知られていない。
帝都に入ったクリス達は傭兵を装い、まずは傭兵ギルドへ向かった。
ギルド内では多くの傭兵が併設のバルで、仲間達と平和な時を過ごしていた。
「おぅ、遅かったな。」
「お前まだ飲んでるのか。仕事はとっくに終わっただろ。」
「家に帰ってもかかあが待ってるだけだからな。」
「そりゃそうだな。わははは。」
ハルが先頭でギンを連れて、意気揚々と入って来た。
「見ない顔だな。俺がここの伝統ってやつを教えてやるか。」
「ギャハハ!やり過ぎんなよ。」
クリスが中に入るとギルド内がざわめいた。
「良い女だな。俺はそっちにするわ。」
続いてマリアが入るとどよめきが起きた。
「おいおい。大司教のローブを着てるぞ。ありゃ王国の聖女だ。」
「じゃあ前の女が勇者か。」
次にラグナが周りを見回しながら入って来ると、途端にギルド内が静かになった。
「バカ!目を合わすな。狂戦士ラグナだ。殺されるぞ!」
「俺、早く帰れば良かったよ。」
アニエスが現れた時には殆どの傭兵は逃げ出した。
「狂乱の魔術師アニエスだ。逃げろ!」
「「「うわぁぁぁ~」」」
すっかり静かになったギルドにハルの声が聞こえた。
「静かですね。ところで皆さん、ここで何をやったんですか?」
「・・・あれはラグナが悪い。」
「なんでだよ。アニエスがやり過ぎたんだろ。」
その時、ギルド内に大声が響いた。
「おーい!お前達!速やかにこちらに来なさい!」
「ギルマス。ご無沙汰してます。」
クリスは握手して挨拶を交わしている。
「皆も元気そうだな。遅くなったが魔王討伐お疲れさん。」
そう言って皆と握手をする。
「君は始めてだな。俺がギルドマスターのアンヘルだ。」
「はじめまして。ハルです。」
取り敢えずギルマスの部屋に移動した。
女性がお茶を運んで来てくれて、全員に行き渡ったのを確認するとアンヘルはクリスに聞いた。
「クルさんの事だろ?」
「ええ。何か知っている事はありますか?」
「クルさんには世話になってる。俺だって助け出してやりたい。だが手掛かりがまったく無いんだ。」
「報償金を出します。情報を集めて貰えませんか?」
「実はもうやってるんだ。それでも見付からないんだよ。帝都中の鉱山を探したんだがな。」
「そうですか。」
「クリス達はどうする?」
「我々も探してみます。」
「そうか、分かった。こちらで出来る事があれば協力しよう。」
「お願いします。」
ギルドを後にした我々は宿を取り、そこを拠点とした。
ハルはそこで留守番だ。
護衛はギンがしてくれるらしい。
それから数日間、クリスとマリア、アニエスとラグナに別れて帝都中の鉱山を探しまわったが、手掛かりすら掴めなかった。




