38話 訳アリ物件
帰り道もアニエスの怒りは収まらない。
「これだから組合は嫌になる。」
確かに組合嫌いなのも分かる気がする。
ハルは今まで組合にはお世話になったし、良い人ばかりと会って来た。
だが王都の総本部がこんなにも酷いとは思わなかった。
嫌な気分の時は何か食べて、気を晴らすしかないな。
金はあるんだし使わないと。
「あっ!そうだ。」
ハルは思い付いてしまった。
昔からやってみたかった事。
「これから不動産屋に行っても良いですか?」
「ハルさん、まだ我々の所から出す事は出来ないよ。」
「分かってます。出る勇気もありません。それより落ち着いたら喫茶店をやりたいんですよ。」
「喫茶店?茶屋の事かな。茶葉を扱うのは大変だよ。相場次第で大損だからね。」
「いやいや。お客さんにお茶を飲んで休憩してもらう感じの場所です。」
「ふ~ん、なるほど。うんそれは良いね。」
商業区の外れに建つ、古い不動産屋に入った。
理由は組合員の証が付いていない店だったからだ。
中を見ると老人が座っていたが、お爺さんなのかお婆さんなのか分からない。
「こんにちは。」
ジロリとこちらを睨んでいたが、顔を上げて言った。
「なんじゃ。客か、珍しいな。」
どうやらお爺さんのようだ。
「ええ。なんか面白そうな物件でも無いかと思って。」
「面白い物件なんぞあるわけなかろう。」
それでもお爺さんは色々な物件資料を見せてくれた。
かなり色褪せているその資料は、長い間売れていない事を示していた。
「値段が安いけど何があるんですか?」
「まぁなんだ。訳ありだな。」
その中にある殆どが事故物件。
曰く付きってやつだ。
「ハルさん、ちょっと見せて。」
「はい。どうぞ。」
しばらく眺めていたアニエスが、書類の束を返しながら言った。
「この訳あり物件全部買ったら?楽しそうじゃない?安いし。」
「そうですかね?じゃあ全部買っちゃいますか。」
「おい。ちょっと待て、お前さん達正気か?」
「アニエスさんも面白そうだっていってますし。」
「ん~~、良いだろう。お前さんに売った。その代わり、この土地を売る時は又ここに来てくれんか。」
「分かりました。約束しますよ。」
「土地物件の登録契約はいつが良いかね?」
「じゃあ今からお願いします。明日から当分留守にするんで。」
「分かったよ。」
「ではこれを。」
土地代全部で白金貨120枚を机の上に置いた。
「!?まさか現金を持ち歩いているとは。」
契約とは土地私有の証が書かれた魔道紙を使い、王城にある地図型魔道具に土地所有者を登録するものである。
契約に使用する魔道紙は、不動産の所有者に渡される権利書の様な物。
魔道紙が意思を読み取り、無理矢理に契約する事は出来ない。
因みに王城にある魔道具は遺跡からの出土品である。
☆
「これで契約は成された。」
「ありがとうございます。」
「いや、こちらこそありがとう。お前さんなら信用出来る。」
「?」
拠点への帰り道。
「アニエスさん、何であの物件を進めたんですか?」
アニエスに聞いてみた。
「買った僕が言うのも何ですけど、もっと良さそうな物件があったと思うんですけど。」
「ははは。この物件を全部集めると広い1つの土地になるんだよね。」
「え!?」
「住所の書き方がどれもバラバラで、最初は気付かなかったけどね。それでよく見たら全部が同じ場所を指してるじゃないか。」
「なるほどねぇ。・・・でもマリアさんには怒られますよね?」
「黙ってれば分からないよ。きっと。」
「本当ですかぁ?」
「ははははは。」
「あの二人は何者なんだ?やつらの仲間では無いとは思うが、まさか全部買って行くとはな。」
爺さんはアニエスとハルを思い出して笑いが出てしまう。
その時店に入って来た者達がいた。
「おい、じじい。いい加減売ったらどうなんだ?」
「何を言っておる。いつでも売ると言うとるではないか。」
「けっ。そんなもん誰が買うかよ。欲しいのは教会の土地だよ!今日はどんな事をしても契約して貰うからな。」
「残念だったのう。たった今売れてしもうたよ。ほれっ。」
売却済みの物件資料を男達に見せる。
「なんだ?いつものゴミ物件じゃないか。」
「これをお前達のボスに見せてやれ。」
「ふざけるな!」
男達はお爺さんを殴り付けると、店中を家捜しを始めた。
しかも目的の物が無いと分かると店を壊し火を着けた。
住民からの通報により、すぐに兵士が駆け付けて来たお陰で、お爺さんは無事だったが、店は燃えてしまった。
◇ ◇ ◇
「お前ら土地は手に入れたんだろうな?」
「いえ、店中探しましたがありませんでした。」
「城の記録では契約は済んでる。お前らは何をしてやがったんだ。」
「そう言えばお頭に渡せって紙があったな。」
「それだ!どこにある?」
「これです。」
部下が持つ書類の束を引ったくる。
「ん?これはなんだ。」
「ですからお頭に見せろって言ってた紙です。」
「これは・・・くそっ!気が付かなかった。こんな所に隠してやがったのか!」
元盗賊の不動産屋シボルは少し考えていたが、良い案が浮かんだのかニヤリと笑って部下に指示を出した。
「今の所有者はハル・マサキって奴だ。お前らは急いで探して来い!
」
「お頭は?」
「俺は他にやる事がある。」
そう言って笑うのだった。




