34話 ハイ・ゴブリンの恐怖
3日後、辺境泊軍はオークの集落を目指して出陣した。
前日の雨で道がぬかるみ、行軍する兵士の足を捕る。
食料を運ぶ馬車の車輪が沈み、更に歩みを遅くする。
到着したのは予定より2日が過ぎていた。
辺境泊軍を待ち構えていたのは、憔悴し切った偵察部隊の兵士だった。
場所も予定より随分離れている。
「閣下に報告致します。昨日、オークの集落が壊滅致しました。」
「なに?!」
側近が続きを促す。
「いきなりゴブリンの大軍が攻めてまいりまして、あっという間に占領されてしまいました。」
冗談だとでも思ったのだろうか、ゴブリンと聞いて笑い出す者もいた。
だがマルゴライム将軍は眉間に皺を寄せながら絞り出すように聞いた。
「・・・キングはどうなったのだ?オーク・キングは。」
「確認出来ませんでした。何しろいきなりでしたので。」
「そうか・・・・」
先程笑っていた側近の一人が聞いた。
「閣下。では今が好機ではないでしょうか。」
「何故そう思う?」
側近の言葉に呆れ半分で問い掛ける。
「いえ、ゴブリンであれば戦い易いかと。」
「バカ者!ゴブリンを侮るでない。奴らは怖いぞ。現に2000ものオークが全滅しておるではないか。」
この場に居る誰もが納得と同時に薄ら寒い物を感じていた。
「偵察部隊は今夜中に調べて欲しい事がある。明日は夜明けと共に街に戻るぞ。」
「「「はっ!」」」
マルゴライム将軍は聞いた事があった。
昔、王国で起こった大規模集落の攻防は、ハイ・ゴブリンの恐怖と共に今も語られている。
「お前達はゴブリンの特徴を調べてくれ。見つからぬ様に慎重にだぞ。」
オークキングが倒される程の敵が現れたのなら、間違いなくハイ・ゴブリンだろう。
勇者を呼んで対策を話し合おうと、将軍自らクリス達の天幕に向かった。
「ハイ・ゴブリンですか。私も聞いた事があります。」
「今回オークを襲ったゴブリンの中に、何匹か混じっていると予想しておる。」
「でも将軍。いくらハイ・ゴブリンとは言え、オークキングを倒せるもんですかね。ありゃ硬い何てもんじゃないですよ。」
キングと闘った事のあるラグナは懐疑的だ。
「どちらにしても報告を聞いてからだな。」
程なくして偵察部隊が戻って来た。
「報告致します。ゴブリンの数は3万を超えています。特徴は大柄でオークと変わりませんでした。」
「・・・・・・」
「それと人に近い者もおりました。それらは皆、武装しています。」
「大柄なゴブリンは何匹確認出来た?」
「全てです。全てのゴブリンがです。」
「「「?!」」」
「いかん!急いで王都へ報せねば。」
「数万のハイ・ゴブリンの群れとか、どんな悪夢だよ。」
パニック寸前の雰囲気の中、ラグナの軽い口調で緊張感が解れる。
クリスも自分の役割を理解している。ハルに貰った能力を試して見たいのもある。
「マリアはハルさんと一緒に王都へ戻ってくれ。」
「何を言ってるの?私も戦うわよ。」
「ハルさんが生きていれば人類にも可能性はある。頼む。ハルさんを守って王まで逃げてくれ。」
「嫌よ!絶対嫌!」
「しかし今度ばかりはマリアを守れない。」
「分かってる。でも嫌なのよ。」
「・・・すまない。」
突然天幕に現れた者がいた。
「ありゃ~。間に合わなかったみたいだね。」
「アル。どうしてここに?」
そこにはシュ国王アルヨルが立っていた。
「森の民に聞いて急いだんだけどね。」
「そうか。ありがとう。しかしここは危険だ。すぐ逃げてくれ。」
「いや、マリアも戦うんでしょ?じゃあ俺が逃げる訳には行かない。」
「お前は国王だろ!昔とは立場が違うんだ。こんな場所に居て良い筈無いだろ!」
「・・・・・・」
「すまない。分かってくれ。」
「だが王国が負ければどこにいても同じだ。クリス、信じてる。街で待ってるよ。」
「ああ。ありがとう。」
マリアは将軍の元を訪れていた。
「マリア殿下も残るのですか?!」
「将軍。我が儘言ってごめんなさい。でも私はクリス達と居たいの。」
「・・・・・・巻き込んでしまって申し訳ない。」
「いえ。なるべく時間を稼いでおきましょう。後はお父様が何とかしてくれますよ。フフ」
夜明けと共にハルを乗せた馬車が王都へ向かって走り出した。
「ハルさんは行ったな。よし、我々はなるべく時間を稼ごう。」
「王都に着くまで起きないと思うわ。」
「いつでも来い!」
「4人で戦うのは久しぶりね。」
「近くに5000人もいるけどな。」
「楽しみだ。」
「珍しいな。アニエスがそんな事言うなんて。なんかあるのか?」
「まだ内緒だ。」
「ギンもすまんな。付き合わせて。」
「ウォォォン」
物見の者が何か見付けたらしい。
「来ます。ゴブリンです。後、500メートル。」
「よし!来るぞ!踏ん張れ!」
将軍の号令で兵士が盾を構える。
押し寄せるゴブリンが盾にドカンとぶつかる。
吹き飛ばされた兵士がゴブリンの群れに飲み込まれた。
「押し返せ!抜かれたらおしまいだぞ!踏ん張れ!」
将軍の激が飛ぶ。
ゴブリンの突進が止まった。
クリスがゴブリンを斬り倒していく。
さすがにハイ・ゴブリンともなれば一撃で倒すのは難しい。
ラグナも殴りまくる。
【体力吸収】の効果で殴れば殴る程回復するが、1匹倒すのに時間が掛かる。
アニエスは後方の群れに向かって大規模魔術を放つ。
しかしゴブリンの防具が効果を弱めて、思った程のダメージが出ない。
ギンは【飛爪】を飛ばすが防具に邪魔されて、致命傷までは与えられない。
それでも諦めず、体力の尽きるまでゴブリンを倒していった。




