31話 朱の手
帝国某所
魔道具のやわらかな光が室内に広がり、豪奢な調度品を優しく照らしている。
中央に置かれた円卓を囲む5席の内、4席は埋まっていたが口を開く者はいない。
「アカモート様がいらっしゃいました。」
執事風の男が扉を開けながら声を上げた。
円卓に座る4人は一斉に立ち上り、入口に向かって頭を下げる。
すぐに背の高い男が入って来て室内を見回す。
「遅くなったな。始めよう。座ってくれ。」
「「「はいっ。」」」
アカモートと呼ばれた男は、一番離れた席に座る男に声を掛けた。
「ナシュモ殿は組織には慣れたかな?」
「ええ。皆さんには良くして頂いて。一介の商人の私がこの様な場に居られます事、とても光栄に思っております。」
「あら、世界中の相場を影で操る大商人が随分謙虚な事言うのね。ここは貴方に相応しいと思うわよ。」
妖艶な衣服を身に纏った女が言う。
「そうだな。ナシュモ殿にはこれからも頼りにさせて頂きたい。」
鍛え上げられた身体の髭男が続く。
「我が帝国で商売をしてるのだ。役に立つのは当然の事だな。」
皇帝ウーシンは周りの冷たい視線に気付かない。
「最近は特需も相まって儲けさせて頂きましたから。」
「貴様を儲けさせる為にやっているのではない!」
触れたくない話題に激昂する。
「まぁまぁ、お互い『朱の手』の幹部だ。対等な立場なんだから。」
髭男が二人を止める。
「そう言えば戦争が始まったみたいね。どうなったのかしら。ふふふっ」
女は意地悪く戦争の話題を振る。
「聞いたよ。マツヤにしてやられたらしいな。」
「うるさい。全部勇者のせいだ。役立たず共め。」
あまりの言い草に呆れた表情でウーシンを見る参加者。
「勇者だからと言って召喚から2ヶ月足らずで戦場に立たせるとは。」
「勇者って言っても最初は素人同然でしょう?かわいそう。」
「敗戦の原因は勇者の裏切りだったみたいですね。」
「勇者3人の内の1人でしょ?その子に興味あるわ。」
「それに王国から借りてる聖剣を無くしたと聞きましたよ。」
「何故それを知っている?」
「さあ。」
固く口止めしていたのにも関わらず知られていた事に驚く。
「王国からは偽物を渡されたのだ。本物と引き換えなら返してやる。」
「馬鹿なの?そんなの通用するわけないでしょ。」
ガチャンと円卓に置かれる剣。
「これは・・・何故貴様が持っている?」
「それは言えない。だがこれが無いと困るでしょ?」
「ああ。」
置かれた剣に手が伸びるが、別の手が素早く剣を引っ込める。
「おっと。只じゃ渡せません。」
「どういうつもりだ!商人!」
「そうです。私は商人ですからね。対価を払って頂ければお渡ししますよ。」
「クソッ。いくらだ?」
「白金貨1000枚。安いものでしょ?」
「・・・わかった。剣をよこせ。」
「支払いが済んでからですよ。」
「ふざけるな!貴様が盗んだんじゃないのか!」
ナシュモは立ち上り、先程から黙って座るアカモートにお辞儀をした。
笑顔で頷くアカモート。
「では私はこの辺で。皆さんごきげんよう。ご連絡お待ちしておりますよ。皇帝陛下。」
「おい!待て!」
皇帝が慌てて後を追うが、扉を出ると商人の姿は消えていた。
「気味の悪い奴め。」
◇ ◇ ◇
マツヤから帝都へ戻ってしばらく経ち、コウキは騎士団の訓練場にいた。
以前と違いクルー団長はいない。
戦争の責任を取り、身分剥奪の上、鉱山に幽閉されていた。
元々皇帝とは折り合いが悪く、全ての責任を押し付けられた形だ。
コウキとナナミも首に奴隷紋を刻まれ、帝都から逃げる事が出来なくされていた。
奴隷紋と言うのは【呪術】の1種で、拘束力は【呪術】スキルのレベルによって変わる。
コウキ達の場合、行動制限は無いが距離の制限が付いている。
タカシが出奔した事で怒り狂った皇帝が施したのだ。
後で分かった事だが、タカシは5万人近い味方の兵士を殺していた。
コウキやナナミからもスキルを奪って逃げた事も分かった。
身体の傷は消えたが心の傷は消える事は無かった。
「コウキ君。いつまでウジウジしてるつもり?」
「ナナミさん。でも・・・」
「もう団長さんは居ないのよ?誰も助けてくれる人はいないの。わかってるんでしょ?」
ナナミさんはもう2回も捕まって連れ戻されているが、逃げるのを諦めてないようだ。
「でも逃げられないよ。僕はもう一生ここから出られないんだ!」
「聞いたのよ。奴隷紋は【呪術】だから同じスキルを持ってる人なら解呪出来るって。」
「そんな人どこにいるんだよ!」
「これから探すのよ。ねぇ、ここから逃げる方法を一緒に考えましょ。」
「無理だよ。こんなもん付けられて、帝都から出たら死ぬんだよ!」
「あっそっ。じゃあ私1人でも逃げるわ。」
「危ないよ。今度見付かったら殺されるかもしれないじゃないか。」
走り出すナナミを見て、仕方なく追い掛けるコウキだった。




