28話 タカシ
物心がついた頃からいつも一緒にいた幼馴染の女の子がいた。
親たちがケイちゃんと呼んでいたので俺もそう呼んでいた。
小学校に上がると光輝が近所に越してきた。
頻繁に顔を会わせるようになると、ケイちゃんはいつも光輝の近くに座る様になった。
数年後、ケイちゃん家が引っ越して行ったのを俺は・・・知らなかった。
中学2年の頃からいじめが始まった。
きっかけなんて忘れたが、それは高校に入ってからも続いた。
主だった奴等が一緒の高校に入学したからだ。
今も忘れない。
光輝が俺を憐れみの目で見ていた。
見下したような嫌な目だった。
2年になり突然、光輝がいじめを辞めろと言い出した。
これには奴等も驚いていた。
標的が光輝に変わったんだと思った。
俺がやられた事を光輝がやられる。
そう考えただけで今までの苦痛が消える気がした。
しかしそうはならなかった。
奴等は受験を理由に日和やがった。
何故だ!俺と光輝、どこが違うんだ。
このままではマズい。
光輝にも俺と同じ苦しみを味あわせてやらなければ。
奴等を説得して何度か光輝を攻撃したが、次の日には何事も無かったようにしていやがる。クソッ!
あの日も光輝が来ないせいで俺が奴等の怒りを買った。
帰り道に光輝を見つけた時は、我を忘れていたんだと思う。
立ち止まった背中をおもいっきり殴り付けた。
倒れ込んだ光輝を見て、やっと落ち着いて来た。
地面全体が光り、魔方陣が浮かび上がった。
これは異世界転移だ。
よく読んでいた小説は、その手のものばかり。
まさかとの思いと興奮で、ニヤける顔を隠すことは出来なかった。
◇ ◇ ◇
待ちに待った戦争が始まった。
パワーアップの為にも早く戦いたい。
だがまずは敵国まで行く必要がある。
退屈な行軍が続き、やっと敵地まで来たってのに敵は居なかった。
だから少し苛ついていたのかもしれない。
真夜中いきなり叩き起こされて、偉そうな雑魚軍長に罵倒された。
だったら望み通りに殲滅してやるよ。
襲って来た狼と味方の兵が戦っている所に、大規模な風魔術を【ブースト】を掛けて撃ち込んでやった。
【ブースト】は魔術のダメージを1.5倍する便利スキルだ。
誰から奪ったかは忘れたが感謝はしてるよ。
案の定、狼は全滅。味方兵も瀕死になってやがる。ざまぁみろ。
真っ先に雑魚軍長のスキルを奪って介錯してやった。苦しそうに助けを求めてたからな。
片っ端からスキルを奪って、止めを刺して回ったおかげで【剣術】が5になった。
時間が掛り過ぎて夜が明けて来てしまった。
千人分は奪えただろう。
生き残りも最後は風魔術で殺しておいた。
だから俺がやったとはバレないだろう。
翌日は攻城戦だが壁が壊せない魔術師共に苛ついた。
あんな壁ぐらい速攻で壊せよ。雑魚が。
やっと出来た壁の穴から中に入ったが、中にはもう1つの壁があった。
そこには昨日の狼や熊が並んでいた。
完全に罠だな。
周りはすぐに乱戦になった。
狼からはもう取れるスキルがないんだよ。
敵兵もいるが雑魚ばかりで腹が立つ。
昨晩と同じようにブースト付き大規模風魔術を放ってやった。
敵味方無く倒れているので【奪取】して止めを刺していく。
突然、帝国軍から砲撃が飛んで来た。
魔術師による無差別砲撃だ。
広範囲の爆撃なんて避けれる訳がない。
ふざけんな!
耐性スキルはあるが無効化出来る訳ではない、炎で身を焼かれ、風で体を切り裂かれる。
一気に死に掛けたが、【俊足】を使って砲撃範囲を離れた。
だが全身切り裂かれ、火傷を負った身体は今にも倒れそうだ。
ステータスの低さが恨めしい。
目の前にコウキがいた。
こっちには気付かず戦場を見たまま固まっている。
無意識に解析を使っていた。
Name:コウキ・アキカワ
LV:34
HP:3700
MP:3020
STR:1070
DEX:1070
AGI:1070
VIT:1070
INT:1070
MND:1070
―
スキル: 【勇者】【聖剣】【光魔術1】【剣術3】
加護:女神イリアス
タカシは怒りで自分が壊れて行くのを感じた。
今までコウキに感じていた憎悪にも似た感情が、溢れて止まらなかった。
あまりにも違い過ぎるステータスの差に、この世の理不尽さを感じずにはいられなかった。
俺が必死で集めたスキルも全てが無意味に思えた。
気付いた時にはコウキのスキルの殆どを奪って斬り倒していた。
傍に落ちていた聖剣を拾い、ローブに隠して自陣に向かう。
後方のテントに行くと知った顔に会った。
「あんた、大丈夫?ちょっと無理し過ぎじゃない?」
ナナミが回復魔術で治療を始めた。
「・・・・・・。」
「まぁ良いけどね。」
そう言いながらも回復を続けるナナミを直視出来なかった。
◇ ◇ ◇
早朝のまだ辺りが薄暗い時刻、マツヤ軍の主力が城壁の前に姿を現した。
開戦2日目にして勝負を決めに来ていた。
兵站に問題を抱える帝国に対して、一気に兵を減らして数の不利を無くそうと考えていた。
巨大な楯を構えた重装歩兵を中央に、狼や熊の魔獣部隊が後ろに並ぶ。
獣人族の特長を持つ兵士が魔獣を操っているようだ。
対して帝国軍はまだ現れていなかった。
マツヤ軍は素早い号令で重装歩兵が進む。
帝国軍への奇襲を狙った訳だが、夜営地であった森にはテントの残骸があるだけで、帝国兵は1人も見当たらなかった。
マツヤ軍総司令ファルケンと、援軍として参戦している獣人族の長カイエンは、想定外の事態に困惑を隠しきれない。
「カイエン殿。これはどうなっているのでしょう。」
「分かりませんな。今、周囲を探索させてますよ。」
「まさか撤退したとは考えられませんか?」
「確かに奴らの兵糧を奪ったり、夜襲を掛けたりしました。しかしまだ半分の戦力は残っている筈ですが。」
「勇者が負傷したとの情報もあります。」
「それこそ信じられない。まだ我々は本格的に攻撃はしていないんですよ。」
30分後、帝国軍撤退の報告が入り、マツヤ王国はお祭り騒ぎになるのであった。
◇ ◇ ◇
昨晩、指揮官級の幹部全ての死亡が確認された。
夜営地を襲った大規模魔術により、負傷者も含めて7万人居た帝国軍は壊滅した。
第一軍を任されていたマイヤー軍長は、生き残った幹部を集めて撤退の指示を下した。
クルー団長の進言によるものだった。
指揮官を失い、勇者を失い、大半の魔術師を失い、腹を空かした負傷兵しかいないこの状況で、撤退の指示は当然の事と言えよう。
敗戦の責を問われる指揮官は既に誰も生きていない。
帝国に帰るだけでも危険はある。
負傷者の中には国まで耐えきれず、途中で亡くなる者も多かった。
帝都に帰り着いたのは開戦から25日後であった。




