27話 無慈悲な砲撃
何もない草原を挟んで帝国とマツヤ王国の国境がある。
最近作り直したのであろう、木の柵が続いている。
周囲にマツヤ兵は見えない。
「柵を潰して前進しろ。」
指揮官の号令で10万の兵士が草原を進む。
マツヤの王都までは丸2日の距離で途中、敵軍とぶつかる可能性が高いと思われた。
警戒しながら進む10万の帝国兵だが、兵士どころか村人一人見付からなかった。
途中にある村々にも人影は無く、豆1粒残されてはいなかった。
「まずいな。」
クルー団長が周りを見ながら言った。
「何がまずいんですか?」
「兵站の確保が出来そうもない。」
「え?!」
「遠征では途中の村々で確保する事を計算に入れている。まぁ今回は必要以上の量を持って来たはずだった。」
「そうか。途中で消えたんでしたね。」
「奴らの狙いが読めてきたな。」
「でも補給はこっちに向かっているんですよね?」
「ここは既に敵地だ。狙いが兵站にあったのなら、まず期待は出来ない。」
「まずいですね。」
遠くに王都が見えてきた。
森を越えれば城は目の前だが、伏兵が居るとすればここだ。
警戒しながら森を進んでいく。
だが何も起きないまま森を越えた。
王都を囲む城壁の上に兵士の姿が見える。
興奮した兵士数人が城壁まで走り出した。
誰かの叫び声が聞こえた。
飛来した矢に当たったのだろう。
こんな所では良い的だ。
慌てて軍長が森まで退却の指示を出した。
太陽が傾き夕焼けが辺りを赤く染める。
綺麗な景色を観賞する暇も無く、森の中で夜営の準備に入る。
「コウキ。気を付けろ。今夜何かあるかも知れない。」
クルー団長に警告を受けていたにも関わらず、疲れてすぐ寝てしまった。
「襲撃だ。起きろ!」
誰かの声に慌てて起きると、狼の群れが仲間を襲っている。
空腹でろくに睡眠も取れなかった兵士達は、次々に狼の餌食になっている。
ナナミさんが心配で女性テントに向かうと、クルー団長が狼と戦っていた。
「ナナミさん!」
「コウキ君。こっちは平気。他はどうなってるか分かる?」
「ごめん、他は見て来なかった。」
「あいつは大丈夫かな。」
タカシ君は魔術師だから乱戦は苦手かもしれない。
「ちょっとタカシ君のところ見てくる。」
そう言ってタカシ君の居たテントに行くと、大量の狼と大量の人間が切り裂かれて辺りを黒く染めていた。
辺りを探したが結局見つからず、戦闘中の兵士を助けながらテントに戻った。
狼の襲撃も終わった頃には、すっかり夜も明けて来た。
明るくなった所で見ると、昨夜の被害が尋常ではない事が分かる。
兵士の約半数が戦える状態ではなかった。
このまま一旦引くかと思われたが、総指揮官であるジョアン伯爵は続行という決定をした。
多くの怪我人の治療を行ない、準備が整った時には太陽が真上に登っていた。
城壁の前に魔術師が並んで号令を待っている。
この世界では魔術で壁を壊せるんだから、攻城兵器は必要無さそうだ。
「撃てー!」
魔術師団長の号令で一斉に撃ち出した火球は、ボスッという音をたてて壁に刺さるが貫通はしない。
「次ー、撃てー!」
2回目の砲撃で壁の一部が崩れたが、まだ突入出来る程ではない。
強固な城壁にも弱い箇所があったようだ。
敵も矢を撃ち反撃するが、楯を構えた重装兵がしっかりガードしている。
3回目の砲撃は崩れ掛けていた壁の一部に集中させた。
遂に城壁が破壊され、そこから帝国兵が雪崩れ込む。
「突入しろー!行けー!行けー!」
軍長が叫んでいる。
タカシ君が真っ先に入って行くのが見えた。
僕が少し遅れて城壁を潜ると中は乱戦になっている。
その先にはもう1つの城壁があった。
壁と壁の間に作られた狩場の様だ。
さっき破壊した城壁の一部を、崩れ易くしてあったんだろう。完全に敵の罠だったんだ。
戦場を前にして息が上手く吸えないし、体が重くて足が前へ出て行かない。
コウキはただ現実とは思えない光景を眺めているしか出来なかった。
誰が撃ったのだろうか。
多くの兵士や獣が入り乱れた戦場を、風魔術が飛んで来て敵味方の区別無く切り裂いて行った。
無差別に襲った凶刃により、立っている者は殆んど居なかった。
怒号や悲鳴が聞こえ、助けを求める兵士を直視出来ない。
これが合図になったのか、帝国の魔術師部隊からの砲撃が始まった。
先にある壁を壊し、王都の街を破壊していく。
味方の兵を気にする事の無い、無慈悲な砲撃は夕方まで続いた。
戦争が1日で終わる訳ではない。
しかし、初日の被害が甚大になったのは、乱戦中に撃たれた風魔術なのは間違いない。
敵の魔術師による無差別砲撃に焦り、反撃をしたのが被害を大きくした要因だ。
もうマツヤとの数的優位はほとんど無い。
あるのは勇者による戦力だけだったのだが。
だがコウキは動けなかった。
昨日の乱戦で大怪我を負ってしまったのだ。
傷は治癒魔術で完全に回復していた。
だが全身は震え、手に力が入らない。
それに、持っていたはずの聖剣が消えていた。
圧倒的な戦力を持つ帝国に居て、楽勝ムードだったが故に気持ちが出来ていなかった。
目の前で裂かれた腹を押さえ助けを求める兵士。
手足を斬られて動けない敵に止めを指す味方の兵士。
全てが悪い夢であったら良かったのにと思う。
逃げ出したい。
強大なステータスを持つ勇者だからって恐いものは恐い。
それに世界平和の為に召喚されたんじゃないのか。
戦争の為にいる訳じゃない。
僕が悪いんじゃ無い。僕だって被害者だ。
誰でも良い。助けて下さい。僕をここから助けて。
既に感情は押し潰されてしまった。
心まで壊れないのは【勇者】による耐性なのかもしれない。
コウキは泣いていた。
ナナミも泣いていた。
たがその思いは誰にも届かない。
戦争は2日目にして終結する事になる。
この読みにくい文章を読んで頂きましてありがとうございます
話は飛ぶし 誰のセリフか分からない。ですよね。
もう少し仲間が揃ってきたら落ち着く予定です。




