25話 そうだ、旅に出よう
長いです。
勇者の拠点
「クリス。貴女は自分が何をしたか分かっているの?!」
マリアは信じられないと天を仰ぐ。
「まぁまぁ、やっちまったもんはしょうがねぇさ。」
お気楽な事を言うラグナをマリアが睨んでいる。
「これからどうする?」
「旅に出たいんだ。」
アニエスの問いにクリスが即答した。
「魔王との戦いで感じたんだ。私は弱い。勝てたのは偶々魔王が力の使い方を知らなかっただけ。もし老獪な敵が現れたら今のままじゃ相手にならない。」
クリスの気持ちは理解している。
力不足を感じているのは皆同じなのだ。
「いいんじゃないか?修行の旅だろ?俺も行くぜ。」
ラグナが賛同する。
「そうだな。私も行こう。」
アニエスも同行を申し出る。
「・・・・・・」
「マリア。」
「分かってる。分かってるのよ。それしかないんでしょう?」
「ありがとう。」
クリスはマリアに微笑んでいる。
マリアの膨らんだ頬をラグナが突っついて殴られていた。
「あの~。」
勇者が聖剣を返却したという大事件で、ハルの事をすっかり忘れられていた。
「もちろんハルさんも行きましょう。」
「え?あ、はい。」
いまいち理解していないハルであった。
クリス達は旅に出る前に、ハル自身の能力を自覚してもらい、制御を覚えさせる事にした。
「え~、それって強いのか弱いのか分からないスキルですよね。」
「いや、ハルさんのはスキルじゃない。スキルを持って無いんだ。発動する事は出来るみたいだけど。」
「意味分からないです。」
「それは皆同じです。分かりません。」
まずはハルとクリスのステータスを比べてみる。
Name: クリス
LV: 45
HP: 4800
MP: 3900
STR: 1400
DEX: 1400
AGI: 1400
VIT: 1400
INT: 1400
MND: 1400
―
スキル: 【勇者】【聖剣】【光魔術3】【剣術5】【受け流し2】【加速】【楯】
加護: 女神イリアス
Name: ハル・マサキ
LV:
HP:
MP:
STR~MND:
スキル:
加護:
「なんで僕のステータスは何にも出ないんでしょうか?レベルもないんですかね?」
「私もこんな事はハルさんが初めてですが、ステータスが無いのか、それとも解析出来ないのか。」
「でも魔術スキルも出てないんですね。」
魔術は使えたのに不思議だなぁという僕に、アニエスさんが困ったように言った。
「あのですね、以前水筒から水を出したでしょ?あれは魔術じゃなくて、水筒に付与した【水源】スキルを発動させただけだったんですよ。」
「え?じゃあ僕は魔術を使えてた訳じゃないんですか。」
落ち込んでいる僕にアニエスさんが困ったように首を振る。
「水が欲しい時は水筒に【水源】、火を起こす時は薪に【発火】と【燃焼】。では火魔術を使う時はどうしました?」
水も火も魔術だと思っていた事がスキルによるものだと言う。
ギンが火魔術を使えたのが僕の付けたスキルに依るものだとすれば、何かの道具に魔術スキルを付ければいいのかも?
アニエスさんがこちらを見て頷いた。
「そう。だから杖に魔術スキルを付ければ魔術が使えますよ。」
「すごい便利じゃないですか!」
開眼しましたよ!
うち震えてますよ!
「いままでの話を聞くと、スキル付与はすぐ出来ると思いますよ。」
クリスさんがしかしと続ける。
「問題はスキルを無意識に付けてしまう事ですね。」
「そう。これが他人に知れたら何処かに監禁されて、最悪の場合、死ぬまでスキルを付け続けさせられるかも。」
「なにそれ怖い。」
それは嫌だ!
「だから能力を制御して貰わないと。」
「はい。頑張ります。」
ほんとに頑張ります!
監禁は嫌です。
こうして旅に出る前に能力を制御する特訓が始まった。
教えるのはアニエス。
ただ誰も知らない能力なので、手探り状態が続いた。
ハルが能力に慣れて来たのは、10日が過ぎた頃だった。
強く意識しなければ無意識にスキルを付与する事は無くなった。
だが自由自在にスキルを付けるのは未だに難しい。
拠点には夥しい数のスキルが付いた物品が量産されてしまった。
売る訳にもいかず、破壊する事も不可能な家具は、後年、王城にて侵入者防止に活躍する事になる。
クリスも大丈夫だと判断して、修行の旅に出発する準備に入った。
目的地は大森林に近い街『ベネス』。
近くに大規模なオークの集落がある。
辺境伯マルゴライム卿の軍隊が監視続けているが、数を減らすだけで殲滅には至っていない。
オークジェネラルのいる群は統率が取れていて、個々の能力も上がっている場合が多い。
さらに最近、ジェネラルの上位種であるオークキングが誕生してしまった。
熟練の傭兵でも手を焼くオークが、群でしかもキングまでいるのでは、一般の兵士では手の出しようがない。
以前から要請は出されていたが、魔王討伐を優先していた為に、先送りになっていた。
この大量のオークを狩ってレベルアップをしようという訳だ。
辺境にあるベネスの街までは馬車で10日、勇者を休業しているため軍馬は借りれない。
時間は掛かるが制限の無い修行の旅、途中の村々で討伐依頼をこなしながら進んでいく予定だ。
大森林の中は強力な魔物が多い。
ジャイアント・エイプの群れが村を襲っている場に出くわした。
名無しの集落で村人は20人位、村で果樹園を営んでいる。
元々自生していた桃の様な果実の樹を、管理して近くの村に売る事で生活していた。
王都でも人気の高い果物で、高値で取引されている。
ジャイアント・エイプは大長2メートル近い大猿で、この果物を狙って襲って来たものと思われる。
「エイプか、しかし数が多いな。」
「村の中にまで入り込んでいますね。」
「急ごう。」
「桃、美味しいもんね。」
猿君達の気持ちは分かるんだけど、村人の生活が掛かってるんだよ。
馬車が止まる前にクリスさんが飛び出して行った。
桃の収穫が既に終わっていた事が災いして、村で保管している果物を狙って各家々を襲っている。
倉庫らしき建物には多くの大猿が群がっていた。
クリスが次々に大猿を斬り倒している。
それに気付いた仲間の猿もクリスに殺到するが、ラグナ、アニエスも到着して倒されていく猿達。
軍隊でも手子摺る大猿の群を、クリス達は瞬く間に殲滅してしまった。
何処かで様子を見ていたのだろう、村長らしき人がクリス達にお礼を言っていた。
「本当にありがとうございました。おかげさまで被害も少なく、怪我人も出ませんでした。」
「それは良かった。周りに残りが居ないか確認して来ます。」
大猿が残って居ないか村の周りを見て回り、村に戻ると大勢の村人が待っていた。
「村の周りにはもう大猿はいないみたいですね。」
「ありがとうございました。何かお礼をしたいのですが。」
「我々は旅の途中でして、食糧を分けて頂ければありがたいのですが。」
「それはもちろんです。良かったら今晩は家に泊まっていきませんか?村の皆もお礼を言いたいと思いますので。」
「それは、」
「ありがたいな。そうさせて貰おう。」
クリスを制してラグナが言った。
ラグナの目は笑っていなかった。
「みなさん、本当にありがとうございました。何もありませんが、ゆっくりしていって下さい。」
村長以下村人のほとんどが集まっているみたいだ。
みんなで食事を取り終わり、和やかな雰囲気でお酒を飲んでいた。
だがクリス達はお酒を断り桃をかじっていた。
ラグナが村人に聞く。
「大猿が今まで村を襲って来た事はあったのか?」
「はい、何度か大猿に果樹園を荒らされた事はありました。ですが、あんな群で来たのは初めてです。」
村長が答えた。
「ラグナ。何かあるのか?」
クリスは先ほどのラグナの行動が気になっていた。
「ジャイアント・エイプってのは森でハーレムを作っている。」
「ハーレム!」
反応したのはハルだ。
「メスは強いボス猿の子を産む。メスと子供は群れでボス猿に守られて育つ。大きく育った子猿はボス猿に挑み、勝ったオスが新たなボスになる。ボス猿が決まると他のオスは、群れを離れて1匹で生きていく。」
「ん?群にはメスか子供しかいないのか?」
「そうだ。ボス猿以外のオスはいない。」
「しかし、昼間の猿にはオスもいたと思うが?」
「だから変なんだ。そんな群聞いた事が無い。基本的にオス同士が会えば殺し合いだ。」
「群れからはぐれたオス猿の群?なんて事はないか。」
「それとも・・・ボスに挑まない子供?挑まなけりゃ出て行かなくても良いんですよね?」
「ハルさんの言ったので合ってると思う。挑みたくても挑めない。」
「それはどう言う・・・ああそうか!このままじゃまずいな。」
その時、遠くで雄叫びが聞こえた。
「仲間が戻らないから怒ってるのかもな。」
村人達も雄叫びに気付いて慌てている。
「みなさんはここでこのまま待機していて下さい。」
そう言ってクリス達は外に出た。
かなり遠くから雄叫びは聞こえていたが、こちらが戦闘態勢を整えた時には目の前の山から何かが降りてくるのが見えた。
見た目は大猿だが体長は倍の4メートル近い。
月の光に照されたその顔は真っ赤で、体毛は赤と黒が混じっていた。
猿なのに角まで生えている。
やはり強力な進化個体の誕生で、生態系が変わってしまった可能性が高い。
なぜかボス猿はハルを見ると一直線に手を伸ばす。
これまで空気だったギンがボス猿の腕に爪で攻撃した。
しかし硬い体毛に阻まれて傷を付ける事も出来なかった。
アニエスは解析を使いボス猿の情報を探る。
「名前はスプリガン・・・体毛に物理耐性、魔術耐性が付いてる。」
「大猿がこんな進化をしたのか。厄介な!」
激しく暴れるスプリガンに近寄る事も出来ず、大振りする腕に剣を当てるが傷ひとつ負わせる事も出来なかった。
ハルは杖に魔術スキルを付与しようと戦いから離れてウンウン唸っている。
以前、スキルを付与されたラグナでも、何とか前線を維持するのが精一杯だ。
アニエスも火魔術を撃つが赤黒い体毛には全く効果は無かった。
次第にラグナも押され始め、決定打も無いまま時間だけが過ぎていく。
杖に魔術を付与していたハルが、スプリガンに向かって魔術を撃った。
「その体毛が邪魔なんだよ!《脱毛》」
ハルの持つ杖から放たれた光の塊は、ふわふわとスプリガンに向かって飛んで行く。
スプリガンも素直に当たるつもりはなく、弾き飛ばそうと腕を振り回した。
だが光の塊は腕をすり抜け、胸に当たったかと思うと、身体もすり抜けて消えた。
スプリガンは何の効果もない攻撃を不思議に思いながら、目の前のラグナに集中し始めた。
魔術《脱毛》は大猿の体毛を消すものだと気付いた時、クリスは苦笑してしまった。有効ではあるが・・・。
ラグナが大きく避けた時を狙って、体毛の無い腕に剣を叩き込んだ。
「ぎゃああ!」
スプリガンは突然の痛みに声を上げてのたうち回っている。
好機と見てアニエスは火魔術を胸に撃った。
今まで味わった事の無い痛みに暴れていたスプリガンだが、次第に慣れて来たのか立ち上がってクリスを睨み付ける。
ラグナも攻撃しているが目線はずっとクリスに向いて動かない。
腕から血を流しながら暴れる大猿は、最初の方と比べて動きも遅くなっている。
クリスは今、自分の中に生まれた力が何であるかを気付いていた。
多分ハルさんが付けたのだろう。
この場を乗り越える為に貰った力だ。
ありがたく使わせて貰う。
ゆっくり剣を正眼に構えるとボス猿に向かって飛んだ。
「ラグナ!」
それに気付いたラグナが横に転がった。
「【切断】」
クリスが振り上げた剣を腕でガードする。
しかし降り下ろした剣は腕を通過して頭から腹まで達した。
血飛沫を降らせながら声も上げる事なく倒れていくスプリガン。
クリスは大量の血を全身に浴びて、真っ赤に染まったまま立ち尽くしていた。
「「「クリス!」」」
皆が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
ハルも遅れて走り寄る。
「ああ。ハルさん、あのスキルは・・・」
「ごめんなさい。焦っちゃって。思い付くままに。」
「いえ。助かりました。ありがとうございます。」
その後、解析で確認したクリスは溜息が止まらなかった。
「修行の旅とは何だろうな。アニエス。」
「さぁ。」
Name: クリス
LV: 48
HP: 5100
MP: 4140
STR: 1490
DEX: 1490
AGI: 1490
VIT: 1490
INT: 1490
MND: 1490
―
スキル: 【勇者】【聖剣】【光魔術3】【剣術5】【受け流し2】【加速】【楯】【身体強化3】【自動回復3】【切断】【ガード3】【状態異常無効】【正義の一撃】
加護: 女神イリアス
場面が替わり過ぎて落ち着きませんねすみません
ステータスとかやっと出せて満足です
もう少し先に行けばそれっぽくなる予定です
ちなみに今は序盤の中程です




