18話 黒歴史
「市場に行ってみたいです。」
「わかった、案内するからあんまり俺から離れるなよ。」
「ありがとうございます。ミサ、良かったなー。市場で美味しいもの色々食べような。」
「うん、楽しみー。」
「ギンもな。」
「ウォン」
次の日、ラグナさんの案内で、市場を見て回っていた。
屋台が建ち並び、お祭りの様な人混みに気分は高まる。
「あれは何ですか?」
「ん~芋かな。」
ラグナさんが適当に答えるが、違っている事が多く、食べて見ないと分からない。
「残念でした。鶏肉ですよこれ。」
「おじちゃん、はずれ。」
「俺はまだ23だ!」
だが、それが楽しかった。
僕とミサは笑いながら、ラグナさんに答え合わせをする。
美味しそうな匂いに引かれ、もう何度目かの質問をした時だった。
「あれは?」
「・・・・・・」
返事がないラグナさんを見る。
視線の先には、お供を引き連れた、身なりの良い太った男が見える。
「どうしました?」
「いや、何でもない。」
そう言ってラグナさんは目線を反らした。
男の通る先は、波が引くように、人混みが割れる。
偉い貴族の人かもしれないと、遠目で見ていた。
その時、店の前で何かを売っていた少年が、男に気付かずぶつかりそうになっていた。
「家畜の分際で私に触れるとは!」
そう言ってお供に合図を送る。
「すみません、すみません。」
少年の母親らしき人も必死に謝っている。
お供の大男は少年を両手で掴むと、くるくる回転して勢い良く投げ飛ばした。
少年が軽いのか、大男が怪力なのか。
地面に直撃すれば怪我では済みそうも無い高さだ。
弧を描いて飛んでいく少年を見て、周りの女性達は「キャー」と声を上げている。
興味を無くしたのか、男はお供を引き連れ行ってしまった。
飛ばされた少年の方を見ると、いつの間に移動したのか、ラグナさんが抱きかかえていた。
地面に激突する前に受け止められたらしく、少年は助かった様だ。
「ありがとうございました。」
と言って少年は母親と帰って行った。
「あれって誰です?酷い事しますね。」
「あのゲス野郎はこの街の領主の息子だ。」
吐き捨てるように言った。
「そして、投げたクソは・・・」
そう言い掛けた時、先程子供を投げた大男が、こちらを見て立っていた。
「久し振りだなぁ、レジー、ああ、今はラグナって名乗っていたんだったか。」
「・・・ドルク」
「国を逃げ出した弱腰レジーが、今は勇者の仲間の英雄様だもんな、笑えるぜ。
」
「・・・・・・」
大男は嫌らしい笑みで、ラグナさんに近づき耳元で、何かを囁き去って行った。
「大丈夫ですか?」
「ああ、何でもない。それより他に行きたい所はあるか?」
そう言って笑顔で案内を再開した。
夕方になり、街灯に明かりが灯り始めた頃、ミサが眠ってしまったので、宿まで送ってもらい帰って来た。
「今日はありがとうございました。」
「ああ、また明日な。」
そう言ってラグナさんは、街の中に消えて行った。
何となく昼間の事が気になっていた。
昔の知り合いみたいだったが、友好的な雰囲気ではなかった。
宿には戻らずミサを抱えたまま、ラグナさんを探す事にした。
昼間、子供を助けた空き地に行くと、ラグナさんとドルクと呼ばれた大男が、2人で話しているのが分かった。
何の話をしているのか気になる。
少し近づくと植込みに、大勢の人間が潜んでいるのが分かった。
ヤバそうな気がする。大勢で襲うつもりなのでは。
誰かに知らせないと。
「ギン、急いで勇者さん達を呼んで来てくれないかな。」
ギンは「ウォフ」と小さく吠えると走り出した。
更に近づき耳を澄ますと、2人の会話が聞こえて来た。
「なぁレジーよ、本当に戻って来る気はないのか?俺が許すって言えば、仲間の誰にも文句は言わせないぞ。」
「・・・盗賊の仲間になる気はない。」
「あの時、お前に斬られたハンもキムも、帰って来て欲しいって言ってるんだぜ。」
「・・・・・・」
「そうかこれだけ言ってもダメか。」
大男が片手を挙げると、100人近い男達が、ゾロゾロと姿を現した。
それぞれ、手には武器を持ち、ラグナを囲む様に移動する。
「レジー、久し振りだなぁ。お前にやられた傷が痛むんだよ。」
「キム・・・」
「俺も夢に見るんだぜ、お前の死ぬ姿がな!」
「ハン・・・」
「お前ら、相手は英雄様だ油断するなよ、全員で押し包め!」
100人近い男達が、ラグナに殺到して行く。
ラグナは覚悟を決めたように、一人づつ大斧で殴り倒して行く。
「いつまでもつかな?」
ドルクはいやらしい笑みを浮かべながら、部下に指示を出している。
低い木に隠れて様子を伺っていると、不意に肩を叩かれた。
ドキッとして振り返ると、すぐ横でクリスがラグナの方を見て睨んでいる。
腰の剣を握る手に力が入っているのが分かった。
いくら英雄ラグナでも、100人相手では分が悪いだろう。
しかし、クリスはその場に留まり様子を伺っている。
☆
もう半分は倒しただろうか。
既に体力は限界に近く、武器を持つ手に力が入らなくなってきた。
まだこの後に、盗賊の首魁ドルクが残っている。
状況は相当に悪いと言っていい。
敵が隠れているのは分かっていたが、まさかこんな数がいるとはな。
皆に内緒で来た事に後悔は無い。
クリス達には知られたくない過去だ。
盗賊行為をした事は絶対に無い。
だが、昔の仲間が盗賊仕事をした時、その場にいた者全員を、斬り倒して逃げてしまった。
この事が世間に知られれば、在らぬ誤解を招くだろう。
クリス達にも迷惑が掛かる。
今回はその精算するつもりだった。
例え殺されても、悪には屈しない。
俺にとって勇者の仲間である事が、なによりの誇りなんだ。




