16話 シルバーウルフ
早朝、クリスとアニエスはオルガーノの組合支部に向かっていた。
行方不明だったハルと女の子が、一緒にオルガーノの街に到着したと言う連絡があったのだ。
しかし、話し合うにしても内容が内容だけに、我々の拠点の方が良いだろう。
組合に着くと、仕事を求めて人が大勢詰めかけていた。
そんな中に求人票を眺めているハルがいた。
大きな犬を連れ、女の子を抱えている。
「おはようございます、ハルさん。お久しぶりです。覚えてますか?」
「あゎ、勇者さん!おはようございます、その節は大変お世話になりました。」
彼は大げさに頭を下げると、ミサとギンを紹介してくれた。
「ここでは騒がしいので場所を変えましょうか。」
☆
組合から出るとすぐに、様々な商店が建ち並ぶ商業区がある。
人々で賑わう喧騒を抜けると、広い敷地を持つ工房が増えてくる。
火気を扱う鍛冶工房等は安全の為、隣の建物との間隔が厳密に決められている。
そんな工業区の一画に我々の拠点の一つがある。
豪邸と言う程ではないが、貴族の別邸として建てられただけあり、質の良い建材を使って全てが広めに造られている。
来客用の応接室にみんなが集まり、テーブルを囲んで少し遅い朝食を摂っている。
目の前でお茶を飲みながら、ミサという女の子と楽しそうに会話をしているハルを見ると、本当の兄妹のように見える。
直接何者かを問い質しても、素直に答えるとは思えない。
会話の中から彼の正体に繋がるヒントを見つけるしかないだろう。
まずはこちらから話をして、少しでも反応を見たい。
「今日は魔王城での調査結果をお知らせしたいとお呼びしました。」
「あ、はい。」
「魔王城の地下で行われていた儀式についてですが・・・」
すると彼はこちらを窺うように話し出した。
「あの~、その事なんですが、実は僕、この世界の人間じゃないみたいなんですよね。」
「「「「・・・・・・」」」」
どう切り出したらいいか、悩んでいただけに、あっさりと核心に近い答えを言われ、固まってしまった。
やはり異世界から召喚された勇者だったのだろうか。
「いや、僕もまさかとは思ったんですが、アヤト国に行って確信しました。だって魔法があるんですよ。あっ、こっちでは魔術って言うんでしたっけ。僕のいた世界にはありませんでしたし。それに勇者が造ったっていうアヤト国、地名が僕の居た国とかなり似てるんです。多分ですけど勇者アヤトと僕は同郷です。」
反応も出来ず固まったままの我々を無視してハルは話し続ける。
「多分、多分ですよ。魔王城での儀式ですけど、勇者召喚とかそれに近い事をやってたんじゃないかなぁって思うんです。でも魔王城で勇者とかおかしいですよね。だから、自分は何者なんだろうとか思ったり?でも変なんですよ、教会で解析してもらったら、スキルも魔力も無いって言われたし、大体高過ぎるんですよ、解析一回で10万Gとか、普通の生活をしてたr」
「ちょっと、待って待って、ちょっと待って下さい。」
「ああっ、すみません。調子に乗り過ぎました。」
と言いながら頭を掻く彼の姿に、以前会った時を思い出していた。
クスクスとマリアが笑っている。
確かにこんな感じの人だったなぁ。
ゴホンとわざとらしい咳払いをして話を進める事にした。
「では改めて。魔王城の儀式では勇者召喚の術が使われていました。」
「やっぱり。」
「しかし、その術式は不完全で、成功するはずの無いものでした。」
「は?えっと・・でも、じゃあ僕は何なんでしょう?」
まあ当然の反応だ。だからここで我々が相談して決めた提案をしてみる。
「理由は我々にも分かりません。ですからあなたの正体が判明するまで、我々と行動を共にして欲しいんです。」
行動を制限してしまうことになるし、どうやって説得したものか。
「ええええ~良いんですか?助かりますよ~。」
「え!?」
あきらかに本心でホッとしてるように感じる。
まさかこんな反応をされるとは思っていなかった。
もっと嫌がるかと思ったのだが。
「いやぁ、不安だったんですよ。見知らぬ土地で知り合いはいないし、生活費も稼がないといけないし。ああ、居候するつもりはありませんよ。僕に出来る事はするつもりです。魔術も少し使えるようになりましたし。ゆくゆくは自分に合った仕事を見つけられたらって。」
「はぁ~!?魔術が使えるように?」
魔術と言う言葉に反応して、アニエスが声を上げた。
「ええ、水と火だけですけどね。」
嬉しそうにハルが答えた。
「スキルも無いのに?」
「ん~、今解析してもらえば付いているんじゃないですかね。」
ハルは陽気に答えたが、アニエスは首を横に降る。
すでに解析を終えていたらしい。
「ここで見せて貰えば良いんじゃないか?」
ラグナが面倒くさそうに言う。
「良いですよ。」
ハルは嬉々として水筒を取り出して、テーブルの上に置いた。
「さてお立ち会い、ご用とお急ぎでない方はどうぞお近くでご覧下さい。」
そう言ってハルは水筒の蓋を取り、逆さにした。中に残った水はポタリポタリとテーブルに落ちた。
「中にはもう水は残っておりませんね?」
周りを見回しハルが言う。
「では、水を出して御覧に入れましょう。」
と言って再び蓋をして、水筒を両手で持ち、目を閉じる。
なにやら呪文らしきものを詠唱している。
「はい!この通り水が現れました!」
ハルは水筒の蓋を取り逆さにする。すると、水筒から水が勢いよく溢れ落ちる。
「ああ~、すいませんすいません。」
と言ってハルは水浸しにしたテーブルを拭き、アニエスは何か言いたそうにこちらを見ている。
まぁまぁ、言いたい事は色々あるだろうが、この件は後程話し合う事にしよう。
ハルが落ち着くのを待って話を続ける。
「では、山賊に襲われて森に逃げた後の事を聞かせて貰えますか?」
「分かりました。」
そう言って語り始めたが、それはとても信じ難いものであった。
森の中には動物だけではなく、魔物も多数生息している。
その中を何日もさまよって、危険らしき危険に遭遇しないなど、運が良いという問題ではない。
しかもギンの能力の話になった時、突然ラグナが声を上げた。
「おいおい、シルバーウルフが火魔術なんて使える訳ないじゃないか。」
「え?ギンって狼なんですか?」
「いや、狼と言うか、狼型の魔物と言うか。魔物じゃなきゃ魔術は使えねぇよ!それでも火魔術なんて使えるはず無いんだよ。」
この世界全ての生き物には魔力が宿っている。
普通の動物でも、体内の魔力を雷などに変化させて、放出する種類もいるが、魔術ではない。
魔力と親和性の高い魔物は、スキルを持ち魔術を使用することが出来ると言われている。
しかし森に住む魔物が火魔術を使用する事はまず無い。
しかもシルバーウルフの弱点が火だと言う点でも有り得ない事だと言う。
森の深部を縄張りとし、風と雷の魔術を操り、ゴブリンやオークすらも従える森の王だ。
成獣となれば、体長10mは超える。ギンはまだ幼体だと思われる。
「ギンってまだ子供なのかぁ。」
「いや、そんな事が言いたい訳じゃないんだが。」
ラグナも呆れたように口を閉ざした。
今日の話はここまでにして、宿までハル達を送る事にした。




