15話 黒い角
遭難生活7日目にして、待望の村が見えて来た。
村の入口まで走って行くと、警備係の兵士に止められた。ごめんなさい、嬉しくてはしゃいでしまいました。
事情を説明すると、組合まで案内してくれた。
「ありがとうございます。」
「いやいや、話は聞いてたよ。本当に無事で良かったな。」
そう言って警備係の兵士は持ち場に戻って行った。
組合でも相当心配してくれていて、結構な騒ぎになっていたらしい。
しかし、残念ながら乗合馬車は、昨日出たばかりだった為、次は5日後になるとの事。
暇が出来たのでその間は、村を色々観て回ろうと思う。
組合で宿を用意してくれたので、少し早いが夕食を食べて寝てしまった。
ギンも一緒に泊まれる宿にしてくれたおかげで、喜んだミサの抱き枕になっている。
次の日、組合でフラーノを出てからの事を話したり、乗合馬車のその後について聞いた。
なんと、勇者さん達に助けられたらしい。
勇者さんって綺麗な女性だったし、会いたかったなぁ等と思っていたら、この先の街で僕らを待っているらしい。
今思い出したけど、話さないといけない事があるのを、すっかり忘れていたよ。
思い出したらドキドキしてきた。
ギンの事だけど猟犬の場合は、街に入る前に飼い主登録が必要みたいで、ペット用の首紐を買わされた。
別に猟犬って訳じゃないけど、行動を制限されてもつまらないしね。
大きい街にはカッコいい首輪も売っているらしいので、ギンには悪いがしばらくしょぼい紐で我慢して欲しい。
一応、ミサを王都へ送り届ける任務中なので、新たな仕事を受ける訳にもいかず、暇な時間を過ごしていた。
やる事といったら、旅で汚れた服や道具を洗ったり、砥石を借りて鉈や短剣を研いだりするくらい。
初日にはそれらを済ませてしまったのでもうやる事は無い。
3日後には観れる所は大方見てしまった。
暇をもてあまし、僕らは村から少し離れた森に来ていた。
村に来る途中で栗の木を見つけたからだ。
時期が早いかと思ったが、結構な量の栗が拾えた。
日本で見た栗の倍は大きい。栗饅頭は無いかな、焼き栗でもいいから食べたいな。
帰り道、村のすぐ近くで大きな熊に出会った。
その熊は背中に、真黒な4本の角が刺さっていた。
いや、生えているのかな。
意味がわからないが、進化をした熊?
野生の熊に出会った事なんて初めてだ。
死んだ振りをした方がいいんだっけ?
そんな事を考えていると、ギンが炎を吐いた。
しかし、熊は怯むことなく、火ダルマのまま突進してきた。
僕はミサを抱えて木の影に隠れる。
ギンは華麗に跳躍して突進をかわすと、背後から爪で熊の背中に生えた角を一本折った。
今簡単に折ったと思うが、必殺技か?必殺技なのか?
熊は角を折られても痛みを感じないのか、同じように突進を繰り返す。
背中にあった4本の角は、既に全て折られて道に転がっている。
ギンの炎攻撃にも何のダメージも無さそうだ。
だが熊も流石に疲れたのか、動きが止まりボーっとしている。そして突然、森に帰ってしまった。
助かったみたいだ。
ミサを抱えてギンに近づくと、先ほど折り取った角を持って行けと吠える。
よく見れば、黒と言うより深い紫色で異常に重い。
4本の角を荷袋に詰め、村に戻った。
組合で買い取って貰おうと、受付に話すとすぐに買取担当者が現れた。
聞けばこの近辺に出没する熊だと言う。
今まで人を襲うことは無かったらしいが、ここ数年で角が生え出して、それにともなって狂暴になっていったらしい。
魔獣化したのではないかと言われているが、討伐依頼を出しても捕獲出来る人間がいなかったらしい。
確かに弓矢くらいじゃ倒せそうもないね。
価格は組合でも詳しくは判らず、王都の本部に送って調査をしてもらうと言っていた。
結果が出次第連絡をくれるそうだ。
立派な角だから少し期待してます。はい。
旅の準備も整った。
いよいよ明日の朝、乗合馬車で次の街へ向かう。
勇者さん達も待ってるだろう。
組合でフラーノ支部への伝言をお願いし、今日は早く寝る事にする。
〇 〇 〇
乗合馬車での旅は順調で、2日後に”オルガーノ”の街へ到着した。
まずは組合への報告。
次の馬車の出発日を確認する。7日後に出発だそうだ。
ギンが一緒に泊まれる宿を紹介してもらった。
そして勇者さんからの伝言で、話をしたいので都合の良い日を教えて欲しいとの事。
いつでも良いんだけど、明日の朝に来ますと言って宿に向かった。
宿に着いて7日間分の宿代を払い食事に出掛ける。
大きな街だから贅沢な食事をしたい。
干し肉と硬いパンは当分要らない。
夕陽に染まる山々を見ながら、ここまでの旅を振り返ってみる。
考えてみるとたった半月程の旅なのに、かなり濃密な時間を過ごした気がする。
ミサにはかなり無理を強いてしまった。5才の女の子には相当負担だったと思う。
だがもうここまで来れば、乗合馬車で王都はすぐだ。
たぶん、僕は元の世界には帰れないだろう。記憶があまりないので寂しさはない。
だがミサとの別れを思うと胸が苦しくなる。
王都に住めばまたミサにも会えるだろうか。
まだ任務途中だが、そんな事を考えてしまう。
それより明日は勇者さん達と会うんだった。
優しそうな人だったけど、僕の正体が分かればどうなるか分からない。
僕の正体が悪魔的な感じだった場合は討伐対象なんだろうなぁ。
自分でも分からないんだから、今考えても答えは出ない。
頼むよ自分、勇者的な正義の味方であってくれ。
わりと本気で。




