14話 白銀
日も傾き始めた頃、川が見えて来た。
街道から外れて、林を越えた先にある。
川幅は10メートル位で、大きな川ではない。
「ミサ、川が見えたよ。」
「かわ?」
ミサは川に行った事がないらしい。
「魚とか捕れるかも?」
「さかな~」
ミサを抱えて走る。
ミサが楽しそうだと僕もうれしい。
海とか川ってテンションが上がるよね。
川に近づいた時、すぐ後ろで犬が吠え出した。
何事かと立ち止まり、吠えている方向を見ると、川からでっかいワニの口が飛び出した。
「うぉぉぉ」
目の前で口をバクンと閉じ、ゆっくり川に沈んで行った。うん、ワニじゃない。
イルカみたいな体が見えた。恐竜の一種だと思う。
犬が吠えてくれなかったら食べられていたよ。
「ありがとうな、助かったよ。」
「ありがとう。」
ミサも僕に合わせてお礼を言っていた。
恐竜は怖いが川も諦められない。水浴びしたい。
川から少し離れて浅瀬を探す事にした。
幸いにもすぐに河原が見つかった。
早速、皆で水浴びだ。
深場に近付かなければ、大きい恐竜は来れないだろう。
浅瀬でミサを洗ってから、犬の洗浄に掛かる。
血と泥と油に塗れていて、汚れが落ちにくい。
しばらく水に浸かってもらい、砂利を付けて擦る。
なんと犬の泥を落とすと、綺麗な白い体毛が現れた。
茶色だと思っていたので驚いた。
しかも傷だらけで、所々ハゲていて、とても痛々しい。
街で買った傷薬があるので、塗ってあげたが犬にも効くのかは不明。
名前を”早太郎”と付けようとしたら吠えられた。
なぜだ。
シロ、ポチ、マサルとか候補はあったが、気に入らなかったようだ。
結局、白銀という意味だと説明して”ギン”という名前で渋々納得したようだ。
こだわり過ぎだろう。
白い体毛なんだからシロで良かったんじゃないか。
今日は河原で寝る事にした。
川の支流を利用した魚の罠を作ったので、明日の朝が楽しみだ。
朝、ギンの声で起こされた。また寝てしまった。
気を抜き過ぎてる自覚はあります。反省。
ギンの吠えている方へ行くと、昨日仕掛けた罠にでっかい魚が掛かっていた。
ワニ頭の魚、うん、昨日の恐竜の子供だね。
しかも他に掛かっていた魚を、こいつが食べてしまったみたいだ。許さん!
食っちまうぞ。いや、やめよう。
少し離れた所で親恐竜が見てるな。さっきからワニ口が出たり入ったりしてる。
こっち見んな。怖いよ。
暴れるワニ魚にマントを被せ、大きな口を押さえながら抱えあげた。
そのまま川の深い所に投げ入れてあげると、親恐竜が寄ってきて一緒に帰っていった。
子供恐竜の壊した罠を作り直す気力はなく、パンをかじっていると、バシャバシャッと大きな魚が降ってきた。
ハッっと川を見ると、あの恐竜が悠然と泳ぎ去って行った。恐竜の恩返しか?何でもいい、有難い。
拝んでおこう。パンパン。
せっかくの好意だ、焼いて食べようと思う。
捌こうと鉈を撃ち込むが、骨や鱗が硬すぎて、まったく刺さらない。
鎧の様な外殻に隙間はなく、唯一軟らかい腹を割いて内臓を取り出した。
だがこれ以上の解体は無理だった。
仕方なく石を積んで大きなかまどを作り、そのまま焼く事にした。
だけどしばらく焼いても変化無し。なんだこれ。火耐性とかなのか?
強い火魔術とかじゃないと焼けないのかも?
「ギンは火魔術使えたりしない?かな?」
ダメ元で聞いてみる。
「ウォン?!」
しばらく悩んでいたが、突然ギンの口元から、火炎放射機のように炎が吹き出した。
「凄いよギン、火魔術を使えるなんて。」
期待していた訳じゃなかったので、かなり驚いた。
この旅ではギンの高い能力に驚かされてばかりだ。最初に会った時の死に掛けた状態から、身体も一回り大きくなった気がする。
そんな事を思っていると、炎に焼かれた魚の鱗が焦げて反り返って来ている。
魚を裏返してもう一回ギンに焼いてもらう。
焼き上がった魚の鱗は簡単に剥がれ、そこから覗く白い身は、とても美味しそうに見える。
「どうかな、毒とか無いかな?」
危機回避の点でも、ギンの能力は高い。
臭いを嗅ぎ、少しだけ食べる。
「ウォン」
大丈夫みたいだ。それを聞いて僕とミサは食べ始めた。
「旨い旨い。」
「おいしいね。」
ミサも気に入ったようだ。
この魚、見た目に反して相当美味い。
白身で柔らかく、味は濃いが臭みは無い。
塩を振るだけで、いくらでも食べられそうだ。
例えるならアンモニア臭のしない鮫の大トロかな。
分かりにくいか。
僕達は腹いっぱいになるまで食べた。
残りはすべてギンが食べてしまった。
かなり大きな魚だったのにな。
ギン君、また体大きくなったんじゃないか?
骨は焚き火に入れたが、燃やす事が出来なかったので、砂を掛けて埋めておいた。




