パンの謎
ハルの能力が少しだけ判ります。
夕方近くに国境の街フラーノに到着したクリスは、自由組合で乗合馬車襲撃事件の報告した。
「そんな・・・」
今にも泣き崩れそうな表情で・・・いや、崩れてしまった女性はミサの世話をしてくれたサラだ。
「ハルが付いているんだ、あいつは結構慎重だ、だから大丈夫。絶対戻って来る。」
突然の凶報に表情が優れないフラーノ支部の職員達。
ガッロはくやしそうに顔をしかめながら、クリスの方へ向き直り言う。
「すまんな、ハルにはちと強引に勧めた依頼でもあったんでな。」
クリスたちはミサの話や港で起きた誘拐事件の詳細を聞いた。
ハルの行動が事件解決に繋がった事で、ここフラーノ支部ではかなり信頼されているようだった。
ハルを捜しに行く事も考えたが、広い森の中を方向も分らず人探しは不可能に近い。
先日はかなりの範囲を捜索したが、手掛かり1つ見付けられなかった。
ハルがもし、何らかの力があるとすれば、生きて戻ってくる可能性はある。
ここは彼を信じて待つしかないだろう。
「我々はオルガーノの街で待つ事にします。」
明日の朝出発して、街道の途中にある大きな街「オルガーノ」に向かう事を伝えた。
次の日、再び組合に顔を出し、出発する事を伝えた。
組合を出よう立ち上がった時、ラグナが妙な事を言い出した。
「この昨日もここにパンがあったが誰も食わないのか?」
言われて机の隅にあったパンを見たが、昨日来た時には気が付かなかった。
しかしそれがどうしたと言うのか、変な事を言う奴だなとラグナを見ると、すぐ横にいるアニエスの顔色がみるみる変わっていった。
「これは?」
近くの女性職員に聞くと
「ああ、それはハルさんの武器だそうですよ。」
クスクス笑いながらハルの武勇伝(笑)を話してくれた。
「このパン、持っていっても良いですか?」
「良いぞ。ハルの武器だからな、ついでに返しておいてくれ。」
ガッロさんが笑いながら許可をくれた。
組合事務所を出ると足早に馬車へ向かった。
乗り込むとすぐにオルガーノに向かって馬車を走らせた。
パンを手にして無言で見つめるアニエスにクリスが話しかけた。
「アニエス・・・・何かあったのか?」
アニエスはゆっくり顔を上げるとマリアの方へ向きパンを差し出す。
「・・・・マリアも解析して見てくれ。」
「え・・あ・・・はい。」
渡されたパンを手にマリアは戸惑いながら解析魔術を掛けた。
「え・・・これは!?・・・・・・・」
ハルの持っていた硬いパンの能力が明らかになった。
パン
小麦粉で出来ている。
よく焼き固められた硬質な食品。
スキル・・・【破壊不可】 【武器破壊】
この場にいる全員が同じ気持ちであろう。
「パンを武器にするスキルとかじゃないよな?」
「武器にスキル付与だったらすごいですね。」
「付与スキルとは珍しいな。」
「いや問題は、このスキルの希少性だ。【武器破壊】はまだしも【破壊不可】は伝説や神話の中でしか聞いたことが無いぞ。」
「それより私が気になるのはこの傷だ。」
「こりゃ剣とやり合った時のものだろう。」
「【破壊不可】が発動していれば傷なんて付くわけがない。」
「ああそうか、ってことは?」
「戦闘中にスキルが付いたって事だろ。」
「パンにスキルを付与するスキルなんてあるのかよ。」
「鍛冶スキルの中にそんなものがあった気がしますが・・・」
「鍛冶スキルは武器の鍛錬中に効果を付与するだけでスキル自体は付かないぞ。」
「そうなんですか?」
「付与スキルは確かに存在する。しかし自分の持つスキルを譲渡すると言うものだ。」
「しかしハルはスキルを持ってないんだろ?」
「どこかで目覚めたのかもしれません。」
「アヤト国での彼の行動にはおかしなところは無かったと思うが。」
「それにスキルを付けたパンを置いて行くとかおかしくありませんか?」
「もしかして自分の能力に彼自身がまだ気付いていないとしたら?」
「・・・・・・・・」
「まだどんなスキルかも判らないんだ。彼を探して聞くしかない。」
「そうですね。」
「そうだな、待つしかないか。」
「なあ、腹空かないか?」
「・・・・・ぷっ」
「そういえばもうお昼過ぎてますね。」
「・・・・・・・・」
「食事にしましょう。」
「賛成。」
クリス達がオルガーノに到着したのは完全に日が落ちた後だった。




