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最下位を装う元剣聖、学園1位の理事長令嬢が公然と俺にだけ甘すぎて困ってます  作者: あざね
第1章

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8/11

5.その少年、元剣聖。

連載再開_(:3 」∠)_






 異世界に転生した俺は、一心不乱に剣を振った。

 すべては仲間を守るため。魔法が使えなかったからこそ、自分にできることで何かをしようと考えた結果だった。だから雨が降っても、雪が降っても剣を振り続けた。腕が上がらなくなるまで、骨が折れていた時でさえも。

 そうしていると、周囲はいつの間にか俺のことをこう呼ぶようになった。



 ――『剣聖』と。






「ほら、かかってこいよドラゴンさん方? 獲物はこっちにいるぜ!」



 梨花への注意がそれるように、俺はダンジョンを駆けまわる。

 すると単純な思考をしている竜たちは、いっせいにこちらへと眼を向けた。そして、そのうちの三体が大きく口を開いて咆哮する。

 これは灼熱のブレスが放たれる前兆。

 俺はその動きを認めてから、迎撃態勢を取った。



『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』



 そうして吐き出された火炎。

 三方向から迫りくる絶望を前にして、しかし――。



「悪いな、俺には効かないんだ」



 俺は懐から小型ナイフを取り出し、その絶望を切り裂いた。

 これは異世界での自分が、仲間を守るために至った境地。一心不乱に、人としての生涯を剣に捧げた末に至った到達点。

 そう、俺は――『魔法を断つ』ことができるのだ。



「――さて。隙だらけだぜ、ドラゴンさんよ!」



 ブレスを放ったドラゴンは、しばらく行動ができなくなる。

 その隙を狙い、俺は跳躍してドラゴンの喉元へナイフを突き立てた。切り払うと宙に咲くのは鮮血の華。降り注ぐそれに目をくれる間もなく、残りの二体の首も切り裂いた。

 するとドラゴンは、断末魔の叫びを上げながら消滅していく。

 その様子を眺めながら俺は、



「どうする? お仲間は、半分以下になったみたいだけど」



 大声で、そう叫んだ。

 その言葉がダンジョン内に反響し、しばしの沈黙があってから。残りのドラゴンはまるで雲隠れするかのように、迷宮の闇の中に溶けていった。

 どうやらいまので、自分には勝てないと理解したらしい。

 気配が完全に消えたのを確認してから、俺は後方で尻餅をつく梨花を見た。



「怪我はないか、梨花?」



 いつかのように、手を差し伸べる。

 すると幼馴染みは以前よりも大人びた、しかし同じ表情を浮かべていた。だけどそれも一時のことで、小さく微笑むと彼女は俺の手を取る。

 そして、



「わああああ!! ありがとう、ありがとう才人くんっ!!」

「ちょ、わ……いきなり抱きつくな、っての!?」



 さっきまでの恐怖心はどこへやら。

 いつもの調子で抱きついて、その全身を密着させてきた。でも俺はあえてそれを振り払うことはせず、ため息一つついてから頭を撫でる。

 すると梨花は意外そうな表情を浮かべ、小首を傾げてみせた。



「あれ、このままでもいいの?」

「いまは他に、誰もいないだろ。だったら、別に構わないさ」

「えへへ……ありがと、才人くん!」

「それでも、くっつき過ぎとは思うぞ……?」



 こちらの言葉に幼い笑顔を浮かべ、胸へ頬擦りしてくる幼馴染み。

 その姿を見ていると、自然と頬が緩むのを感じた。その中に若干の呆れがあったとしても、こんな嬉しそうな梨花を守れたのなら本望だ。

 俺がそう考えていると、



「才人くんが、こんなに強いのも二人だけの秘密……だもんねっ!」



 幼馴染みは誇るように笑う。

 それはそのはずだ。だって俺が、この力を使うのは――。



「そうだな。……これは、二人だけの秘密だ」



 ――大切な存在を守るため。

 梨花を傷つける者がいるなら、俺はきっと躊躇いなく戦うだろう。






「じゃあ、これも二人だけの秘密……ね?」

「…………え?」



 梨花はそう言いながら顔を近づけて。

 その次の瞬間、頬になにか柔らかいものが触れた。

 いったい何が起こったのかを理解するまで、しばしの時間がかかったが――。



「ば、おま……なにするんだよ、お前!?」



 耳まで熱くなるのを感じ、とっさに顔を逸らしてしまった。

 そんな俺を幼馴染みは笑いながら見つめて、穏やかな空気が戻ってくる。



「えへへ……才人くんは特別、だよ?」

「……ばーか」





 だが俺は、その時間こそが大切に違いないのだった。







 ――才人と梨花が互いの無事を噛みしめている、その一方。

 一人の男性がダンジョンの闇の中で、顎に手を当てながら不敵な笑みを浮かべていた。暗がりで年の程も、背格好も判別はできない。

 ただその人物は、笑いを含んだ声色でこのように呟いた。




「なるほど、面白いな。……これは想定外に、楽しめそうだ」――と。





 漂う不吉に、外壁から滴る雫の音さえも大きく響いていた。





面白かった

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