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最下位を装う元剣聖、学園1位の理事長令嬢が公然と俺にだけ甘すぎて困ってます  作者: あざね
第1章

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4.学園1位の少女は、窮地に陥り。






「おい、何があった! どうしたんだ!?」

「ボーっとしてる暇があるなら、お前も逃げろよ!」

「だから、何があったって訊いてるんだ!!」



 慌てふためくAクラスの生徒の一人を捕まえて、俺はがなり声でそう問いただす。

 すると、その生徒は若干キレ気味にこう言うのだった。



「ドラゴンだよ、ドラゴン! ドラゴンが出たんだよ!?」

「な、に……?」



 その言葉に俺は眉をひそめる。

 初心者用、しかも政府認定のダンジョンでドラゴンの出現。にわかには信じ難い状況ではあるけれど、この騒動を見る限り間違いではないようだった。

 それならすぐに退避して、全員の無事を――。



「――おい、待てよ。梨花はどうした、どこにいる!?」



 そこまで考えた瞬間、俺は周囲に幼馴染みの気配がないのに気付く。

 だからまた、今度は肩を鷲掴みにして怒鳴り散らすと、その生徒は答えた。



「あ、我妻さんは……その、時間稼ぎをするって……!」

「くっそ、あのバカ……!?」



 それに対して、俺はもう考えるより先に身体が動く。

 生徒を突き飛ばし、焦りを堪えるように歯を食いしばって駆け出していた。







「みんな、逃げられた……かな?」



 ――咆哮しながら、周囲の防壁を破壊し続けるドラゴン。

 怒り狂うというよりは、苦しんで正気を失っているようにも見えるその姿に、梨花の心は対照的に落ち着き払っていた。政府認定のダンジョンは、魔素の濃度が通常のそれらよりも薄い。ドラゴンのような魔物が存在するには、絶対量が不足する。

 それを梨花も、理解していた。

 だからドラゴンも本来の力を発揮できないはず、と。



「それでも、厳しいんだけど」



 学園1位であるとはいえ、しかし彼女もまだ学生の身分だ。

 歴代最高の素質を秘めているとしても、その原石はまだ研磨の真っただ中。いかに弱体化しているドラゴンを相手にしたとしても、勝機があるかと訊かれれば五分五分か、あるいは不利に傾くと思われた。

 それでも、クラスメイトを守るためにはこれしかない。

 覚悟を決めた梨花は、魔法陣を展開した。



「(ドラゴンの鱗は、それこそ鋼鉄のような強度。それを破壊するには――)」



 ゆっくりと深呼吸しながら、彼女は初撃にありったけの魔力を注ぎ込む。

 そして、これで終われと願いを込めながら――。



「――爆散せよッ! エクスプロージョンッ!!」



 現状の彼女が放てる最高威力の一撃を。

 極限まで練り上げた魔力をさらに、最大限まで高濃度化して撃ち込んだ。




 ――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?




 爆炎系の上級魔法――エクスプロージョン。

 教員でさえ制御に苦心する梨花の放った爆裂魔法は、狙い過たずドラゴンの喉元に直撃した。そこは比較的に、鱗による装甲が薄い部分。

 倒せる可能性があるとすれば、そこを吹き飛ばすしかなかった。

 そして、



「……やった!」



 爆発の煙から露わになったドラゴンの頭部は、ものの見事に消し飛んでいる。

 魔素の結晶へと還っていくそれを見つめ、梨花は思わず尻餅をついた。もう身体に力が入りそうにない。魔力はいまの一撃にすべてを使い切った。

 だけど、これで危機は去ったはず。

 そう思って一つ、息をつこうとした。――その瞬間だった。




「――――――――」




 その呼吸が、止まる。

 息が、詰まってしまった。

 じっとりと、嫌な汗が頬を伝っていく。



「嘘、でしょ……?」



 何故なら『それ』は、一体ではなかったから。

 あまりの事態に、周囲への警戒を完全に怠っていた。――いや、そもそも単独行動を主とするドラゴンが、集団で行動するなんて想定できない。

 梨花はいよいよ苦笑しながら、こう口にした。



「……あと五体、か」



 恐怖のにじんだ声色。

 震えそうになる喉を必死に抑えつけて、彼女は悔しげに唇を噛んだ。じわりと鉄の味が広がって、その痛みと共に悲しみが襲いかかってくる。

 脳裏によぎるのは、もちろん大切な幼馴染みのこと。



「(あぁ、バカだな、私……自分も強くなった、って思い込んで)」



 あの日、自分の命を救ってくれた才人。

 幼いながらも大きく見えた彼の背中を瞼の裏に浮かべ、梨花の頬には一筋の涙が伝っていった。悔しさ、悲しさ、あるいは寂しさ。

 こんな最期は望んでいなかった。



「(……ごめんね、才人くん)」



 せめて、最後にもう一度だけ。

 愛しい彼の声を聞き、姿を見たいと少女は願った。そして、




「………………あぁ、もう――」




 ゆっくりと、諦めるように目を閉じた。

 ドラゴンの吐く灼熱の炎が、彼女を覆い隠し――。




「さよなら、だね」




 そんな言葉が漏れたその時だった。





「バーカ、勝手に諦めてるんじゃねぇよ……!」

「え……?」





 彼の声が、耳に届いたのは。



「才人、くん……!?」

「悪いな梨花、ちょっとばかり遅くなった」



 目を開けると、そこにはやはり幼馴染みの姿があって。

 少女の瞳には先ほどとは違う、歓喜の涙が溢れた。ぽろぽろとこぼれていくそれは、止めようとしても止まらない。

 それを認めて、才人はドラゴンを見上げた。

 そして、




「ちょっとばかり、待っててくれ。……すぐに、片付けてくるから」

「………………うんっ!!」







 その力強い言葉に、梨花は拳を胸に頷くのだった。




 

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