4.学園1位の少女は、窮地に陥り。
「おい、何があった! どうしたんだ!?」
「ボーっとしてる暇があるなら、お前も逃げろよ!」
「だから、何があったって訊いてるんだ!!」
慌てふためくAクラスの生徒の一人を捕まえて、俺はがなり声でそう問いただす。
すると、その生徒は若干キレ気味にこう言うのだった。
「ドラゴンだよ、ドラゴン! ドラゴンが出たんだよ!?」
「な、に……?」
その言葉に俺は眉をひそめる。
初心者用、しかも政府認定のダンジョンでドラゴンの出現。にわかには信じ難い状況ではあるけれど、この騒動を見る限り間違いではないようだった。
それならすぐに退避して、全員の無事を――。
「――おい、待てよ。梨花はどうした、どこにいる!?」
そこまで考えた瞬間、俺は周囲に幼馴染みの気配がないのに気付く。
だからまた、今度は肩を鷲掴みにして怒鳴り散らすと、その生徒は答えた。
「あ、我妻さんは……その、時間稼ぎをするって……!」
「くっそ、あのバカ……!?」
それに対して、俺はもう考えるより先に身体が動く。
生徒を突き飛ばし、焦りを堪えるように歯を食いしばって駆け出していた。
◆
「みんな、逃げられた……かな?」
――咆哮しながら、周囲の防壁を破壊し続けるドラゴン。
怒り狂うというよりは、苦しんで正気を失っているようにも見えるその姿に、梨花の心は対照的に落ち着き払っていた。政府認定のダンジョンは、魔素の濃度が通常のそれらよりも薄い。ドラゴンのような魔物が存在するには、絶対量が不足する。
それを梨花も、理解していた。
だからドラゴンも本来の力を発揮できないはず、と。
「それでも、厳しいんだけど」
学園1位であるとはいえ、しかし彼女もまだ学生の身分だ。
歴代最高の素質を秘めているとしても、その原石はまだ研磨の真っただ中。いかに弱体化しているドラゴンを相手にしたとしても、勝機があるかと訊かれれば五分五分か、あるいは不利に傾くと思われた。
それでも、クラスメイトを守るためにはこれしかない。
覚悟を決めた梨花は、魔法陣を展開した。
「(ドラゴンの鱗は、それこそ鋼鉄のような強度。それを破壊するには――)」
ゆっくりと深呼吸しながら、彼女は初撃にありったけの魔力を注ぎ込む。
そして、これで終われと願いを込めながら――。
「――爆散せよッ! エクスプロージョンッ!!」
現状の彼女が放てる最高威力の一撃を。
極限まで練り上げた魔力をさらに、最大限まで高濃度化して撃ち込んだ。
――ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?
爆炎系の上級魔法――エクスプロージョン。
教員でさえ制御に苦心する梨花の放った爆裂魔法は、狙い過たずドラゴンの喉元に直撃した。そこは比較的に、鱗による装甲が薄い部分。
倒せる可能性があるとすれば、そこを吹き飛ばすしかなかった。
そして、
「……やった!」
爆発の煙から露わになったドラゴンの頭部は、ものの見事に消し飛んでいる。
魔素の結晶へと還っていくそれを見つめ、梨花は思わず尻餅をついた。もう身体に力が入りそうにない。魔力はいまの一撃にすべてを使い切った。
だけど、これで危機は去ったはず。
そう思って一つ、息をつこうとした。――その瞬間だった。
「――――――――」
その呼吸が、止まる。
息が、詰まってしまった。
じっとりと、嫌な汗が頬を伝っていく。
「嘘、でしょ……?」
何故なら『それ』は、一体ではなかったから。
あまりの事態に、周囲への警戒を完全に怠っていた。――いや、そもそも単独行動を主とするドラゴンが、集団で行動するなんて想定できない。
梨花はいよいよ苦笑しながら、こう口にした。
「……あと五体、か」
恐怖のにじんだ声色。
震えそうになる喉を必死に抑えつけて、彼女は悔しげに唇を噛んだ。じわりと鉄の味が広がって、その痛みと共に悲しみが襲いかかってくる。
脳裏によぎるのは、もちろん大切な幼馴染みのこと。
「(あぁ、バカだな、私……自分も強くなった、って思い込んで)」
あの日、自分の命を救ってくれた才人。
幼いながらも大きく見えた彼の背中を瞼の裏に浮かべ、梨花の頬には一筋の涙が伝っていった。悔しさ、悲しさ、あるいは寂しさ。
こんな最期は望んでいなかった。
「(……ごめんね、才人くん)」
せめて、最後にもう一度だけ。
愛しい彼の声を聞き、姿を見たいと少女は願った。そして、
「………………あぁ、もう――」
ゆっくりと、諦めるように目を閉じた。
ドラゴンの吐く灼熱の炎が、彼女を覆い隠し――。
「さよなら、だね」
そんな言葉が漏れたその時だった。
「バーカ、勝手に諦めてるんじゃねぇよ……!」
「え……?」
彼の声が、耳に届いたのは。
「才人、くん……!?」
「悪いな梨花、ちょっとばかり遅くなった」
目を開けると、そこにはやはり幼馴染みの姿があって。
少女の瞳には先ほどとは違う、歓喜の涙が溢れた。ぽろぽろとこぼれていくそれは、止めようとしても止まらない。
それを認めて、才人はドラゴンを見上げた。
そして、
「ちょっとばかり、待っててくれ。……すぐに、片付けてくるから」
「………………うんっ!!」
その力強い言葉に、梨花は拳を胸に頷くのだった。
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