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最下位を装う元剣聖、学園1位の理事長令嬢が公然と俺にだけ甘すぎて困ってます  作者: あざね
第1章

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3.離れ離れの幼馴染み。





 ――俺が二度目の転生で戻った日本は、様変わりしていた。

 もっとも国のシステムとか、そういった構造自体に大きな変化はない。変化があったのは、魔法という力の発生による日々の暮らしだった。最初の転生前、俺がいた頃は科学資源の不足が叫ばれていたからこそ、魔力という新エネルギーは魅力的に映ったのだろう。

 世界が魔法を中心に回り始めるまで、そう時間はかからなかった。



「えっと……あ、ここの術式は――」

「うわ、なんだよ! スライムって思ったより動き速いな!?」



 もっとも同時多発的に発生したダンジョンについては、各国で対応が分かれたが。

 日本は有力な魔法使い育成のため、一部を開放する方針を取っていた。それでも他国に比べれば遅れている、拙速な対応と囁かれることもあるが……。



「おい、荒垣! キサマも真面目にやらんか!?」

「……えぇ、そうは言ってもなぁ」



 そんなことをボンヤリ考えていると、背後から楠木の声が聞こえた。

 俺は頭を掻きながら、ひとまず目の前で困っている同級生のもとへと向かう。自分の所属しているクラスには、様々なタイプの劣等生がいた。例えば俺のように魔力がそもそも不足している者、魔力はあるが制御のできない不器用な者など。

 さらには、



「――え、えと! ファイア……ばふぅ!?」

「おー、小鳥遊。今日も見事な不発だな?」

「ふえぇ……けほ、けほっ……!」



 いまほど初級魔法の発動を失敗し、顔が煤けてしまった少女――小鳥遊梓のように。魔力も限られていれば、その制御にさえも苦心する者だっていた。

 そんな彼女は俺と並んで、成績最下位を争っていたりする。

 肩ほどまでの金色の髪に青の瞳、幼い顔立ちをしている少女は我がクラスのマスコット的存在だった。梨花とは違う意味での人気者である。



「そ、そんなこと言ったって、荒垣もできてないじゃん!」



 こちらがからかうと、小鳥遊は食ってかかるようにそう言ってきた。

 どうにも彼女は俺のことを『ライバル』と思っている節があり、他のクラスメイトとは違って積極的に声をかけてきたりする。こういった実習になると決まって、どちらが好成績を残せるかと、底辺同士の泥仕合を申し込んでくるのだ。

 俺としては、暇つぶしにちょうど良いのだが――。



「…………その術式、文言一つ間違えてないか?」

「え、どこ……?」



 ふと小鳥遊の開いているノートを覗き込んで、そう指摘した。

 魔法についてはからっきしだが、簡単なスペルミスだったりはさすがに自分でも理解できる。煤を払いながらノートを見る彼女に該当箇所を指で示すと、



「あ、そういうこと!?」

「ほれほれ、もう一回やってみろよ」



 小鳥遊は目を輝かせて深呼吸。

 そして、順調に魔法を詠唱していって――。



「いっけええええええええ!! ファイアっ!!」



 ――ぴぎぅ~!?

 ようやく魔法の発動に成功。スライムを倒す……には至らなかったが、どうにか追い払うことはできていた。彼女にとってみれば、数少ない成功体験だったのだろう。



「やった、やったよ荒垣! ありが――」

「おう、どういたしまして」



 ほとんど無意識のうちに俺へ感謝を伝えようとして、



「――バ、バカじゃない!? アタシが荒垣に感謝するわけないし!?」

「おー、これはまた典型的な反応をありがとうございます」



 昨今、漫画の中でも見かけないセリフを口にしていた。

 俺は顔を真っ赤にしている小鳥遊を適当にあしらいながら、ふと遥か前方で活動しているであろう梨花のクラスのことを考える。

 そして思い出すのは、



「アレは、本当に気のせいだったのか……?」



 ダンジョンの入口で覚えた違和感について。

 妙なズレは奥に進むにつれて、少しずつ大きくなっているように思えた。しかし細心の注意を払わなければ、気付かないような微々たるものだ。

 俺の思い過ごしの可能性もあるが――。



「あれ? ねぇ、荒垣?」

「――ん、どうした?」



 そう思っていると、小鳥遊が前方を指さす。

 そして、こう言うのだった。



「あっちから走ってくるのって……Aクラスの生徒たちじゃない?」――と。



 Aクラスというのは、優等生の集められたクラス。

 つまり、梨花の所属しているクラスだった。







「(私も才人くんと同じが良かったなぁ……)」



 ――ほんの少しだけ時間をさかのぼって。

 才人よりも先行してダンジョンに入った梨花は、彼と別行動になったことに不満を抱いていた。もっとも、それはクラスの違いによるものとは理解している。

 その上でも彼女は、幼馴染みと行動できないことが嫌だった。



「(ワガママなのは分かってるけど、それでも寂しいよ)」



 表情にこそ出さないが、梨花の意識は完全に才人の方へと向けられている。

 愛しい彼と別れていることが、時を経るごとに辛くなっていく。もしかしたら近い将来には、このような状況でも彼のもとへ駆け出してしまうかもしれない。

 それほどまでに、彼女の頭の中は想い人のことでいっぱいだった。



「(……あーあ、早く才人くんに会いたいなぁ)」



 そんな思考に、頭の中が支配されていたからだろう。



「………………え?」





 魔法の才に秀でた者ほど、魔力の流れには敏感とされている。

 だがしかし、梨花はいままでそれに気付かなかった。



「(……なに、この重い空気!?)」



 先頭を歩く彼女が足を止めると、他のクラスメイトも止まる。

 その全員が何事かと首を傾げているが、考えるより先、梨花は叫んでいた。






「みんな、逃げてッ!!」――と。




 

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