1.二度目の転生、選んだ平穏。
ここから第1章!
――俺こと荒垣才人は、すでに二度の転生を経験している。
一番古い記憶は、まだ魔法なんかが発生する前の日本。そして事故で命を落としてからは、異世界で世界を救うことになった。そこでの暮らしが嫌だったかと、そう問われれば否と答えるだろう。
周りにはしっかり仲間がいたし、それなりに楽しく過ごしていた。
そんな奴らを助けるために世界を救うのだって、悪くない選択だったと思う。
『だけど、もうそんな使命がないのなら……』
俺はいまを平穏に暮らしたい。
守るのだとしたら、自分の手の届く範囲の大切な人だけで良い。さすがに、世界の命運を丸々と背負い込むというのには、疲れてしまった。
だったら、できるだけ目立たない暮らしを――。
◆
「――くん、起きて。おーい、起きてよ才人くん?」
「ん……うん?」
そんな微睡みの中にいると、俺を揺り起こす者がいた。
とても耳馴染みのある少女の声はとても優しく、甘い響きを秘めている。耳元で囁くように名を呼ばれているのも、一瞬の覚醒があってからは子守歌のようだ。
そんな幼馴染み、つまり梨花の呼びかけに俺はこう答える。
「………………あと五分」
「それ、さっきも言ってたよー?」
そして布団を頭から被るのだが、すると彼女は困ったように言った。
こうやって幼馴染みに起こされるのは、すっかり日常の出来事となっている。いつもならここで、彼女は打つ手なく考え込んでしまうのだが――。
「今日は遅刻できないんだよ? ほら、起きてーっ!」
――今日は、少しばかり様子が違うらしく。
梨花は寝ている俺の上、布団越しに馬乗りになった。しかし幼馴染みは驚くほどに軽く、圧迫感のようなものはない。それでも確実に上になられているので、布団から少しだけ目を覗かせると、やはり彼女はどこか嬉しそうにしていた。
だが梨花も、梨花なりに恥じらいがあるのだろう。
ほんの少しだけ頬を赤らめていた。
「ほらー、起きて? ねぇ、才人くーん?」
「…………やだ」
「えー!?」
そんな状態で必死に前後に身体を揺らす彼女の訴えに、俺はしばしの沈黙を含んでからそう答える。すると梨花は、どこか信じられないといった様子で眉を下げた。
こちらはそんな幼馴染みを認めてから、また布団を被る。
そして、再び眠りに就こうとしていると――。
「む、むむむー! だったら、私も寝ちゃうもんね!!」
「は……?」
布団越しに、何やらそんな言葉が聞こえた。
しかし『彼女も寝る』というのは、どういうことだろうか。そう思っていると、被っている布団の隙間から――。
「……おいおい、マジかよ」
「へへーん! 才人くんが、すぐに起きないからだよー?」
梨花が潜り込んできて、身体を密着させてきた。
仰向けに寝ていた俺を抱き枕のようにした幼馴染みは、こちらを見上げて悪戯っぽく笑う。そして次に、俺の胸にその綺麗な顔を埋めて大きく息を吸った。
彼女はその後、どこかトロンとした声色でこう口にする。
「ん……才人くん、良い香り」
「なんだそれ……」
「……にへへ」
そんな梨花の様子に、思わず軽くツッコミを入れた。
だがまったく気にせずに彼女は、その姿勢のまま離れなくなってしまう。俺はその状態になってから、仕方なしに所在のなかった右手で彼女の頭を撫でた。
長く美しい黒髪に触れると、ふわりと幼馴染みの使っているシャンプーの香りがする。俺の身体からしているそれより、万倍も良い香りだと思った。
「…………まぁ、梨花がそれで良いなら、良いか」
もっとも、好みなんてのは人それぞれ。
互いの香りが好きなのなら、俺たちの相性は悪くない、ということだろう。などと考えながら、欠伸を噛み殺しつつ梨花の頭を撫で続けていると――。
「ん、梨花……?」
「……………………すぅ」
「マジかよ」
――なんということだろう。
俺を起こしにきたはずの幼馴染みの方が、眠りに落ちてしまった。ちらりと覗いた顔を見ると、完全に熟睡モード。
あまりに幸せそうな寝顔に、こちらはしばらく思考を巡らせた。
そして、
「まぁ、いいか」
これはこれで、たぶん問題はないだろう。
俺はそのように考え直して、先ほどまで堪えていた欠伸を一つ。梨花から感じる程よい温もりは、二度寝をするのにちょうど良さそうだった。
そんなわけで、こちらもゆっくり目を閉じつつ思う。
守るとしたら――たぶん、こういう時間なんだろう。
そして、次第に落ちていく意識。
本日二度目の眠りに身を委ね、その朝の時間は過ぎていくのだった。
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