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最下位を装う元剣聖、学園1位の理事長令嬢が公然と俺にだけ甘すぎて困ってます  作者: あざね
第1章

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4/7

1.二度目の転生、選んだ平穏。

ここから第1章!






 ――俺こと荒垣才人は、すでに二度の転生を経験している。

 一番古い記憶は、まだ魔法なんかが発生する前の日本。そして事故で命を落としてからは、異世界で世界を救うことになった。そこでの暮らしが嫌だったかと、そう問われれば否と答えるだろう。

 周りにはしっかり仲間がいたし、それなりに楽しく過ごしていた。

 そんな奴らを助けるために世界を救うのだって、悪くない選択だったと思う。



『だけど、もうそんな使命がないのなら……』



 俺はいまを平穏に暮らしたい。

 守るのだとしたら、自分の手の届く範囲の大切な人だけで良い。さすがに、世界の命運を丸々と背負い込むというのには、疲れてしまった。

 だったら、できるだけ目立たない暮らしを――。





「――くん、起きて。おーい、起きてよ才人くん?」

「ん……うん?」



 そんな微睡みの中にいると、俺を揺り起こす者がいた。

 とても耳馴染みのある少女の声はとても優しく、甘い響きを秘めている。耳元で囁くように名を呼ばれているのも、一瞬の覚醒があってからは子守歌のようだ。

 そんな幼馴染み、つまり梨花の呼びかけに俺はこう答える。



「………………あと五分」

「それ、さっきも言ってたよー?」



 そして布団を頭から被るのだが、すると彼女は困ったように言った。

 こうやって幼馴染みに起こされるのは、すっかり日常の出来事となっている。いつもならここで、彼女は打つ手なく考え込んでしまうのだが――。



「今日は遅刻できないんだよ? ほら、起きてーっ!」



 ――今日は、少しばかり様子が違うらしく。

 梨花は寝ている俺の上、布団越しに馬乗りになった。しかし幼馴染みは驚くほどに軽く、圧迫感のようなものはない。それでも確実に上になられているので、布団から少しだけ目を覗かせると、やはり彼女はどこか嬉しそうにしていた。

 だが梨花も、梨花なりに恥じらいがあるのだろう。

 ほんの少しだけ頬を赤らめていた。



「ほらー、起きて? ねぇ、才人くーん?」

「…………やだ」

「えー!?」



 そんな状態で必死に前後に身体を揺らす彼女の訴えに、俺はしばしの沈黙を含んでからそう答える。すると梨花は、どこか信じられないといった様子で眉を下げた。

 こちらはそんな幼馴染みを認めてから、また布団を被る。

 そして、再び眠りに就こうとしていると――。



「む、むむむー! だったら、私も寝ちゃうもんね!!」

「は……?」



 布団越しに、何やらそんな言葉が聞こえた。

 しかし『彼女も寝る』というのは、どういうことだろうか。そう思っていると、被っている布団の隙間から――。



「……おいおい、マジかよ」

「へへーん! 才人くんが、すぐに起きないからだよー?」



 梨花が潜り込んできて、身体を密着させてきた。

 仰向けに寝ていた俺を抱き枕のようにした幼馴染みは、こちらを見上げて悪戯っぽく笑う。そして次に、俺の胸にその綺麗な顔を埋めて大きく息を吸った。

 彼女はその後、どこかトロンとした声色でこう口にする。



「ん……才人くん、良い香り」

「なんだそれ……」

「……にへへ」



 そんな梨花の様子に、思わず軽くツッコミを入れた。

 だがまったく気にせずに彼女は、その姿勢のまま離れなくなってしまう。俺はその状態になってから、仕方なしに所在のなかった右手で彼女の頭を撫でた。

 長く美しい黒髪に触れると、ふわりと幼馴染みの使っているシャンプーの香りがする。俺の身体からしているそれより、万倍も良い香りだと思った。



「…………まぁ、梨花がそれで良いなら、良いか」



 もっとも、好みなんてのは人それぞれ。

 互いの香りが好きなのなら、俺たちの相性は悪くない、ということだろう。などと考えながら、欠伸を噛み殺しつつ梨花の頭を撫で続けていると――。



「ん、梨花……?」

「……………………すぅ」

「マジかよ」



 ――なんということだろう。

 俺を起こしにきたはずの幼馴染みの方が、眠りに落ちてしまった。ちらりと覗いた顔を見ると、完全に熟睡モード。

 あまりに幸せそうな寝顔に、こちらはしばらく思考を巡らせた。

 そして、




「まぁ、いいか」




 これはこれで、たぶん問題はないだろう。

 俺はそのように考え直して、先ほどまで堪えていた欠伸を一つ。梨花から感じる程よい温もりは、二度寝をするのにちょうど良さそうだった。

 そんなわけで、こちらもゆっくり目を閉じつつ思う。



 守るとしたら――たぶん、こういう時間なんだろう。



 そして、次第に落ちていく意識。

 本日二度目の眠りに身を委ね、その朝の時間は過ぎていくのだった。



 

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