7.まさかの展開に、才人は頭を抱え。
我妻遼太郎は俺の両親と、学生時代からの親友だ。
始まりのことは詳しく知らないけれど、どうにもウマが合ったとか聞いたことがある。しかし一般的家庭である荒垣家と、連綿と続く名家である我妻家の子供の趣向が似通うなどあるのだろうか。――というのは、長年の謎だった。
「こんにちは、理事長」
「あぁ、いつも通り『オジサン』で構わないよ?」
「学園内なんだから、そういうわけにもいかないでしょう……?」
こちらが困りながらも挨拶をすると、理事長はにこやかに答える。
そこにあったのは、集まりで見せる時となんら変わらない、梨花の親父さんとしての表情だった。そんな彼のいつも通りに、俺は少し呆れながら肩を竦める。
いきなり毒気を抜かれたが、もう仕方ない。
それなら俺もと、普段接するような口調に戻してこう訊ねた。
「……それで、呼び出しの理由は何なんだ?」
「呼び出し……?」
すると、どこか遼太郎さんはきょとんとした表情になる。
目を丸くする様子は、俺の口調によるものではないように見えた。
「もう、お父さんが才人くんを呼んだんでしょ?」
「……あぁ、そうだったね」
隣にいる梨花も同じことを思ったのか、少しだけ怒ったように言う。
そんな愛娘の反応に対して、ようやく彼は頷き返した。
だが、微かに口が動く。
『何者かが気を利かせた、か……?』
読唇術はそこまで得手ではない。
それでも、おおよそそのような内容が見て取れた。もしかしたら、忙しい遼太郎さんに代わっての伝達がされた、のかもしれない。
俺はそう考えて、ひとまず相手の出方を待った。
すると、
「今日、才人くんを呼んだのには理由があってね」
「……はぁ」
本当に違和感なく彼は話し始めた。
こちらもいつもの調子で、頭を掻きながら相槌を打つ。いったいどんなワケなのかは知らないが、面倒なことでなければそれでいい。
そう思っていたら――。
「キミには明日から、Aクラスに編入してもらうことにしたんだ」
「――――は?」
遼太郎さんはいきなり、とんでもないことを言い放った。
Aクラスというのはつまり、成績優秀者の集まり、将来的にこの国を支える魔法使いになることを嘱望されている者たちの場所。
そんなところに、成績最下位付近を漂う俺が紛れ込もうものなら……。
「待って、いや待て待て待て待て!? なに言ってんだ、オジサン!!」
「お父さん、それ良いね!!」
「梨花も!?」
とっさにツッコミを入れようとしたら、隣の幼馴染みから援護射撃がきた!
父の提案に娘の梨花は、前のめりになりながらノリノリで頷く。すると理事長は満足そうに頷きかえしながら、このように言うのだった。
「梨花が喜んでくれて何よりだよ。二人が仲良くしているのは、もちろん知っていたからね。それなら成績なんて関係なしに、傍にいてくれた方が安心だ」
「うんうん、分かってるね! お父さん!」
「ちょ、待って――」
そんな『理不尽』がまかり通ってたまるか!
そう俺は抗議をしようとした、が――。
「あぁ、これはもう決定事項だからね」
「――――――」
遼太郎さんから、満面の笑みでそうトドメを刺されてしまった。
自分はあまりの出来事に絶句しながら、ただその場に立ち尽くすことしかできない。そして、
◆
「えー……どういうワケか知らないが、今日からAクラスに編入となった荒垣だ」
「――――――」
翌日、気付けば俺はAクラスで紹介されていた。
当然のように騒然とするクラスメイトたち。それもそのはず、俺は常に成績最下位付近、ということで名高い存在だった。そんな劣等生がいきなり優等生クラスに放り込まれる、となれば……。
「ついに依怙贔屓も、ここまできたか……?」
「裏口入学したってのはガチ、ってことか」
「いや、理事長の弱みを握ってるのかも」
そのように悪目立ちするのもまた、当たり前のことだった。
俺は全身に嫌な汗をかくのを感じながら、ただ時間が過ぎるのを待っている。すると、担当教員がクラスメイトをなだめ、このように話を続けた。
「それでは、えー……荒垣の席は――」
そうして教室の窓際最後尾を見る。
そこには急遽、ひとつの空席が用意されていた。
せめて目立たない場所で、穏やかに学園生活を送りたい。そこなら周囲の目を気にせずに居眠りもし放題。その点についてのみ、俺は歓喜した。
だが、そこで――。
「はい、先生。よろしいでしょうか?」
「ん、どうした? 我妻」
「才人くんは、私の隣の方が良いかと」
「ふむ……?」
「――はい?」
ど真ん中の席に座る梨花が、凛々しい表情で手を上げて言う。
俺が困惑してると、
「我妻、理由を訊こうか?」
「彼に勉強を教える必要があるのであれば、私が適任かと思いまして」
「……ふむ。それは一理あるが、本当に大丈夫なのか?」
「全責任は、私が持ちます」
「そこまで言うなら、仕方なしか」
幼馴染みはなにやら、それっぽい理由をでっち上げた。
教員も妙に納得してしまい、話がトントン拍子に進んでいく。そして、
「それでは、隣の席の奴は代わりの席に移動するように。……荒垣、お前の席は我妻の隣だ」
「………………」
口を挟む間もなく、決まってしまった。
指示されたクラスメイトはとかく不服そうに俺を睨みつつ、一つ舌打ちして窓際最後尾へ向かう。対して俺は、高嶺の花たる梨花の隣に着席することになった。
そうなるともう、周囲の学生の声が勝手に耳へ入ってくる。
「なんで、アイツばかり……?」
「……劣等生のくせに、何様だよ」
だけど、そんな声など気にもせず。
隣の席に座る梨花は、嬉しそうにこう囁いてくるのだった。
「これでようやく、ずっと一緒だね……!」――と。
彼女と一緒にいるのが嫌なわけではない。
俺が嫌なのは、とにかく目立ってしまうこと。だから、
「ど、どうしてこうなった……!?」
思わず頭を抱えて、そう呟くのだった……。
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