1.編入後の日常と、ライバル登場?
「えー……それでは、次の問題は我妻! 答えてみなさい」
「はい、分かりました」
Aクラスの授業進行速度は、元々俺のいたGクラスの何倍も速い。
魔法関係の科目はともかくとして、一般教養などについては頭上に疑問符が浮かんでしまった。ちなみにいまは、世界史の授業中。
自分が以前にいた頃にはなかったホログラムの地球儀を前に、指名を受けた梨花が淡々とした口調で説明を始めた。
「魔法の出現によって、各国は対応を余儀なくされました。その中で最も早くに動き始めたのが、現在はユークリッドと呼ばれる国の前進であるイギリスをはじめとした、欧州諸国です。彼らは古くから魔法という存在に気付いていたとされ――」
――だが、いまの国名の中で知っているのはイギリスだけ。
そもそもとして以前の日本にいた頃も、世界についての知識は多いわけではなかった。そのため過去の中途半端な記憶と、いま習っている内容がイマイチ合致せずに混乱することもしばしば。
もっとも俺自身は、点数を取れなくても構わないのだが……。
「よろしい。席に戻って良いぞ、我妻」
「はい」
そんなことを考えていると、幼馴染みの解答が終わったらしい。
教室内にはささやかな拍手が響いて、収まると同時に教員の説明が始まった。戻ってきた梨花は俺に向けて、ピースサインを作って微笑む。
そして、
「…………ん!」
「…………ん?」
何やらドヤ顔で、着席した彼女は頭を傾けてきた。
ふわりと良い香りがするのだが、それよりも意図が掴めずに困ってしまう。そんな微妙な間が生まれて数秒すると、梨花はほんの少しだけ頬を膨らした。
その上で、こう言うのだ。
「……褒めてほしいな、なんて」
甘えたような口調で、上目遣いに。
そこでようやく、こちらも彼女の意図を汲み取った。
しかし俺たちは公衆の面前というか、教室のど真ん中にいる。そんな場所でいつものように頭を撫でたら、どうなるかと考えて――。
「むぅ……!」
「――分かったよ、仕方ない」
だけど瞳を潤ませる梨花を前に、なかなか無視はできなかった。
そう思った俺はひとつ息をついてから、
「ほら、よくできました」
「……えへへっ!」
なるべく小さな声でそう言いつつ、幼馴染みの頭をポンポンと撫でる。
すると彼女は心の底から嬉しそうに微笑んで、
「ちょ、おま……!?」
周囲の目など気にしていないのか。
俺の肩に頭を乗せると、軽くそれを擦りつけるようにしてきた。周囲のクラスメイトには当然に気付かれ、小声で何かを話しているのが分かる。
これはマズいとは思いつつも、しかし乱暴に振り払うこともできない。
そうやって困り果て、俺はいよいよ――。
「――う、ぐ」
いったん、考えることをやめた。
梨花には後ほどしっかりと、言って聞かせるとしよう。そう思って周囲の奇異の眼差しを避けるように、自分は教科書に意識を集中させるのだった。
◆
――と、考えていたのだが。
次の授業は男女分かれての体育だったため、幼馴染みは女子専用の更衣室へと移動してしまった。
こうなっては、仕方ないだろう。
俺はそのように思い直し、ひとまず体操着へと着替えを始めた。
「やあ、荒垣くん? 今日は実にいい天気だね」
「ん……?」
その時だ。
何やら貧相極まりない会話デッキを繰り出す男子が現れたのは。上着を脱いでから見ると、そこにいたのは真っ赤な髪に金の瞳をした少年。顔立ちは整っており、いわゆる美形というやつだった。
佇まいにはどこか品格があり、育ちの良さがにじみ出ている。
そんな彼は首を傾げる俺に対して、一つ思い出したように頷いた。
「あぁ、すまない。自己紹介がまだだったね……僕の名前は、エドワード。ユークリッドのリヒュインブルク家、といえば伝わるかな?」
「リヒュインブルク……?」
そして、そう名乗る。
どこか自慢げにさえ思える彼の態度に、俺は素直に答えた。
「いや、すまん。まったく知らない」
「……………………」
するとエドワードの笑みはあからさまに硬直し、教室内も静まり返る。
いったい、どこの誰だというのだろう。そう思っていると、
「キ、キミは本気で言っているのか……? 世界最高峰とされる魔法の一族を!!」
「いや……そう言われても、俺は興味も何もなかったから」
「不勉強とは聞き及んでいたが、よもやここまでとは」
「なんか、ごめんな」
ご丁寧に説明しながら、絶句してくれた。
そんな少年に俺は謝罪をしながら、ひとまず話を前に進めることにする。
「それで、そのリヒュイン……なんとかさんが、俺に何の用?」
「リヒュインブルク!! 一度で覚えたまえ、基礎教養の一部だぞ!?」
だがまたしても、声を荒らげながらツッコミを入れられてしまった。
ここまでくると申し訳ないが、知らないものは仕方ない。そんな事情さえもエドワードは呑み込んだらしく、仕切り直すように咳払いを一つ。
そして、このように言うのだった。
「こほん……あぁ、そうだな。僕はキミを試してあげようと思ったんだ」
「……試す、だって?」
何かと思っていると、出てきたのはそんな言葉。
俺が小首を傾げて不思議そうにしていると、彼はこう宣言するのだ。
「ズバリ、キミが我妻梨花さんの隣に相応しい男か、どうかを……ね!」――と。
俺はその発言ひとつで、あることを察するのだった。
「あ、これ――」
――色々と面倒くさい上に、厄介なことになるやつだ、と。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!




