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充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~  作者: 中畑道
第七章 王都編

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第三十二話 妹よ、俺は今決闘の話を聞いています。


「どうするのですか、アンソニー様?」


「ヘラルド・・・どうすればいい?」


「知りませんよ。年下で平民の女の子と決闘なんて、御父上の耳に入れば廃嫡ものですよ」


「バルガス、助けてくれよ」


「無理。決闘は一対一が原則。助けようがない」


 ミルと決闘をすることとなった男子生徒アンソニー キャロルは、軽い気持ちで少し揶揄うつもりだったのに、引くに引けない事態となってしまったことを今更ながら後悔していた。


「たしかにちょっかいをかけたのは俺の方だが、あいつも口が悪すぎるだろ。平民のくせに、貴族に向かって馬鹿って言ったんだぞ、馬鹿って!」


「的確な意見だと思いますよ。なあ、バルガス?」


「うん。簡潔にして的確」


「お前らなぁ・・・」


 王都の隣に位置するボルティモの街出身の三人。身分の違いこそあれ、幼き頃より友として育ち気心は知れている。


「それにしてもアンソニー様、決闘の申し込みはどう考えてもやり過ぎでしょう」


「いや、少し脅してやろうと思っただけだって・・・まさか受けると思わないだろ」


「決闘を脅しの材料にするところが浅はか」


「悪かったよ!馬鹿ですみませんね、馬鹿で!」


 領主であるアンソニーの父親は、内政と軍部のトップであるヘラルドとバルガスの父親と力を合わせボルティモの街を守り発展させてきた。自分達と同じ様に、次世代を担う息子達が力を合わせボルティモの街を発展させてほしいという期待のもと、三人は王都の学校で共に学んでいる。


「ハァー、こうなっては仕方がありません。迅速に勝利で決闘を終わらせたのち、寛大な心で相手を許す、これしかないでしょう。間違っても相手に大怪我なんて負わせては駄目ですからね、アンソニー様」


「わかっているって!ハァー・・・なんで俺が年下の女の子と決闘なんてしなきゃいけないんだよ・・・」


「決闘を申し込んだのはアンソニー様」


「はい、はい、悪うございました!もし、決闘が終わった後でも揉めそうだったら、お前らが止めてくれ。頼むぞ」


「言われなくてもそうしますよ。なあ、バルガス」


「うん。アンソニー様を殴って気絶させてでも止めるので安心してほしい」


「それはそれで安心できないって・・・」


 学校の敷地内にある闘技場へ先に着き、ミル達を待つ間に少し落ち着きを取り戻した三人は、貴族らしく後処理について思案していた。彼等の頭の中に、アンソニーが負けるなどという考えは微塵もない。



♢ ♢ ♢



「凄いよミル、武器がいっぱいある!」


 腰に剣を差しているアンソニーに対してミルは丸腰(実際は見えないところに十字手裏剣やクナイが多数収納されている)、流石にそんな相手とは戦えないので好きな武器を選んでこいとアンソニーから言われ、ミル、カルナ、フランの三人は闘技場の隣にある武器庫へ来ていた。


「うーん・・・ミルの体力でも使えそうな武器となると短剣くらいかな。ミル、剣は使ったことがある?」


「ない。わたし、どちらかと言えば魔法職だし」


「だったら杖か・・・杖はオーダーメイドが基本だから武器庫には無いかも」


「武器なんか無くてもあんな奴楽勝」


「流石に丸腰って訳には・・・一応相手にも面子ってものがあるから」


「武器ならある。ほら」


「えっ!」


 ミルはどこからか十字手裏剣とクナイを取り出しフランに見せる。


「フーちゃん、ミルはあの尖ったやつを盗賊の太腿にぶっ刺して三人同時にやっつけちゃったんだよ!」


 自分のことのように語るカルナ。その屈託のない表情と話の内容の乖離に、フランは冷や汗を滲ませる。


「ミル、それは使っちゃ駄目だからね!相手に大怪我させるようなことになったらトキオ先生に絶対叱られるよ」


 既に事は充分に叱られ案件である。フランとしては一秒でも早く終わらせて本来の予定に戻りたい。もし、相手に大怪我を負わせるようなことがあれば、本当に貴族が出張ってくるような事態に発展する可能性もある。


「フーちゃんは心配性だなぁ・・・わたしはもうお姉さんだから、それくらいわかっている」


「お姉さんは安易に決闘なんて受けません!」


 フランの説教などどこ吹く風、武器を物色するミルが駆けだす。


「これいいかも!」


 ミルが選んだのは使い古した木剣。強度の確認をしているのか、両端を持ってギシギシとしならせているが今にも折れそうだ。


「そんなのでいいの?」


「うん。どうせ本物の剣は重くてわたしには振れない。これって、折っても怒られないよね?」


「それは大丈夫。でも、木剣じゃなくても軽い剣なら探せばあると思うよ」


「これでいい」


「ミルがいいのならかまわないけれど・・・」


 木剣を腰に当て、トキオがマーカスとの立ち合い時に見せた居合切りの真似をしながらキャッキャと喜び合うミルとカルナ。とてもこれから決闘に赴く雰囲気ではない二人に、フランは少しだけ安堵した。



♢ ♢ ♢



「逃げずによく来たな」


「お前なんかから逃げる訳ない。バカで知らなかったとはいえ、トキオ先生に対して暴言を吐いたことは絶対に謝らせる」


「こいつ、また馬鹿と・・・」


 いっその事、逃げてくれれば良かったのにと思いながらも憎まれ口を叩くアンソニー。そんなアンソニーに対し、それ以上の憎まれ口で応戦するミル。


 一瞬怒りで我を忘れそうになるアンソニーであったが、先程のヘラルドとバルガスの言葉を思い出し怒気を鎮める。怒りに任せて相手に大怪我を負わせる訳にはいかない。だが、ミルが持つ武器を見て怒気がぶり返す。


「おっ、お前、なんだその剣は!」


「木剣」


「もっとマシな武器があっただろう!」


「お前なんてこれで充分。なんなら素手でも構わない」


「このガキ・・・」


 次から次へと神経を逆撫でするようなことを言うミルに理性が崩壊寸前のアンソニー。これは拙いとヘラルドが慌てて声を掛ける。


「落ち着いてください、アンソニー様」


「わかっている!」


 フゥー、フゥーと息をしながらミルとの距離を取るアンソニー。それに合わせてミルも距離を取る。もう一度互いに向き合うと、剣を抜いたアンソニーが高らかに声を発した。


「我こそはキャロル侯爵家が嫡男、アンソニー キャロル!いざ、尋常に勝負!」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「名乗れよ!」


「あっ、そっか。ごめん、ごめん」


 名乗りを忘れていたミルは素直に謝ると、満面の笑みで意気揚々と木剣を掲げた。


「我こそはセラ学園年長組、シリケン同好会副会長にしてトキオ先生の一番生徒、ミル!十二歳。いざ、尋常に勝負!」


 どこか間抜けに聞こえる名乗りだが本人はいたって真剣、実に満足そうな表情をしている。


互いに名乗りあったが立会人も審判も居ない。いち早く雰囲気を察したバルガスが「はじめ!」と声を掛けると、早く勝負を終わらせたいアンソニーが一目散にミルへ向かって駆けだす。


「グラウンドピット」


 ドテッ!


 王都へ来る道中の盗賊退治以外、ミルに対人戦闘の経験は無い。だが、手本となる戦闘の観戦経験はある。賢いミルはそこから学んでいた。自分が手本とすべきはトキオやマーカスのように常人離れした強者の戦い方ではなく、アトルの武闘大会でオスカーが見せてくれた戦い方だと。あの時のオスカーは自分より強者の魔法職や大剣使いに勝利しただけでなく、十倍以上の基本ステータスを持ったガイアソーサとまで互角以上に戦った。腕力や才能だけで勝負は決まらない。知恵や工夫、戦略や戦い方でいくらでもやりようはあると教えてもらった。


 派手に転んだアンソニーだが、なぜ自分が転倒したのか理解はできていない。目の前の少女が無詠唱魔法の使い手などとは夢にも思っていない為、自分の不注意で転倒したものだと思い込んでいる。まだミルとは距離があるので、起き上がると同時に転倒時手を放してしまった剣を慌てて拾いに行く。


 ミルの狙いはそこにあった。アンソニーが剣を拾いに行っている間にミルは準備を整える。


 バキッ!


 ボキッ!


 まだ一度も戦闘に使っていない木剣をへし折るミル。刃の部分と柄の部分に別れた木剣。刃の部分を捨て置き、T字になった柄の部分をさらにもう一度へし折り、()の字にする。


「コーティング」


 最早木剣ですらない()の字の木材を土属性魔法で成型するミル。勢いよく飛び込んでいった直後に無様を晒したアンソニーには、ミルの武器が変化していることに気付く余裕は無かった。


 気を取り直し、再びミルに突進していくアンソニー。そんなアンソニーにミルは()の字の武器を投げつけるが容易く躱される。


「はっ、どこを狙っていやがる」


 大した攻撃ではなかったことに余裕の言葉を吐いたアンソニーを見て、ミルの口角が上がる。次の瞬間・・


「ガハッ・・・」


 まったくの死角から頭部へ強い衝撃を受けたアンソニーはその場にうつ伏せで倒れた。


「ブーメランだ!」


「カルナ、ブーメランって何?」


「物理の授業でトキオ先生が作ってくれたの。翼に生じる揚力と歳差運動っていう効果が合わさって、ああやって弧を描いて戻ってくるんだって。難しくて原理はよくわからないけれど、セラ学園で一時凄く流行ったの!まあ、すぐにテオが鉢植えを割っちゃって禁止になったけど」


「やっぱり凄いね、セラ学園は!」



 フランがカルナの解説を聞き終わる頃、ようやくアンソニーが後頭部を摩りながら起き上がる。アンソニーには頭部に直撃した筈のブーメランがいつの間にかミルの手元に戻っていることに気付く余裕は無い。


「何をしやがった・・・」


「自分で考えろ、バカ」


「貴様・・・もう、許さん!」


 三度ミルに突進するアンソニー。その心理がミルには手に取るようにわかった。体力、腕力、剣術で勝ると考えているアンソニーは、距離さえ詰めてしまえば勝利は間違いないと思っているから無理をしてでも突進してくる。アトルの武闘大会でオスカーと対戦した大剣の剣士やガイアソーサも同じ行動を取った。ただ違うのは、アンソニーには大剣の剣士やガイアソーサ程の力や技術は勿論、経験値もない。


「えい!」


「くらうか、そんな攻撃」


 先程同様、軽く躱すアンソニー。


「ガハッ・・・」


 そして・・・先程同様、後頭部に強い衝撃を受け倒れ込む。


 さらに先程同様、ブーメランはミルの手元へ。


「ねえカルナ、ブーメランの原理はなんとなくわかったけれど、どうしてアンソニーの頭に当たってもミルの手元に帰ってくるの?」


「多分魔法だよ。ミルはブーメランの原理だけじゃなくて風属性の魔法でもブーメランを操っているんだよ」


「なにそれ、凄いじゃない。まあでも、ミルならそれくらい出来ても不思議じゃないか・・・」


「うん。だってミルは、トキオ先生の一番生徒だもん!多分、本当の意味でブーメランの原理を理解している生徒はミルだけだと思うし」


「そうだね。歳差運動なんて言葉、私も初めて聞いたし・・・流石は元年中組の参謀長!」


「フフフッ、フラン将軍とミル参謀長、懐かしいね!」


「こら!ここじゃ将軍は禁止」


「はーい!へへへっ」


 既にフランとカルナはミルの勝利を確信していた。ミルをよく知る二人には、ミルが相手に大怪我を負わせないよう手加減して戦っていることもわかっている。だが、対戦相手のアンソニーはまったく理解していない。



「おかしな技を使いやがって・・・だが、攻撃パターンがわかればそれ程脅威でもない」


「だったら、一回くらい避けてみろ」


「言われなくてもやってやるよ!」


 アンソニー、四度目の突進。


「えい!」


 ミル、三度目の投擲。


 ブーメランを躱したアンソニーはすかさず反転する。


「くらうか!」


 弧を描きながら迫るブーメランを迎撃態勢で待ち受けるアンソニー。だが、アンソニーがそうくることなどミルにはお見通しだった。


「エアジェット」


 風属性の魔法を自らの後方に当てアンソニーとの距離を一気に詰めるミル。まさか自分から距離を詰めてくると思っていないアンソニーはミルの急接近に気付いていない。


「アースステップ」


 アトルの武闘大会でオスカーが見せてくれた土の階段。ミルは風の勢いそのままに階段を駆け上がる。


「どうだ!もうこの技は通用しないぞ!」


 叫びながらブーメランを剣で叩き落すアンソニー。


「とう!」


「ガハッ・・・」


 アンソニーはまたもや後頭部に強い衝撃を受け倒れ込む。


「ねえ、ねえ、カルナ!あれ、アトルの武闘大会でオスカー兄様が見せた必殺キックよ!凄いわ、ミル!」


「うん。体の小さなミルでも、あの高さからのキックなら充分に威力がある。流石はミル、かっこいい!」



 興奮するフランとカルナの姿にご満悦のミルは、アースステップを消すとゆっくり元の位置まで戻りアンソニーとの距離を取る。


 ふらつきながらも、なんとか立ち上がるアンソニー。その姿を見下すように仁王立ちで待つミル。まだ勝負を諦めていないアンソニーは、ふらつきながらも手放した剣に向かって歩き出す。だが、ここで外野から声がかけられた。


「アンソニー様、この少女には勝てません。負けを認めてください!」


「何を言う、ヘラルド。まだ勝負はこれからだ!」


「アンソニー様、その子はまったく本気を出していない!」


「バルガス、お前まで・・・何を根拠に・・」


 ミルは三人のやり取りを黙って聞いていた。フランとカルナも口を出さない。


「その子がさっきから使っているのは無詠唱魔法。俺達とはレベルが違う」


「バルガスの言う通りです。彼女が本気になれば、アンソニー様を即座に無力化できます」


「こいつが・・・無詠唱魔法だと・・・そんな訳あるか!」


 ヘラルドとバルガスの言葉にアンソニーは納得がいかない様子。ここでようやくミルが口を挟む。


「お前の仲間が言っていることは正しい。お前はバカだが、仲間のことは少し見直した。だからちょっとだけ本気を出してやる」


「できるものならやってみろ!」


 アンソニーの叫びにミルはニヤリと口角を上げる。


「ぐるぐるウォーターボール」


 ミルの頭上に現れたのは人一人が入るのに充分な大きさのウォーターボール。それが高速で回転している。この魔法は水属性と風属性を掛け合わせたミルのオリジナル魔法。


「なっ、な、なんだ・・・その魔法は・・・」


 アンソニーの問いには答えず、ミルはブーメランを作ったときに余った木剣の刃の部分をおもむろに拾うと、ぐるぐるウォーターボールに投げ込む。


 バキッ、ボキッ、バキッ


 投げ込まれた木剣の刃の部分が瞬く間に粉々になる。


「死にはしないようにちゃんと手加減はしてやる。だが、骨の数本が折れるくらいは覚悟しておけ」


 これは脅し。この威力の魔法をアンソニーにぶつける気などミルには無い。仮にアンソニーが意地を張って降参しないとしても、自分の力をある程度認識しているうしろの二人が必ず止める。


 だが、ミルの目論見は外部からの声によって失敗に終わる。


「あなた達、何をやっているのですか!すぐに止めなさい!」


 慌てて魔法を解除するミル。しかし、魔法は解除できても一度出した水は消えたりしない。


 バシャッ


 頭上から大量の水を浴びずぶ濡れになるミル。最早言い訳の仕様もない・・・


「フランツェスカさん、アンソニー君、どういう事か説明しなさい!」


「「・・・・・・・・・」」


 ロートベット教授の怒号が響き渡る中、ずぶ濡れのミルが発言する。


「ちょと・・・遊んでいただけ」


「ミルさん・・・そんな噓、大人には通用しませんよ」


「・・・ごめんなさい」


 結局、ロートベット教授監視下のもと当事者だけでなく現場に居た六人は全員理事長室へと連行される。


 静まり返る校舎の中、ミルのスカートから滴る水滴の音がポタポタと響き渡っていた。



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