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勇者パーティーから追放されたけど金髪巨乳にTSしたのでざまあしてやります  作者: かわうそ


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25/27

25.ちょっと嬉しい俺

 八日目の夕方。訓練から戻り、宿の食堂で全員で夕食を取っていた。

 フィーネの作ったシチューは今日も絶品で、カールは三杯目をおかわりしている。ゲオルクは丁寧にパンをちぎって汁に浸し、クルトは壁際の定位置で黙々とスプーンを口に運んでいた。

 アルたんは──珍しく、食事の手が止まっていた。

 スプーンを皿の縁に置いたまま、窓の外を見ている。夕焼けが窓ガラスを橙色に染めて、アルたんの横顔に影を落としていた。整った輪郭が夕日に縁取られて、精悍な顔立ちがいつもより大人びて見える。だがその表情には、勇者としての決然さではなく、もっと個人的な──思い悩むような翳りが浮かんでいた。

 眉間にほんの少しだけ皺が寄り、視線が定まらない。何かを追いかけているような、あるいは追いかけることを迷っているような目だ。


「アル、どうしたの? ご飯、冷めちゃうよ」


 俺が声をかけると、アルたんは一瞬我に返ったように瞬きをして、それから気まずそうに目を逸らした。


「……ん。いや、大したことじゃない」


 そう言いながらスプーンを手に取ったが、また止まった。シチューの水面に映った自分の顔を見つめている。


「大したことじゃなさそうには見えないけど」


 今度はリーゼが口を挟んだ。翡翠の瞳がアルたんを観察している。


「……最近追い出した奴が、どうしてるかなって、ちょっとだけ気になった」


 アルたんがぼそりと言った。

 追い出した奴。

 それが誰のことか、この場の全員が──いや、俺以外の全員が知っている。エミール。村人。パーティーから追放された、かつての幼なじみ。

 心臓が、跳ねた。


「エミール君のことですか」


 ゲオルクが穏やかに問うた。糸目の奥の表情は読めないが、声色には珍しく真剣味がある。


「……まぁ、そうだ」


 アルたんは窓の外に視線を戻した。茜色の空に、鳥が一羽、黒い点になって飛んでいく。


「あいつは戦えない。スキルもない。このまま連れて行けば、いつか死んでた。判断は正しかったと思ってる。──けど」


 一拍置いて、アルたんは続けた。


「あいつ、飯だけは上手かったからな。……ちょっとだけ、な」


 最後は照れ隠しのように言葉を濁した。


「まぁ田舎に帰ってるだろうけど」


 アルたんが付け加えた言葉は、自分に言い聞かせるような響きだった。帰っているはずだ。帰ったに決まっている。そう信じなければ──追放した側の心が保たないのだろう。

 俺はスプーンを握ったまま、何も言えなかった。ここで「大丈夫だよ、元気にやってるよ」なんて言ったら不自然だ。エミという新参者が、会ったこともないはずのエミールのことを保証するなんて、おかしい。

 けれど、胸の奥が温かくなっている自分がいた。

 追い出した。それは事実で、俺はまだ許してない。でも──気にしている。あの冷徹なアルたんが、夕食の手を止めるほどに。飯が上手かったなんて、在籍中には一度も言ってくれなかったくせに。いなくなって初めて、その価値に気付くなんて、ほんとにお前は不器用な奴だよ、アルたん。

 ──ざまぁ、してやりたいはずなのに。

 なんでちょっと嬉しいんだ、俺は。


「いいんじゃね」


 クルトがぼそりと呟いた。全員が振り向くと、クルトはスプーンで皿の底をつつきながら、


「気になるなら気になるでいいだろ。別に」


 素っ気ない口調だったが、クルトなりの肯定だったのかもしれない。

 アルたんは小さく「ああ」とだけ答えて、ようやくシチューを口に運んだ。一口めを飲み込んで、少しだけ表情が緩む。フィーネの料理の力は偉大だ。


「ははっ、エミールか。あいつもまた飯作りに来てくれねえかな。ははっ」


 カールが場の空気を読まずに言って、アルたんが微妙な顔になった。リーゼは「誰よ、エミールって」と小声で俺に聞いてきたが、「前にパーティーにいた人」とだけ答えておいた。それ以上は、言えない。


 ──ギルドからの使者が来たのは、その直後のことだった。

 赤い制服を着た若い男が、息を切らしながら食堂の扉を開け、緊張した面持ちで書類を差し出した。額に汗の粒が浮いていて、ここまで走ってきたのがわかる。


「勇者アルフレッド殿のパーティーに、ギルド直轄依頼が発行されました。至急のご確認をお願いいたします」


 ギルド直轄依頼──通常の掲示板に貼り出されるものとは違い、ギルドが直接指名してくる特別な依頼だ。難度が高く、信頼のおけるパーティーにしか回されない。

 さっきまでの感傷的な空気が一瞬で消えた。アルたんの目が勇者のそれに切り替わるのが、隣にいてもわかった。まるで刃を鞘から抜いたように、瞳に鋭さが宿る。


 アルたんが書類を受け取り、目を通した。眉が寄る。


「……失踪事件、か」


 書類を全員に見せた。


 ──依頼:行方不明者の捜索および救出

 ──難度:A

 ──内容:貴族マルクスフェルト家の令嬢クラウディア(十九歳)が三日前より行方不明。

      城衛兵およびギルド調査員による捜索の結果、手がかりが得られなかったため、

      上級パーティーへの依頼が決定された。

 ──報酬:金貨二百枚(成功報酬)+貴族家からの謝礼(応相談)


「A級……それに報酬が金貨二百枚。貴族が絡んでるから高額だな」


 アルたんが呟く。


「拙僧としては、人命がかかっておりますれば、報酬はさておき早急に動くべきかと」


 ゲオルクが真面目な顔で言った。こういう時だけは、この男の聖職者としての矜持が垣間見える。糸目が僅かに開いて、その奥に怒りとも哀しみともつかない感情が灯っていた。


「ははっ、殴れる敵がいるかはわからねえけど、人助けなら乗るぜ。ははっ」


 カールは相変わらず単純だ。けれど、その単純さに嘘がないから頼もしい。


「情報が少なすぎる。まず聞き込みだな」


 クルトが書類を一瞥して、冷静に言った。弓の弦を指先で弾く、あのいつもの仕草。


「受けよう。まずは現場の確認と聞き込みからだ」


 アルたんの判断で、パーティーは依頼を受諾した。


「エミ」


 解散した後、リーゼが小声で話しかけてきた。廊下の窓から差し込む月明かりが、リーゼの翡翠の瞳を暗い緑に変えている。


「なに?」

「失踪事件でしょ。女の子が攫われてるかもしれないってことでしょ」

「……たぶん、そうだね」

「あんた、気をつけてよ。あんたの顔は目立ちすぎるんだから」


 心配されている。リーゼの翡翠の目が、真剣な色をしていた。両手で杖を握りしめていて、指先の力の入り方が尋常ではない。


「大丈夫だよ。みんながいるし」

「みんながいても、あんたは一人で突っ走るタイプでしょ。遺跡の封印の時だってそうだった」


 図星だった。ぐうの音も出ない。


「……気をつけるよ」

「約束よ」


 リーゼが小指を差し出した。指切り。こういうところは年相応に可愛い。小指を絡めると、リーゼの指先がほんの少しだけ震えていた。指が細くて、冷たくて、けれどしっかりと俺の小指を掴んでいた。

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