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勇者パーティーから追放されたけど金髪巨乳にTSしたのでざまあしてやります  作者: かわうそ


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24.補い合える俺

 七日目。

 訓練の合間の休憩時間。草原に腰を下ろして、水筒の水を分け合って飲む。水筒を渡すとき、指先が触れた。もう驚かなくなった自分に、むしろ驚いている。


「あー、もう限界……」


 リーゼが大の字に倒れた。朝の訓練で俺の属性切り替え暴走を五回も抑え込んだのだ。消耗は俺以上だろう。ローブが草の上に広がって、栗色の髪が放射状に散らばっている。翡翠の瞳が空を映して薄い緑の鏡のようだった。


「ごめん、毎回暴走させて」

「だから謝んなって言ってんの!」


 起き上がって怒鳴ろうとして、起き上がる体力がなくてまた倒れた。草の上でばたりと腕を投げ出す姿が妙におかしくて笑ったら、リーゼに草を投げつけられた。


「笑うなぁ!」

「ごめんごめん」


 俺もリーゼの隣に倒れた。並んで仰向けに空を見上げる。朝の青空が広がっている。雲が一つだけ、のんびりと東に流れていた。羊の背中みたいな白い雲で、見ているうちにゆっくりと形を変えて、兎のようになり、やがて崩れて端から千切れていった。草の匂いが濃い。地面に寝転がると、土の冷たさが汗ばんだ背中に心地よかった。隣でリーゼの呼吸が聞こえる。並んで空を見上げる、たったそれだけのことが、妙に贅沢な時間に思えた。


「ねえ、リーゼ」

「なに」

「アルフレッドのこと、好きなんでしょ」


 唐突に聞いたのは、ずっと気になっていたからだ。リーゼがアルたんを見るときの目の色は、隠し通せるほど巧みではなかった。食事の時にアルたんが隣に座ると背筋がぴんと伸びるし、アルたんに褒められると一瞬だけ目が輝いてから、慌てて鼻で笑ってみせる。そういう仕草を何日も見ていれば、気付かないほうがおかしい。


「……は? な、なに言って──」

「嘘つかなくていいよ。見てたらわかる」


 リーゼはしばらく黙っていた。草の上で、手をぎゅっと握っているのが横目に見えた。白い指の関節が更に白くなって、指先だけが赤い。


「……好き、とか、そういう言い方にするのやめてくんない?」

「じゃあ、気になる?」

「…………対象外ではない、とだけ言っておくわ」


 最大限の遠回しだった。笑いを堪えるのに必死だ。


「で、あんたはどうなのよ。アルフレッドのこと」


 逆に聞き返された。不意打ちだ。


「えっ、俺──じゃなくて、わたし?」

「今、俺って言いかけたでしょ」

「言ってない言ってない」

「言ったわよ」


 危なかった。リーゼは耳がいい。魔力パスの訓練で互いの魔力の揺らぎまで感知し合っているせいか、最近のリーゼは俺の微妙な言い淀みすら拾うようになっている。


「アルフレッドのことは……幼なじみ、みたいなものだから」

「幼なじみ? でも、会ったのはつい最近じゃないの?」

「あっ、いや、その……なんかそういう空気の人、っていうか……」


 墓穴を掘りまくっている。リーゼが怪訝な顔をしている。栗色の眉がきゅっと寄って、翡翠の瞳が「この人なにか隠してるわね」と雄弁に語っている。


「あんた、ほんと謎が多いわよね」

「ごめん」

「だから謝んな。……まぁいいわ」


 リーゼが寝返りを打って、横を向いた。こちらに背を向ける形で。草の上で丸くなった小さな背中が、妙に守りたくなるような華奢さだった。


「もし付き合ったら──仮の話よ、仮!──報告しなさいよ。ライバルだから。あたしに黙って抜け駆けしたら、許さないから」


 その声は少しだけ震えていた。虚勢と本音が入り混じった、十八歳の少女の声だった。


「……うん、約束する。でも、わたしもリーゼのことライバルだと思ってるよ。正々堂々」


 なんの勝負をしているのかよくわからないけれど、リーゼが安心したように「ふん」と鼻を鳴らしたので、きっとこれでいいのだろう。


「ねえ、リーゼ」

「今日多くない? なにをそんなに」

「友達になろうよ。わたしたち」


 リーゼが振り返った。翡翠の瞳が大きく見開かれている。朝の光を受けて、瞳の中に金のまだら模様が浮かんでいるのが見えた。


「……友達?」

「うん。ライバルも先生も仲間もいいけどさ、まず友達。わたし、同い年くらいの女の子の友達って、いたことないんだ」


 嘘じゃない。エミールの頃、女友達なんて一人もいなかった。男友達もアルたんくらいしかいなかったけど。パーティーの仲間は「仲間」であって「友達」とは違う。友達ってのはもっと──こうして草の上に並んで寝転がって、しょうもないことを話して笑い合える、そういう関係のことだ。


「…………」


 リーゼは長い沈黙の後、起き上がって俺の隣に座り直した。草の葉を指で弄りながら、しばらく何かを考え込んでいる。


「あんたさ、そういうの恥ずかしげもなく言えるの、ほんとに男の人みたいね」

「だから男じゃ──」

「はいはい。友達ね。いいわよ」


 リーゼが手を差し出した。俺はその手を握り返した。汗ばんだ小さな手だった。訓練で何度も触れ合っているのに、こうして改めて手を繋ぐと、なんだかくすぐったい。魔力パスとは無関係の、ただの体温の交換。指と指のあいだに汗が滲んで、それが恥ずかしくて、でも離したくなくて。


「よろしくね、リーゼ」

「……よろしく。エミ」


 リーゼが、かすかに──けれど確かに、笑った。口角がほんの少しだけ上がって、翡翠の瞳が三日月みたいに細くなった。今までで一番きれいな笑顔だった。


 帰り道、並んで歩きながら、リーゼがぽつぽつと自分のことを話してくれた。

 学院時代は成績は良かったが友人は少なかったこと。実力を認められるたびに同級生との距離が開いたこと。「あの子はレベルが違うから」と遠巻きにされて、気付けば一人で図書館にいる日が増えたこと。卒業後、魔術師として身を立てるために勇者パーティーへの加入を目指したが、なかなか受け入れてもらえなかったこと。「女の魔法使いはいらない」と言われたこともあったこと。アルフレッドのパーティーに声をかけてもらえた時は、本当に嬉しかったこと。


「だから、あんたが現れた時は正直──焦ったの。あたしの場所を取られるって」

「今は?」

「……今は、違う。場所は取られるものじゃなくて、作るものだって、あんたが教えてくれたから」


 リーゼが空を見上げた。翡翠の瞳に朝日が映って、宝石みたいに輝いている。朝焼けの名残が空の低いところにまだ残っていて、薄い橙色と青のあいだを鳥が二羽、連れ立って飛んでいった。


「あんたの魔力はあたしとは比べものにならなくらい強大だけど、あたしあんたができない魔術の制御技術を知っている。補い合える。それって、一人じゃ絶対にできないことじゃない」

「リーゼ……」

「だから──あんたがいなくなったら、困る。友達としても、パートナーとしても」


 パートナー。その言葉に込められた意味が、友情なのか、それとも──。

 聞き返す前に、リーゼは足を速めて先に歩いていってしまった。耳が赤かった。朝日に照らされた耳朶が熟れた林檎のように赤くて、それを隠すように栗色の髪を指で掻き下ろしているのが見えた。

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