第96話
それからフユトさんにこれまでの状況を説明する。
「そんなことが?」
「はい。今この時間が本当の時間なのかどうかは分かりませんが、フユトさんと同じ記憶があれば私は何も怖くありません。」
「篝さん……。」
フユトさんもこれまでの出来事を説明してくれた。
「フユトさんが迎えに来ると言ったのに、私のほうが先に迎えに来てしまいましたね。」
「そうだね。ごめんね。」
「謝らないでください。」
「今回は翁さんに助けられた感じだね。」
「はい。お爺様には感謝しても足りないくらいです。」
「今度お礼に行かないとね。」
「……多分お礼には行けないと思います。」
「まだ翁さんがどうなるかは分からないよ。」
「と、ところで篝さん。」
「なんですか?」
「その……ずっと抱き付かれてると、すごい、その恥ずかしいんだけど。」
「嫌ですか?」
「嫌じゃないけど、そのいろいろと恥ずかしいよ。」
「ダメ。まだダメ。」
フユトさんの顔が真っ赤になる。ちょっと意地悪しすぎたかな?
「篝ちゃん!!!」
ノックも無しに急に病室のドアが開く。
私は驚いてそのまま固まってしまう。
「……篝ちゃん。」
「え?め、廻?」
廻がこの時間に存在する。確かに居る。
「……お熱いわね。」
廻があきれた顔をする。
私は慌ててフユトさんから離れる。
「こ、これはその、再会が嬉しくて、つい!」
「はいはい。」
「……一線、超えちゃった?」
「超えてないわよ!!!!」
私は即答で廻にツッコミを入れる。
「それよりも!篝ちゃんが無事でよかった!」
廻が抱き付いてくる。
でも、私はここで強烈な違和感を感じる。
廻が……本当の時間に居るのはおかしい。
今私に抱き付いているのは誰なのだろう?
「篝ちゃん?」
「あなたは誰?」
「え?何言ってるのよ!廻よ?」
「廻はもうこの世界に居ないはず。なんであなたはここにいるの?」
「篝さん?」
フユトさんも不思議そうだ。
「篝ちゃん?どうしちゃったのよ?」
心配そうに私を見る廻。
私は自分の右手を見る。
指輪は確かにある。
また願う事はできるだろうか?
お爺様に自分の信じる道を進むように教えられた。
だから、私は自分を信じようと思う。
もう一度自分に言い聞かせるように言い放つ。
「廻、あなたはこの世界にもう居ないはずよ。」
「ふふっ。」
すると不敵な笑みを浮かべる廻。
「あははは。鋭いですね。さすがですね篝お嬢様。」
廻が自分の手で顔を覆い隠す。
そして、再びその手を離した時、違う人物の顔になっていた。
「やっぱりあなただったんですね。」
私はこの人をよく知っている。
「フランチェスカ……。」
「……どうしてあなたの記憶は消したはず。」
私はフランチェスカと対峙する。
フユトさんは私が守る。
フユトさんに何もされないように、フユトさんの前に立ちフランチェスカからは見えないようにする。
「愛する人を守る……ですか。」
「!」
心が読める?
「そうです。私は心の声に耳を澄ますことができます。」
「……。」
「何が目的ですか?」
すると、フランチェスカの態度が一変する。
「目的?あなたはそんなことを知ってどうするつもりなの?」
私は願う。
フランチェスカに消された記憶を戻して。
そう強く願おうとした瞬間、フランチェスカが私の口を掴むように塞ぐ。
「おっと、困るわね。そういうのは。」
「!!」
瞬間、あたりが真っ暗になり私とフランチェスカしか見えなくなる。
手を離したフランチェスカは再び私と距離をとる。
「何をしたんですか?」
「私とあなただけの空間にしたの。邪魔者はいらないわ。」
「……フランチェスカ。あなたは昔、お母様と一緒にお父様を助けてくれた人ではないのですか?」
「……それは遠い昔の話よ。」
「では、今のあなたは一体何者なんですか?」
「私は私よ?篝お嬢様。」
「フランチェスカ……あなたが人ならざる者なのですね?」
「……。」
何も答えない。
「その指輪。なぜあなたが持っているの?」
フランチェスカが哀愁を漂わせる。
「これは私の愛する人から頂いたものです。」
「……翁か。」
「!」
「何も隠さなくていいわ。その指輪は翁が青年だった頃、私の親友が翁に渡したものなのよ。」
「え?」
「私の親友は翁に恋をしていた。創造主が人間に恋をするなんて許されることじゃなかった。」
「でも、親友は気持ちを抑えることができなかった。それくらい翁を愛していたの。」
「……。」
「その指輪は創造主の力の一部を封印した指輪。願いを叶える力を持っているわ。」
「そうです。お爺様も願いをかなえるものだと言っていました。」
「翁は、親友の気持ちを知っていながら別の女性を選んだ。」
「もちろん、人間が人間に恋をするのは当然の事で、私たちが干渉することではないわ。」
「それがお婆様?」
「そうよ。そして花音が生まれ、あなたが生まれた。」
「親友は愛する気持ちを抑えることがそれでもできず、存在そのものが消えてしまった。」
「意味……分かるわよね?」
冷たい瞳が私をとらえる。
きっと、自害したんだと思う。
「そうよ、その通りよ。」
心を読み取ったフランチェスカが悔しそうにささやく。
「それでフランチェスカは私に何をするつもりなんですか?」
「私はあの子の苦しみをあなたに与えたい。」
「……。」
「その気持ちが強すぎて、私は今こんな悪に染まった人ならざる者になってしまった。」
フランチェスカ。
親友思いの優しい人が、思う故に堕ちた存在になった。
「フランチェスカ。」
私は意を決して自分の信じる道を進もうと思う。
いかなる理由があっても、私は大切な人を失うわけにはいかない。
「私が、あなたを苦しみから解放してあげます。」
私は目を閉じる。
私は、フユトさんと共に人生を歩む。
もう離れ離れになりたくない。




