第95話
私は少しためらっていた。
何かを失うような不安に大きく襲われる。
「篝、受け取りなさい。」
優しくささやくお爺様。
「自分の信念を貫きなさい。将来、篝は水無月を背負う者。信じた道を突き進む勇気を出しなさい。」
「お爺様……。」
私は意を決して受け取る。
「はめてみなさい。」
私はお爺様がはめていた場所と同じ右手の人差し指に指輪をはめる。
すると、お爺様が急によろめく。
「お爺様!?」
私はとっさに支える。
「よくやったの、篝。」
「お爺様!?まさか……。」
「どうやら、指輪を手放すと一気に弱るようじゃ。」
「本当は知っていたのですね!?」
「いいや。そんな予感はしておったが確信はなかった。じゃが、こうなるとは思っていたよ。」
「どうして!?」
お爺様は私の右手を掴む。
「いかん!わしを助けてはならん!」
「でも!」
「その指輪は、早坂君の為に使いなさい。何度願いを叶えられるか分からん。こんな老いぼれの為に使うでない。」
「できません!」
「篝、わしはお前には幸せになってほしいんじゃ。お前の幸せはわしの喜びなんじゃ。だから、わしの為に力を使うでない。」
私は涙が流れる。
さっきの不安は、無意識にこれを覚悟していたのだろうか?
「お爺様……ごめんなさい。ごめんなさい。」
「わしは昔からずっと篝に教えておるだろう?何か大きなものを手に入れるということは、同時に何かも失うことがあると。」
「はい。」
「わしは篝に未来を託した。愛する人と、幸せになりなさい。わしが二人の仲を保証しよう。」
「お爺様!」
「わしの部屋に篝と早坂君の将来に関する遺言書がある。わしも今日で終わりではないかと思っておったのでな。」
「そんな!」
「わしはきっとこの指輪に生かされておったのだ。だから今、急激に死に近づいているのじゃろう。人の命は有限で決まっておる。その時を伸ばしてきたのはわし自身。後悔はない。」
お爺様は私を強く抱きしめる。
「篝……幸せになりなさい。」
「お爺様……。こんな孫でごめんなさい。」
「篝は最高の孫じゃよ。わしの自慢の孫じゃ。」
「篝、最期にお願いがある。」
「なんですか?」
「小さい頃のように、わしと接してくれぬか?」
「!」
「……ありがとうおじいちゃん。本当にありがとう。」
「うむ。わしはもう未練はない。婆さんに会いにいくとしようかの。」
「ダメよ!まだダメ!私とフユトさんが一緒になるところを見届けてよ!」
「……そうしたいところじゃが、その役目は秋伸君や花音に託すとしよう。」
「そんな!」
「篝、自分の信じた道を進みなさい。お前は一人じゃない。きっと大丈夫じゃ。」
「おじいちゃん……。」
「か……がり、あ……いしている。」
「おじいちゃん!私も!私もおじいちゃんを愛してる!大好き!!」
「ほほ……、うれしい……の。」
それきり、お爺様は目を開けることはなかった。
「お爺様……。」
私は強く抱きしめる。
私は指輪を見つめ、願う。
もう一度、フユトさんに会いたい。本当の時間を私に与えてください。
強く願った瞬間、指輪から大きな光を放つ。
「え!?」
ものすごく眩しい光が遅い、思わず目を閉じる。
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目を開ける。
「え?」
見知らぬ病室の前に居た。
誰の病室だろう?
小さな蛍のような光が、ドアをすり抜けて中に入っていく。
まるで私を導いているように。
私は意を決してドアをノックする。
「どうぞ?」
「!?」
この声。
忘れるはずがない。この声は。
私はドアをゆっくりと開ける。
「か、篝さん!?」
「え!?篝!?」
フユトさんとお母様が病室に居た。
「え!?篝さん、行方不明になったんじゃ!?」
私は耐えきれずフユトさんに抱き付く。
「フユトさん!フユトさん!!!」
涙が止まらない。私はずっとフユトさんの名前を繰り返す。
あの時と同じ温もり。
お母様は何かを察したかのように病室を出て行く。
「ようやく会えました!!短いようでとても長かったんです!フユトさん!!」
「篝さん……無事でよかった。」
「お怪我はどうですか?」
「平気だよ。」
「フユトさん。」
「いろいろと状況がよく分からないけど、篝さんは一体どうしてたの?」
「いろいろあったんですよ。」
涙が止まらず、長く話せない。
「フユトさん、大好き。」
私はフユトさんに口づけをする。
一瞬驚くような目をしたフユトさんだったけど、すぐに受け入れてくれた。
ゆっくりと離れる。
「フユトさん……。」
「篝さん……その…おかえり。」
「ただいま……戻りました。」
この時間が本当の時間なのかまだ分からない。
でも、フユトさんと再会できた。
この奇跡に感謝したい。
そして、お爺様にも。
本当にありがとう。
お爺様……どうか、お婆様と第3の人生を天国で歩んでください。
ありがとう。




