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第94話

夜。


ふと目が覚めてしまい、時計を見ると深夜1時半を指していた。


不思議と完全に覚醒してしまい、再び眠れそうにない。


「……どうしよう。」


しばらくの間、学園は休学することになった。事件が明るみに出て、落ち着くまではお屋敷から出ないようにとお父様に告げられた。


窓からは月明り。私は中庭のお花を見に行くことにする。



間接照明に包まれた廊下を歩く。



「お譲様。」



「ふぇっ!?」


不意に背後から声をかけられ、間抜けな声が出てしまう。


「驚かせて申し訳ありません。どちらへ行かれる途中でしょうか?」


護衛役の見回りと同じタイミングになったようだ。


「あ、いえ、ごめんなさい。ちょっと中庭にお花を見に行こうかと思いまして。」


「もう夜も更けております。お戻りになられたほうがよろしいかと思いますが?」


「いえ、眠れそうにないのです。」


「そうですか。では、お供します。」


「いえ、平気です。何かあれば緊急コールをしますのでいつも通り職務を続けてください。」


「ですが。」


「……続けてください。」


「は、はい。では、お譲様、お気をつけて。」


「ありがとうございます。」



護衛役の人と別れ、中庭に着く。



「お爺様?」


いつもの椅子にお爺様が座っていた。


「おやかがり?こんな夜更けに夜遊びかの?」


「いえ、眠れないのでお花でも拝見しようと思いまして。」


「そうかそうか。」


「怒らないのですか?」


「婆さんも、眠れないと言ってはわしと一緒にこういう時間に一緒に花を眺めたものじゃ。」


「そうでしたか。」


「篝、座りなさい。」


お婆様の椅子を指さす。


「はい。」


今回は素直に椅子に座る。


「月明かりに輝く花も綺麗じゃろ?」


「はい。とても神秘的です。魔法の国にでもいる気分です。」


「魔法の国のう。」


「ごめんなさい。子供みたいな事を言ってしまいました。」


「いいんじゃよ。しかし、篝も今、魔法の国とはそう変わらん状況にあると思うがの?」


「どういう意味ですか?」


「愛する人との離別。早坂はやさか君じゃよ。」


「……。」


「篝。よく聞きなさい。」


「はい。」


「わしは、早坂君と篝の時間を共有できておる。なぜできておるのかは分からん。じゃが、共有できているからこそ思うんじゃよ。」


「わしは、すでに人ならざる者になっているのではないかと。」


「え?」


「この世界の篝は別の時間から来た篝なのじゃろ?」


「……はい。そうなります。」


「では、なぜこの時間の篝はおらんのじゃ?」


「それは私も疑問に思っていました。」


「でも、早坂君はどうじゃろう?この時間では眠り続け、別の時間ではいつもの日常を送っておる。」


「!」


「篝はどこへ行ってしまったんじゃろう?」


「確かに……そうなりますね。」


「さっきわしは自分で人ならざる者になったのではなかと言ったが……。」


「もしかしたら、篝が人ならざる者になっている可能性もある。」


「え?」


「篝は人ならざる者に会ったことはあるかの?」



私は過去を振り返る。


でも、心当たりがない。


「篝は、何か大事な事を忘れておるな。いや、忘れているというよりも消されておるな?」


「消されている……ですか?」


「ああ。わしは人ならざる者に会ったことがある。だから分かるんじゃよ。」


「篝はどういうタイミングで、この時間に戻って来たんじゃ?分かるか?」


「……確か。」


思い出す。あの入学式の日に戻った時の事を。


「あ。」


「どうじゃ?」


「確か、お腹を刺された気がして、気付いたら傷もなにもありませんでした。」


「誰にやられた?」


「え?」


思い出せない。


「篝、きっとそやつが人ならざる者じゃ。」


「でも、思い出せません。」


「篝。」


お爺様は立ち上がる。


私も立ち上がろうとしたけど、お爺様はそれを制止した。


「篝、早坂君に会いたいか?」


「……お爺様?」


「篝!」


さっきより大きな声で私の名前を呼ぶ。お爺様は真剣な顔をしていた。


「会いたいか?篝。」


「……はい。」


「その気持ちは何があっても変わらぬな?」


「……はい。」


「わしは早坂君にも、元の時間に戻る為にはどうすればよいのか相談にはのると約束しておる。」


「!」


「わしは思ったんじゃよ。」


「わしが二人の時間を共有できるということは、もしかしたらわしの中に何か不思議な力が宿っているのではないかと。」


「じゃから、この力を篝に託そう。」


「私に?」



「ああ。」


「でもどうやって?」


「この指輪を篝に託す。」


砂時計の形をした不思議な指輪だった。


「これはわしが過去に人ならざる者からプレゼントされたものじゃ。」


「実はな。この指輪に願うと、わしはいつでも婆さんに会えたんじゃよ。」


「そんな!」


「だから今でもここに椅子がふたつある。ついさっき篝が来る前も婆さんと会話をしとったんじゃよ。」


「そこで婆さんに言われたよ。その指輪を篝に託せば、篝の願いは叶うんじゃないか……とな。」


「……。」


「受け取る覚悟はあるか?篝。」


「……。」


「篝。」


お爺様は優しく私の名前を呼ぶ。少し哀愁のあるニュアンスだったのは気のせいだろうか?


でも、私の願いは一つだけ。


「私はユフトさんに会いたいです。」


「……そうか。では、もう何も言うまい。」


お爺様は指から指輪を外す。


「篝。受け取りなさい。」


私の前に差し出す。


なぜだろう?


私はこれを受け取ると何かを失ってしまうような、そんな感覚に陥っていた。

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