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第90話

「フユトさんが、私の名前を確かに呼んだの。」


「でも、早坂はやさかかがりちゃんと面識が無いんじゃないの?」


「もしかしたら、私と記憶を共有してるのかもしれない。」


「……そんなこと…あり得るの?」


めぐりは困惑していた。


しばらくフユトさんを眺めていたけど、結局言葉を発することはなかった。


「篝ちゃん、そろそろ時間よ。」


「ええ。」


二人で病室を後にする。


「あれ?」


「え?」


廊下に出た瞬間、見覚えのある人物と会う。


「篝ちゃんじゃん。どうしたのこんなところで?」


「……あなたは確か、浜口はまぐちさん。」


以前にクラスルームで揉めた件を思い出す。でもそれは前の時間での出来事。


それでも、少し警戒してしまう。


「名前を覚えてもらえてて光栄だよ。」


「……いえ、そんな大したことありませんよ。」


「それより、浜口さんはどうしてここに?」


「あれ?知らなかった?俺、ここの院長の息子だよ。」


「え?」


「つまり俺は君と対等に付き合える身分ってことなんだよ。」


誇らしげに笑みを浮かべる。


「……そうですか。」


私は正直こういう話はもううんざりしていた。


「それより、この病室の奴と知り合いなの?」


「……それは。」


すると廻が前に出る。


「お譲様のプライベートに詮索するのはあまり関心いたしません。」


「へぇ、君がガードの固い事で有名な従事さんっていうわけね。」


「そいつ、そんなに大事な奴なの?」


「……浜口さんには関係ありません。」


「そんな事言っていいの?篝ちゃん?」


「どういうことですか?」


「とりあえずさ、その従事をどこかにやってよ。俺は二人きりで話がしたいんだけどな。」


すると、浜口さんは私の耳元で廻に聞こえないような声で囁く。


「こんな一般人、正直どうなろうがこの病院ではどうにでもなるんだぞ?」


「!!」


「お譲様に不用意に近づかないでください!」


廻が制止に入る。


「あー、ごめんごめん。ちょっとアドバイスがしたくてさ。」


「無礼極まりないですね。」


廻は私の前に立ち、間に入ったまま動かない。


「篝ちゃん、その従事、どかしてくれるよね?さっき言ったことの意味、君なら分かるだろ?」


「……っ。」


ここは従うしかない。つまり、フユトさんをどうにでもできるという意味だ。


もしここで、生命維持装置に何かされたら私は一生後悔するだろう。


「廻、席を外しなさい。」


「お譲様!?」


「聞こえなかったの?席を外しなさい。」


「ですが!」


「……何度も言わせないで。」


「……分かりました。」


「さ、篝ちゃん、こっちこっち。」


のんきに手招きする浜口さんのあとをついて行く。


「廻、この病室の前に居て。何かおかしいことがあったらフユトさんを助けてあげて。」


「どういうことなの?」


「それじゃ。」


私は浜口さんに聞こえないように廻にお願いする。


廻は賢いから、きっと今の一言で事態を察してくれると思う。




■■■■■■




しばらく歩き、「個人面談室」と書かれた部屋に案内される。


「どうぞ。」


開かれたドアの前で、私を先導する。


「失礼します。」


あとに続いて浜口さんが入ってくる。そして、部屋に鍵をかける音が響く。


「鍵までかけて、どういうつもりですか?」


「え?邪魔が入らないように鍵が付いてるんだよ?別にいいだろう?」


「……そうですか。」


「それじゃ、こっちに座って。」


上座の椅子を引く浜口さん。


下座に浜口さんが座ったことによって、私は完全に逃げ場を失った。


「……それで、お話しってなんですか?」


「そんな急がないでよ。」


「あまり時間がありません。」


「そんなに忙しいなら別に帰ってもいいけど、あいつはどうなるだろうね?」


「っ!」


明らかに私を脅している。


「……帰っちゃう?」


「……いえ。まだ平気です。」


「それじゃ篝ちゃん、あいつとはどういう関係なの?あいつ一般人だよね?」


「あなたには関係ありません。」


「へぇ。」


私は浜口さんの目をまっすぐ見る。


何か気に入らなそうな顔をしていた。


「じゃああいつに聞くしかないね。」


「フユトさんは……意識が戻っていないのは知っているでしょう?」


「フユトって言うんだね。そいつ。」


「……。」


「あいつって結構入院してるよね?このまま目覚めなかったらもう死亡判定でもいいと俺は思うんだよね。」


「ふざけないでください!あなたはお医者様の息子さんでしょう!?医療関係者の発言にしては不謹慎です!」


私の心は怒りで支配される。


「そんなにあいつが大事なんだ?」


「そういうことではなく、命は平等であるべきです。偉いからとか一般だからと言って粗末にしていい事なんてありません。」


私はここである事を思い付く。


「浜口さん。今の発言は問題になりますよ。覚悟することです。」


「へぇ。俺を脅すんだ?」


「……浜口さんだって私を脅しているでしょう?」


「やられたらやりかえす理論?面白いね、篝ちゃん。」


すると浜口さんが私に近づいてくる。


そして胸ぐらを掴まれる。


「ぐっ!」


「自分の立場が分かってないようだから教えてやるよ。あいつの命は俺が握ってるようなもんなんだぞ?おい!」


「どういう……意味ですか?」


「普段穏やかで有名なお嬢様がこんなに怒りを露わに叫ぶんだ。ただの知り合い程度の関係じゃないのはバレバレなんだよ。」


「……。」


「何が目的ですか?」


「俺の女になれよ。」


「え?」


浜口さんは私から手を離し、乱れた襟元を整える。私は何も抵抗しないでそのままなすがままでいた。


「俺の女になれよ。そうすればあいつは今のままでいさせてやる。」


「……。」


「返事は?」


「まさかここで「いいえ」なんていう選択肢を選ばないよな?」


「……。」


どうすればいい?


フユトさん。


私はどうすればいいですか?私はあなたを守りたい。


前に私を助けてくれたフユトさんのように、今度は私が浜口さんからフユトさんを守りたい。


「はぁ。」


浜口さんは溜息を吐きながら、スマートフォンを取り出す。


「何をするつもりですか?」


どこかに電話をかけようとしている。


「え?あいつの酸素マスク、そろそろ外していいんじゃないかなって相談をしようかと思って。」


「…卑怯者。」


「なんとでも言えよ。俺は欲しいものは全力で手に入れる性格なんだよ。」


「さ、返事は?」


「考える時間はいただけないのですか?」


「何を考えるんだよ?」


「……。」


私は窮地に追い込まれていた。

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