第81話
「疲れたぁぁぁぁぁ。」
私の部屋に一緒に入って来た廻は、お気に入りのモフモフクッションに抱き付く。
「廻、それほんとに好きだね。」
「これ、モフモフでいいのよ。」
寝そべる廻。
「制服、シワになっちゃうよ?」
「いいよー、別にー。」
「ダメよ!ちゃんと着替えて!」
「じゃあさ、着替えさせてよ。」
私の部屋だとものすごく怠け者になる廻。
「もう、知らないわよ。」
私は制服の上着を脱ぎ、部屋着へと着替える。
「か、篝ちゃん!?」
「わ!びっくりしたー。何よ?」
急に叫ぶ廻。
「何、その可愛い下着!」
「え?いや、いつものやつだと思うけど?」
「フユト仕様か……。」
フユト仕様って何よ。
あえてツッコまない。
「はぁ。」
「こらこら、人と話している時は溜息やめなさいよ。」
「はいはい。」
「篝ちゃん。」
「ん?」
「翁様と何を話していたの?」
「廻も隣で聞いてたでしょ?」
「そういう意味じゃなくて、翁様って何か別の篝ちゃんを知ってるみたいだったけど?」
「……廻だから話すけどさ。」
「お爺様は、時間が戻る前の私を知ってる。」
「それはどういうこと?」
「フユトさんと交際している事を知っている。それは未来での出来事だから現在の時間で知ってるのはおかしい。だから、お爺様は私と同じ時間を生きているっていうことになるの。」
「……翁様も未来を知っているって言うの?」
「ええ。」
フユトさんとの関係を知る唯一の人。
「そういえば、花音様も違う時間を行き来してたっていう感じの話だったわね?」
「そうね。お母様も私みたいに何かしらの方法で時間を移動していた可能性がある。」
「あまり現実味がなくて、私には信じられないわ。」
「廻、それは今の私を否定する事になるわよ。」
「あ、ごめん。そういうつもりで言ったわけじゃないけど、非現実な出来事があると頭で理解できないというかなんというか。」
「それは、私も同じよ。」
水無月家は代々、人ならざる者、つまり創造主と少なからず関係を持っている。
お爺様は、過去の水無月家と創造主の話をどこまで知っているんだろう?
「篝ちゃん。いっそ、翁様にすべてを聞けば何かしら道が見えるんじゃないの?」
「私も今同じ事を考えたけど、多分答えは聞けないと思う。」
「どうして?」
「お爺様は昔から、助言はしてくれるけど明確な道までは言わない。つまり、選択は結局自分自身で出すしかないってことなのよ。」
「そう。」
制服を脱いだ時に乱れた髪を整える。
「あとさ、気になってることがあるんだけど。」
「何?」
「私の事、廻って急に呼び始めたのは何で?」
「え?それは……その。」
確かに、私はあの出来事が起きるまで「相坂ちゃん」って呼んでいた。
「ナイショ。」
ここはちょっと辛い出来事だから誤魔化しておく。
「まー、いいけどね。」
クッションを抱きしめてゴロゴロする廻。
「もう、本当にシワになっちゃうわよ?」
「うるさいわねー。脱げばいいんでしょー、脱げばー。」
そういうと面倒くさそうに制服の上着を脱ぐ廻。
「廻の方が、スタイルいいなぁ。」
「女の子はプロポーションじゃなくて内面が大事よ。」
「それは分かるけどさ、ちょっとくらいスタイルは気にするわよ。」
私は自分の胸と廻の胸を比べる。
「廻のほうが大きい。」
「篝ちゃん……辛くなるからそういうの、やめたほうがいいよ?」
「そうする……。」
いつか私だって、素敵なプロポーションを手に入れてみせる。
「女の子の平均だけど、18歳くらいまでには成長は終わるそうよ?」
冗談めいた廻は私を慰めようとしているのだろうか?
「う、うるさいわよ。」
「よしよし。」
「う、うるさいってば!」
「で?廻はいつ着替えに戻るの?」
「それもそうね。それじゃ、食堂でまた。」
「うん。」
廻は脱いだばかりの制服を再び身に着け、キレイに整えて部屋を出て行った。
「またクッションが消えてる……。」
それはさておき。
お爺様が私と同じ時間を知っているという事実が分かってから、私にはひとつの希望が見えてきていた。
お爺様だけは、本当の私を知っている。
廻にもさっき言われたけど、もし本当に何かあればお爺様に直接相談に行くことが出来そうだ。
私はお母様からもらった電話番号をスマートフォンに登録する。
【フユトさん(仮)】
発信履歴に残る電話番号。
なぜあの時交換したフユトさんの電話番号が私のスマートフォンに残っていないのか?
謎はまだまだ多い。
そして、私自身の事。
過去の時間に戻って来たのなら、その時間を生きるもう一人の私がいないとおかしい。
でも、この時間には私という存在は私しかいない。
それに、過去と同じような出来事が無い。
「ああ!分からない!」
考えれば考えるほど、どんどん謎が深まっていく。
「……シャワー浴びよう。」
簡易的だけど自室にシャワールームがある。
とりあえず私はそこで頭を冷やすことにした。




