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第79話

放課後。


モトキさんが私の事を一瞬だけ見て、クラスルームを出て行く。


少し時間を置いて私たちも園門の前まで移動する。


今日は事前に迎えの車を呼んでいたので園門前には車が停まっていた。


「モトキさんもどうぞ。」


「う、うん。俺、こういう車に乗るの初めてだから緊張するな。」


要人用の黒いセダン。護衛がすべてドアを開け閉めしてくれる。


後部座席は向かい合って座ることができて、センターテーブルもある。


「やっぱりお譲様の送迎車ってかなり違うな。」


きょろきょろと周りを見渡すモトキさん。


「そうですか?」


「俺がこういう車に乗れる日なんて絶対来ないからな。」


「そんなことありませんよ。」


他愛ない話をしながら、15分くらい移動して目的地へ到着する。


「ここですか?」


「ああ。」


車から降り、病院のエントランスへ向かう。


「お譲様。」


すると護衛に止められる。


「なんですか?」


「この来院の事は、秋伸あきのぶ様からお話しを伺っていないのですが?」


「私の独断です。」


「よろしいのですか?」


「その件については私が責任を持ってお供します。」


廻がフォローに入る。


「この来院は私にとって大変重要なものです。早く下がりなさい。」


「……かしこまりました。」


護衛が素直に引き下がる。


「行きましょう。」




■■■■■■■■■





「ここだよ。」


モトキさんに案内され、病室の前まできた。


鼓動が高まっていくのが分かる。


ようやく……会える。


私はノックする。


手が少し震えている。



反応はない。



かがりちゃん、そのまま入っていいよ。」


モトキさんが扉を開けてくれた。


「失礼します。」


延命装置の機械音が響く。


「……フユトさん?」


ベッドに酸素マスクを付けたまま眠るフユトさんと再会する。


「フユトさん!!」


私は枕元へ歩み寄り、点滴が打たれている手を握る。


「フユトさん……フユトさん。」


涙が出てくる。


確かにフユトさんだった。


何一つ変わらない。


あの時のフユトさんだ。


「フユトさん、篝です。聞こえませんか?」


問いかけても返事はない。


「ようやく……会えました。ようやく。」


後ろで扉の閉まる音が聞こえ、振り返ると廻とモトキさんが退室していた。


私に気を使ってくれたらしい。


「……フユトさん。」


私はフユトさんの頬に触れる。


「フユトさん、篝は……篝はここにいます。早く目覚めてください。」


「フユトさんも未来からここにやってきたのですか?」


「私もあの時間からなぜかこの時間に戻ってきました。早く、目覚めてください。」


声が聞きたい。


「フユトさん……。」


私は話したいことがたくさんありすぎて言葉が出てこなかった。


名前ばかり呼んでしまう。


ベッドの患者名のプレートを見る。



早坂冬登はやさかふゆと



私はその愛しい人の名前を指でなぞる。


「早くあなたの声が聞きたいです。」


「また他愛ない話をしましょう?また笑いあいましょう?」


……。



…。





それから30分程して、私は病室を後にする。


エントランスには院長先生が焦った様子で私の前に駆け寄って来た。


「これは水無月みなづきお嬢様!ご挨拶が遅れ、大変申し訳ありません!!」


院長とその病院の役員らしき人たちが早々に訪れる。


周りの患者さんたちが驚いてこちらを注目してしまっていて目立つ。


「院長先生。ここでは目立ちますのであまり騒ぎにしないでください。」


「申し訳ありません!よろしければ応接室までご足労いただけませんか?」


「ありがとうございます。ですが本日はお見舞いで来ただけですのでこれで失礼します。」


「そう言われましてもこちらとしては何のおもてなしもしておりませんので心苦しいです。」


「どうかお構いなく。今後もお見舞いに伺うかもしれませんがその時はよろしくお願いいたします。」


「どんでもない!どうぞお気軽に我々にお声がけください!」


モトキさんがこのやり取りに驚きを隠せないでいた。


「では私はそろそろ時間ですのでこれで失礼したいと思います。」


「はい。水無月お嬢様。お気をつけて。」


院長先生と役員の人たちが深く一礼する。


私もそれにならい一礼して病院を出る。


「篝ちゃん……すごいお嬢様なんだよな。」


「私の力でなったわけではありませんよ。」


「いやー、すごすぎて俺、ついていけないわ。」


「モトキさん、今日はありがとうございました。本当にありがとうございます。」


「よしてよ!フユトに会ってくれてその……ありがとな。」


「はい。」


「お家までお送りしましょうか?」


「いや!遠慮しておくよ!これで家の前に行ったら大騒ぎになりそうだから!」


「そうですか。それではまた明日、学園で。」


「うん。またね。相坂あいさかも!」


「またね、相馬そうま。」


廻もモトキさんに手を振る。


私たちは車に乗り込む。


「篝ちゃん。」


廻が真剣な顔で私を見る。


「……分かってるわ。お父様には報告するわ。」


「分かってるならいいけど、今日の行動は問題になるわ。」


「それは覚悟してる。すべての責任は私が負う。」


「篝ちゃん。それは違うわ。」


「え?」


「今回の件は、私も責任を負うわ。言ったでしょ。二人で行動するって。」


「……廻。」


「ま、問題は軽くないけど、覚悟を決めて一緒に怒られるとしましょうか?」


「……そうね。ありがとう廻。」


「いえいえ。愛する早坂に会えてよかったわね。」


「ちょっと、恥ずかしからやめてよ!」


「ふふ。女の子の顔してるわ、篝ちゃん。」


「もう!」


私は窓の外を見る。


まだ病院が見える。


またお見舞いに伺います、フユトさん。



今日は、おやすみなさい。




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