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第75話

最初に録音が開始された場所は、私とフユトさんが意識を失くして数分経った後だった。


【アイリ、勝手なことをし過ぎるとフランチェスカ様が黙ってないわよ。】


『いいのよぉ。この二人は引き離されるんだから、お互いがお互いを居ないって思ってくれることが目的なのよぉ。』


【……アイリは創造主の座を狙っているの?】


『どうかしらねぇ。私は私のやり方で、目的を遂行するだけよぉ。』


【あなたはフランチェスカ様の人形なのよ?弁えなさい。】


『……そうだねぇ。そうかもしれないねぇ。でもね、今はまだ私の意識はある。私は私なのよぉ?あなたみたいな完全な人形じゃないわぁ。』


【……。】


あおいさんとアイリさんの会話が続く。


【アイリ、この二人を引き離す本当の目的は何?】


『あらぁ?あなたは何も聞かされてないのぉ?』


【ええ。だから聞いているわ。】


水無月みなづきはもうこの街にいらないわ。』


急に冷徹な言い方になるアイリさん。背筋が凍りそうなほど冷たい声だった。


『水無月ははるか昔から創造主となぜか親交が深い一族。人間を制御するべき存在が人間の世界の出来事に干渉するのはおかしいわ。』


【でも、フランチェスカ様も昔は水無月花音みなづきかのんと共に運命を変えてきた方よ?】


『分かってないなぁ。アオイは。』


【何をよ?】


(あおい) 美津菜(みつな)。』


【!!】


『そうよ?驚いた?あなたのお母様よ?あなたのお母様はフランチェスカ様と一緒に人間に加担したのよ?』


【嘘だ!そんな話聞いたことはない。】


『あなたは何も知らず人形でいればいいわ。フランチェスカ様も美津菜様も一度は人間に堕ちた。でも、フランチェスカ様だけは人間で居続ける事が出来なかった。』


『フランチェスカ様は今の創造主と何か取引をしたのよ。そして禁忌を犯したフランチェスカ様は正気ではなくなったわけ。』


【なぜあなたがそこまで知っているの?】


『どうしてあなたと同じタイミングでフランチェスカ様のしもべになったのに私はまだ感情があると思う?』


【確かにそこは気になっていたところよ。私はもう感情を表すことができない。】


『私は、僕になったフリをしているのよ。』


【何?】


『だめよぉ?ここは現実世界なんだから、非現実な事はこれ以上知らないほうがいいのよぉ?』


いきなりいつものお茶らけた素振りに戻る。


『どこで❝誰が聞いているか、分からないから❞ねぇ?』


【誰かいるの?】


『現代文明はすごいわね。』


『盗み聞きされていたと仮定して、ひとつだけ言うわぁ。』


『こんな平和で毎日が続く世界でも、確実に非現実な出来事は起きているのよぉ?誰も信じないような出来事が。』


『そして、それらは気付いてはいけないのよぉ?気付いたら、もう元の現実のままでいられなくなるわぁ。』


『だから……知らないフリをするのが一番よぉ?』


『ね?お譲様?』


「!?」


私とめぐりは顔を見合わせる。


「録音していることを知っていた?」


「今の口調だとそうなるわよね?それにかがりちゃん?これどういう事なのよ?」


「アイリさんって、もしかしてフランチェスカさんみたいに創造主に戻る為に何か取引をしてこんなことを独断でやっているっていうことかな?」


「篝ちゃん。」


「ん?」


「これは聞かなかったことにして、私たちはもう今のままで居ない?」


「廻……。」


「まだ頭が現実に追いついていないけど、これだけは言えるわ。」




「危険よ。」




危険。確かに、これは現実へ戻った私が、再び非現実へ誘われるようなものだ。また廻を失うかもしれない。でも、それ以前にフユトさんを今失っている。


「それでも私はフユトさんに会いたいの。」


「篝ちゃん!!あなたは水無月の未来も背負っているのよ!独断でそんな危険なことに首を突っ込むのは感心しないわ!」


「でも!!」


すると廻が私を抱きしめる。


「例え愛していたとしても、あなたの将来の相手にはなれないわ。ここで諦めて現実に戻るべきよ。」


「嫌。」


「篝ちゃん!」


「私は、フユトさんを愛してる!例え、自分の将来の相手になれないかもしれない!でも、私は今、あの人を愛してるの。好きなの。好きで好きで仕方ないの。」


「廻、私は、今、この気持ちは本物だって信じてるの。あの人のいない現実になったとしても、あの人と出会って恋をしたの。その事実だけは本物なの。」


「だったら!なんでこのデータが残っているのよ?おかしいでしょ?」


「それは……。」


分からない。フユトさんのデータだけ消えて、それ以外のものは引き継いでいる。


それが意味する意図が分からない。


アイリさんが不完全なのか?


それとも罠か?


「お願い廻!私に付いてきて!私は、フユトさんを取り戻したい!」


「篝ちゃんがここまで私に逆らうのって初めてね。」


「……そうかもね。」


「しょうがない人ね。篝ちゃんは。」


呆れた様子の廻。


「いいわ。そこまで言うなら私は篝ちゃんの信じる道に付き合うわ。ただし、一人で行動しちゃだめ。これだけは約束して。必ず私も一緒に行動するって。」


「……分かった。約束する。」


私と廻は再び布団の中に入り込む。


「あら?」


廻が不思議そうに私の顔を見る。


「どうしたの?」


「篝ちゃんって、胸、少し大きくなった?」


「ふぇっ!?」


予想外の話題を振られ、変な声が出てしまった。


「もしかして、未来でそのフユトっていう人といいことでもしてきたの?」


「し、してないよ!まだしてないからそういうことは!」


「まだ?」


「っ!!」


私は布団の中に潜り込む。


恥ずかしい。


私は潜り込んだついでに廻の胸を見る。


「うーん。廻ってバストいくつくらいだっけ?」


「う、うるさいわ。教えないわよ。」


場を和ませるためにわざと廻が言ったのかどうかは定かではないけど、私たちは笑いあった。


廻という最高の仲間を得て、私の中でのフユトさん救出作戦がはじまる。


と言っても何をどうすればいいのかなんて何一つ分からない。


「廻、モトキさんの事、ちょっと気になってるでしょ?」


「へっ!?そ、相馬そうま!?誰があんなやつ!」


「あれ?もう名前チェックしたんだ?廻ってば、手が早いわね。」


「う、うるさい!」


何も分からない事だらけだけど、しっかりとさっきの仕返しはできた。

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