第74話
「お、おはようございます。」
緊張しつつ控室に入ると、みんな挨拶を返してくれた。
しばらくは誰も会話もなく静かな時間が流れる。
入学式まであと30分。
園内放送で「間もなくリハーサルを行いますので、代表者は体育館へお集まりください。」とアナウンスされる。
「お譲様、参りましょう。」
静寂を打ち破る廻。
「ええ。」
控室を出て体育館へ向かう。
リハーサルは淡々と進み、そのまま入学式本番5分前になった。
「お譲様、お席に参りましょう。」
廻と隣同士で席に座る。
■■■■■■■
入学式も代表挨拶も無事に終わり、クラスルームへと移動する。
やっぱりフユトさんは居なかった。
でも、モトキさんは居る。
「廻。」
「何ですか?」
「モトキさんと少しお話ししたいです。」
「え?」
「いえ、ですからモトキさんと。」
「モトキさんって誰ですか?」
「あの人です。」
私はモトキさんを指さすと、それを見ていたクラス中のみんなに注目される。
「お譲様、ちょっといいですか?」
廊下に引っ張られる。
そして私の耳元に廻が迫る。
「ちょっと!どういうつもりなの!?」
「ど、どういうつもりって?」
「あんなところで男子を指名するなんて何を考えてるの!」
「あ……。」
「どうしたのよ?今日は何か変よ?」
「あのね廻。」
「何?」
「フユトさんはどこに行ったんだろう?覚えてない?」
「フユト?誰なのよ?」
廻はフユトさんの事を覚えていない。
「私の……彼氏。」
「は!?」
不意に大声になった廻は気まずそうに自分の口を押さえた。
「彼氏ってどういうこと?いつの間に彼氏ができたの?」
「嘘じゃないもん。」
「……篝ちゃん。本当に大丈夫?」
「私、正気だもん。」
「だもん星人か。」
「……むー。」
「篝ちゃん、ここ外だからちゃんとして。」
「あ。」
自分の部屋にいる感覚だった。危ない危ない。
「それより、フユトさんに会いたい。」
「だから、誰なのよフユトって。」
「……会いたい。」
「篝……ちゃん?」
「会いたいのぉ!どうして居ないの!どうしてそばに居てくれないの!?ウソつきぃ!」
私は廊下で泣き崩れる。
フユトさんの居ない時間に、ものすごく不安とストレスを感じ、それが爆発してしまう。
「篝ちゃん!大丈夫!?とりあえず保健室に行こう?」
涙が止まらない。
私はそのまま保健室へ移動する。
事情は廻が適当に考えてくれていて、すぐにベッドに横になれた。
保健室の先生は「ちょっと会議があるから」とだけ告げ、保健室を出て行った。
廻はパイプ椅子に腰かけている。
「どうしたの?篝ちゃん。落ち着いた?」
「うん、ごめんね。」
「何があったのよ?」
「廻、私は未来から戻って来たって言ったら信じる?」
「本当にどうしたの?」
「私は真面目だよ、廻。」
「……。」
私の顔を見た廻は、溜息をついた。
「信じないわ。」
「どうして?」
「もし仮にそうだったとしたら、この世界に篝ちゃんは二人存在することになるでしょ?もう一人はどこに行ったのよ?」
「……二人?」
「篝ちゃんは未来から今に来たってことは、現在で生活する篝ちゃんも存在するっていう理屈にならない?」
「言われてみれば。」
「悪い夢でも見たんじゃないの?」
「夢なんかじゃない。私は確かにフユトさんと出会って……恋をした。」
「……。」
「廻は、信じてくれないの?」
「信じてあげたいけど、居ない人を求められても半信半疑なのよ。」
「……そう。」
今度は廻が私のところに戻って、変わりにフユトさんがいなくなった。
どうして両方を望んではいけないのか?
そう思ってしまうくらい、今の私は辛い状況にあった。
フユトさん。どこに行ってしまったの。
「廻、一緒に入って。」
私はベッドをポンポンと叩く。
「は?何言ってんのよ!?」
「お願い。寂しいの。」
「もう。保健の先生が来たらすぐ出るからね。」
仕方ないという感じでベッドに入ってくる廻。
私は廻をぎゅっと抱きしめる。抱き枕みたいに。
「ちょっ!?どうしちゃったの?」
「制服……シワになっちゃったらごめんね。」
「そんなの気にしなくていいわよ。」
「篝ちゃん。無理しなくていいわ。私の胸を貸してあげるから、楽になっちゃいなさいよ。」
「ありがとう。」
私は廻の胸に顔をうずめて泣いた。
声も気にしないで、思いきり泣いた。
フユトさんの事を想いながら泣いた。
会いたい。
どこにいるの?
もう一度、あの時間をやり直したい。
ドクンッ。
心臓が大きな鼓動をうつ。
私は一つ重大な出来事を思い出した。
色々ありすぎて忘れてしまっていたけど、私はあの時、ボイスレコーダーのアプリをタイマー予約したはずだ。
私は起き上がり、スマートフォンを取り出す。
「篝ちゃん?どうしたの?」
急に起き上がった私に驚く廻をよそに、私はボイスレコーダーアプリをタップする。
「ある!!!」
あった!確かにあの時の日付でタイマー起動していた。
このアプリは端末容量が許す限り録音することができる。
私はあの日の録音記録の録音時間を見る。
1時間2分。
このくらいあれば、あの時の出来事やあの後にどうなったのか分かるのではないか?
私はドキドキしながら録音データをタップする。
「廻も、一緒に聞いてほしい。」
「何よ?」
「私が未来から来たっていう証拠と、フユトさんという存在のことを。」
「……篝ちゃん。」
ふと、私の手に重なる廻の手。
「廻……。」
「安心した?」
「もう、バカ。ありがとう。」
「一言多いわよ。ふふっ。」
緊張をほどいてくれた廻に感謝しつつ、私はワイヤレスイヤホンの右を、廻には左を手渡す。
誰が聞いているか分からないので少し警戒の意味を含めてイヤホンにした。
私はスマートフォンで音楽を聞くので、いつも持ち歩いている。
「それじゃ、再生するよ?」
「どうぞ。」
私は緊張しながら、「再生」ボタンをタップした。




