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第71話

かがりちゃんへ』


『このメッセージが届くころには、私は篝ちゃんの側に居ないと思います。』


『篝ちゃんが今も元気で生活しているのかすごく心配です。』


『昔からそこまで無茶はしない子だけど、思い詰めると誰にも相談も無しに行動してしまう癖があるのは知っていますか?』


『今はあなたの側に私は居ません。でも、きっと隣には早坂はやさか君が居てくれていると思います。』


『これを読んでいる今、隣に早坂君は居ますか?居たらちょっと一緒に読まないようにしてください。女の子同士の秘密というやつです。』


『これから先、篝ちゃんが道に迷った時、必ず早坂君に相談するようにしてください。』


『それでも早坂君に相談できないようなことがあるのなら、自分の心に問いかけてみてください。』


『あなたは、誰を信じますか?』


『自分が信じた道を歩んでください。篝ちゃんは財閥のご令嬢だから、いつかきっと悪い心を持った人が現れるでしょう。』


『そんな時、誰が一番信用できる人なのか考えてみてください。』


『早坂君ではありませんか?もしそうなら、答えは簡単です。早坂君を頼ってください。逆に早坂君が困っていたら頼りにされるように行動すればいいのです。』


めぐり……。」


廻らしくない敬語で書かれた文面。このタイミングで受信したのはきっと偶然だと思う。


でも、心に響く深い文章だった。


フユトさんには内緒にするように言われた取引。


私は考える。


誰を信じるか。


一度決めた決意が再び揺らぎそうになる。


廻はずるいよ。こんなタイミングで。


今でも廻は私の事を心配してくれている。


そんな弱い自分が恥ずかしい。もっと強くなりたい。


でも、それでも私は廻をもう一度救いたい。


廻と一緒に生活する時間を取り戻したい。



急にフユトさんに会いたくなった。



私はスマートフォンを取り出し、電話をかける。



数コールして、ディスプレイには呼び出し中から通話中と表示が切り替わる。


「篝さん?」


「フユトさん、ごめんなさい。今、よろしいですか?」


「うん。どうしたの?」


「……いえ、その。特に用事ということではないのですが、声が聞きたくて。」


違う。


本当は会いたい。


本心は言えなかった。


「何かあったの?」


心配そうなフユトさんの声。隣でモトキさんが「会いに行かなくていいのか?」と心配そうに話していた。


フランチェスカさんとの取引を話すべきか否か。


この葛藤のせいで上手く言葉が出せない。


もし、本当にこの取引がなくなってしまえば、廻は二度と救うことはできない。


「篝さん?」


しばらく無言の私に再度呼びかけるフユトさん。


「篝さん!」


「え?ごめんなさい。」


「今からそっちに行くよ。どこ?」


「……クラスルームです。」


「すぐ行く。」


そういうと通話は切断された。


「……フユトさん。」


お迎えが来るまではまだ時間はある。


気が付くと、クラスルームにはもう誰もいない。


みんな部活動や委員会、各々の放課後がはじまっていた。


「ふう。」


私は自分の席に座り、顔を机に伏せる。



ガラッ。



「!」


急にクラスルームの後ろ側のドアが開かれる。


フユトさんではなかった。同じクラスメイトの男子生徒。名前は覚えていない。


水無月みなづきさん、まだ居たんだ?」


「はい。」


私は顔を起こし、男子生徒の方を向く。


「一人でどうしたの?」


「いえ、なんでもありません。」


「クラスメイトなんだから敬語じゃなくていいよ?」


「ごめんなさい。敬語で話慣れていますので。」


「水無月さん、お譲様だけあってスタイルいいね。」


私の側に歩みよる男子生徒。


「あの?何か?」


「水無月さんの制服姿、すごく可愛いよ。スカートから覗く太ももといい、やっぱり育ちが違うね。」


「やめてください。」


嫌悪感。急に襲い掛かった感情。


「胸もそこそこあるし、タイプだなー。」


「やめて!それ以上近づかないで!」


私は胸元に手を置き、相手に気付かれないように緊急ボタンを押す準備をする。


「そこまでにしていただけますか!」


私の声を聞きつけ、あおいさんがクラスルームへ入ってくる。


「篝さまにそのようなことをすることは許されません。私でよろしければお相手しますが?」


「え?どういうことをしてくれるの?」


男子生徒の標的は葵さんへ向く。


「何をお望みですか?」


「僕はね、女の子の太ももが好きなんだよ。あとはどうすべきか分かるだろ?」


「……承知しました。」


そういうと葵さんは軽くスカートをめくり、男子生徒の前に立つ。


「私のでよければ好きなだけ触っても構いません。ですが、条件があります。」


「条件?」


「はい。篝さまのお体に触れないと約束してください。」


「……まあ、君もなかなかスタイルがいい。君で我慢してあげるよ。」


「葵さん!やめて!」


「お気になさらないでください。平気です。」


私の為に自分を犠牲にする葵さん。


葵さんのことは嫌いになりつつあっても同じ女の子としてこの状況は心が痛む。


「だめよ!これは命令よ!やめなさい!」


「……拒否します。」


「やめなさい!」


私は緊急ボタンを押そうと決意すると、再びドアが開かれる。


「篝さん!?」


「フユトさん!」


「早坂!」


男子生徒はさすがに人が来てはバツが悪いのか後ずさる。


「どうしたの?」


「い、いや、なんでもない!じゃあな!」


男子生徒はクラスルームを逃げるように去った。


「フユトさん!」


私はフユトさんに駆け寄る。


「平気?」


「はい。」


「そっちも大丈夫?」


葵さんは無言で何も答えず、再び廊下へと戻ろうとしていた。


「葵さん!」


「なんでしょうか?」


「ありがとう。」


「……礼には及びません。何かあればすぐお呼びください。」


一礼して廊下へと姿を消した。


「篝さん、何があったの?」


「!?」


私は思わずフユトさんに抱き付く。


フユトさんの香り。


「ど、どうしたの!?」


「今はしばらく、このままでいさせてもらえませんか?」


フユトさんの胸に顔をうずめる。


心臓の鼓動が聞こえ、フユトさんの体温が私を満たしてゆく。


私は、どうすればいいのか。


私の信じる道はどれか。


その答えを模索していた。

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